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僕とケット・シーの魔法学校物語  作者: らる鳥
四章 日々と成長

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 夏期休暇の終わりと共に、僕がクルーペ先生の研究室で行っていた魔法薬作りの仕事も、終わりとなった。

 新しい魔法薬の作り方は教わらなかったが、それでも錬金術の手際は随分と良くなったと思う。

 そして再び、シールロット先輩の研究室でのアルバイトが始まる。

 といっても今日は、彼女の研究室でお茶を飲みながら、夏期休暇にあった事の話をしてるだけだけれども。

 シャムも、お土産だと貰ったジャーキーを、前脚で掴んで齧り付いてた。


「うーん、なるほど。キリク君は、なかなかに面白い夏を過ごしてたんだね」

 シールロット先輩は、僕が渡したハーダス・クロスターの指輪を仔細まで観察しながら、そんな言葉を口にする。

 楽しい夏ではなく、面白い夏。

 それは僕が面白おかしく夏を過ごしたって話じゃなく、彼女にとって興味深いって意味だった。

 流石は先代の校長というべきか、彼が遺した指輪は、シールロット先輩の興味を大いに惹いたらしい。


「確かに魔法は掛かってる品だけど、錬金術じゃないかな。細工の溝や、内側に細かく彫られてる魔法陣の効果だねー。まぁ、先代の校長は黒鉄科の出身だから、当然かもね」

 ひとしきり観察を終えた彼女は、納得したように頷く。

 そして手の中で指輪を二度、三度、転がしてから、僕に返してくれた。

 僕は受け取った指輪を再び首からぶら下げて、シャツの中に仕舞い込む。


 シールロット先輩の見立ては、おおよそ僕も予想していた通りだった。

 ハーダス・クロスター、ハーダス先生も、このウィルダージェスト魔法学校の生徒だった時期があり、その時は黒鉄科に所属していたそうだ。

 彼が得意としたのは魔法陣。

 だったらこの指輪に仕掛けられた魔法も、魔法陣を用いた物だと推測するのは、至極当然の事だろう。


「それにしても、ハーダス・クロスターの遺産が見付かったなんて、バレたら大騒ぎになるかもね。……そういえば、キリク君は、昔は三つの科の争いが酷かったって話は、知ってる?」

 彼女がそう問うので、僕は頷く。

 確かそれを先代の校長だったハーダス先生が問題視し、初等部の間は科をわけないように学則を大きく変更した、つまり魔法学校の改革を行ったとされている。

 より正確には、科を分けない初等部の設立自体、要するに単なる一年生から五年生まであったのを、初等部で二年間と、高等部の三年間に分割したのも、ハーダス先生の改革によるものらしい。

 二年間、同じクラスで学び、同じ寮で生活をして互いを知れば、争い方を選ぶようになるだろうと、そう考えて。

 逆に言うと、それまでの争いは手段を選ばぬものだったという訳なのだが。


「どうしてそんなに争いが酷かったのかっていうと、理由があってね。これは今でもそうなんだけど、科に所属する生徒の成績、優れた行い、研究の成果が評価されて、その評価が高い科から順に、予算が優先的に配分されるの」

 あぁ……、それは、争えって言ってるようなものだった。

 恐らく理想は、競い合う事で互いを高め合う環境の構築だったのだろう。

 しかし科の掲げる思想の違いも相俟って、競い合いが争いに変わってしまったのだ。

 百点を取るのも、相手の点数を百点落とすのも、結果は同じなのだから。


「今は予算だけなんだけど、以前は禁書や古代の遺物の研究、使用権も、科の成績で優先順位が決まってたらしくて、卒業した魔法使いの間にも、この魔法学校の教師にも、出身した科による派閥があったって」

 シールロット先輩が口にする昔のウィルダージェスト魔法学校は、否、それだけじゃなく魔法使いの世界は、非常に人らしい醜さに満ちたものだった。

 魔法学校の卒業後、市井に紛れる魔法使いも少なくないが、同様に王侯貴族に仕えて権威を振るう魔法使いも少なくない。

 科の派閥争いは、魔法学校の枠を超えて、世界に影響を与えただろう。

 更に教師ですら、その派閥争いに加わってたなんて、控えめに言っても最悪だ。


 そう考えると、今のウィルダージェスト魔法学校は、過去と比べ物にならない程、素晴らしいと言える。

 マシになったのではなく、素晴らしいのだ。

 まず、何よりも、先生達が、熱心に僕らの事を考えてくれていた。


「その変化の切っ掛けを作ったのが、ハーダス・クロスターなの。間違いなく偉人だよね。それまでにも魔法学校の在り方を問題視した教師はいたんだろうけれど、自分も生徒の頃に争いに加わってた身だから、何も言えなかったんじゃないかな」

 あぁ、それはあると思う。

 薄々それがおかしいと感じていても、否定してしまうと、これまでの自分が歩んだ道を否定する事になる。

 いいや、それだけじゃない。

 同僚、先輩、多くの先達、全てに対して、歩んだ道は間違いなのだと指摘する事になってしまう。


「だけどハーダス・クロスターは、生徒の頃から争いには加わらず、ただ圧倒的な成果を示し続けて、教師になって、校長になって魔法学校を掌握して、初等部を一つに纏めて、卵寮も造ったの。あ、だからきっと、遺された仕掛けは卵寮にもあると思う」

 当然、ハーダス先生の時も、反発は物凄かった筈だ。

 既に学校を卒業してる、全ての魔法使いが敵に回ったかもしれない。

 けれどもハーダス先生はそれを成し、科の争いは、僕がこの半年であまり影響を感じなかった程度に、落ち着いている。


 星の知識。

 その言葉が、ちらりと頭をよぎる。

 ハーダス先生は、魔法学校に入った当初から、その在り方に間違いを感じていたのだろう。

 魔法学校は争う為の場ではなく、魔法を学び、魔法使いを養成する場所の筈だと。

 だから、生徒の頃からずっと改革を目指してたんじゃないかと、僕には不思議とそう思えた。


 ……しかし、卵寮か。

 言われてみれば、そうかもしれない。

 灯台下暗しってやつだろうか。

 本校舎ばかりを気にして、卵寮にも仕掛けが遺されてる可能性を、全く考えてなかった。


「ただ、今は探すのはやめたほうがいいかも。私を誘ってくれるのは嬉しいけれど、さっきも言ったけれど、ハーダス・クロスターは偉人で、その遺産が見付かったって知ったら、奪おうってする人はきっといるから、まずは奪われないように工夫しなきゃね」

 シールロット先輩の言葉に、僕は首を傾げる。

 それはもちろんそうなんだけれど、しかしこうして、人目に触れないように隠す以外に、何か方法があるんだろうか?


 すると彼女は悪戯っぽく笑って、僕にその方法を耳打ちする。

 でもそれは、ちょっと本当に大丈夫なのかと疑ってしまう方法で……。

 存在があまり知られてない物は盗み易いが、大っぴらに所有が知られて、それが広く認められれば、手出ししにくくなるって理屈は、そうなのかもしれないけれども。

 シールロット先輩曰く、カギとなるのは、後期の戦闘学の授業で行われるイベント、初等部の一年生と二年生の模擬戦になるらしい。



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