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僕とケット・シーの魔法学校物語  作者: らる鳥
三章 夏期休暇

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 クルーペ先生の研究室に行かない日に関しては、その過ごし方は様々だ。

 走り込みやトレーニングをしたり、魔法学校の周囲の森、その比較的だが安全とされる場所で、木に登ったり、虫を取ったり。

 その虫の名前が何で、どんな生態なのかを、図書館の本で調べたり。

 別に何にもなしで、図書館で好きに本を読んだりしてる。


 今日の気分は図書館だった。

 ウィルダージェスト魔法学校の本校舎、その二階の一室に、図書館はある。

 そう、別の建物って訳でもないのに、その広さ、蔵書量は、図書室ではなく、間違いなく図書館の規模なのだ。

 恐らく中の空間が、歪んで捻じれて広くなってるんだと思う。


 錬金術で用いる採取の鞄は、中の容量が明らかに普通の何倍もあるけれど、それを大規模に応用したものが、この図書館なんじゃないだろうか。

 そもそも、二階の扉から入るのに、中はどーんと天井が吹き抜けになってて、立ち並ぶ本棚はとても高く、何故か別に階段を下る地下室もある。

 普通に考えると、上の階と下の階は図書館に潰されてしまってる筈なのに、そうした話は聞いた事がない。


 入り口付近の本棚には、魔法と関係のない蔵書が多い。

 例えば国の歴史とか、普通の動物図鑑とか、お伽噺を纏めた本とか、そのような。


 そこからもう少し奥に進むと、魔法に関連する書物が並ぶスペースだ。

 動物図鑑は、魔法生物の図鑑へと変わり、お伽噺も魔法的に解釈された本になる。

 もちろん、錬金術に関わる本も沢山あった。

 魔法に関する書物が並ぶスペースも、基本的には入り口に近い方が、初等部向けで、奥に進めば高等部向けの本棚が増えて行く。


 更に奥には、禁書の本棚が並ぶそうで、僕はまだ近付かないようにと、図書館の司書、フィリータという名の、恐らく若いんだろう女性に言われてた。

 その言い付けは守ってるから、僕は禁書の本棚にはどんな本が眠ってるのか、そこから先、果てがないようにも見える図書館の奥には何があるのか、まだ知らない。

 この魔法学校で、駄目って言われる事は、大抵は真剣に危ないから。

 但しその危険を乗り越えられる知識と実力が身に付けば、やがては利用の許可も下りるだろう。


 地下室への階段は、フィリータが座ってる席の後ろにあって、これも許可を取らなければ立ち入りはできない。

 何でも、本ではない古代の遺物、資料等が収められているんだとか。

 高等部で黄金科に進めば、入る事があるかもしれないなぁ、くらいに思ってた。


「あら、ようこそ、猫の少年。今日は何の本をお探しでしょう。また虫の図鑑かしら?」

 司書のフィリータは、まさに図書館の主というべき存在で、彼女のところに赴けば、希望の本を出してくれる。

 特に目的がなく、気になる本を探したかったり、本に囲まれた空間を歩き回る事でインスピレーションを得たいなら、自分で本棚を見て回るのも悪くはないが、目的があるならフィリータに聞いた方が圧倒的に早い。

 今日は、一応は探して欲しい本があった。


「いえ、今日は、悪霊に関して調べたくって。何かいい本、ありますか?」

 僕が要望を出せば、フィリータは何度か頷き、杖を手に取り、二度手前にクッ、クッと振る。

 すると奥の本棚から、本が二冊飛んで来て、僕の前に重なった。

 タイトルは、一冊はそのままズバリ、『悪霊とは』。

 もう一冊は、『星の世界』と書いてある。


「一冊目が、ご希望通りに悪霊とは何かって書いてる本で、もう一冊は、直接的に悪霊を書いてる訳じゃないけれど、どうして悪霊が夜に動くのかが分かる本ね。他にも、娯楽の怖い物語とかあるけれど、そちらも興味はおあり?」

 悪戯っぽく、そう言うフィリータに、僕は慌てて首を横に振る。

 流石に、ホラー小説を読みに来た訳じゃない。


 それから僕は、フィリータにお決まりの注意事項、本を汚さない、破らない、勝手に持ち帰らない等と、恐らく僕専用の注意事項である、猫に本を汚させない、猫に本を破らせない等を聞いてから、本を読む為の席に着く。

 机の上の書見台に本を置き、ページを開けば、肩に乗ったシャムも、身を乗り出して覗き込む。


 この本によると、悪霊とは何かを説明するなら、魔法の一種であると答えるのが、最も正解に近いそうだ。

 魔法使いは、魂の力を用いて理を塗り替え、魔法を行使する。

 普通の人と、魔法使いを分けるのは、この魂の力の強さだろう。

 しかし普通の人にも、弱くとも、魂の力は存在していた。


 そしてこの普通の人にも存在してる魂の力が、何かの切っ掛けで強く発揮され、理に影響を与え、魔法を織り成す事はある。

 例えば、そう、非業の死を遂げた時とか。

 悪霊とは、そうして織り成された魔法である。

 世界に染み付いた、魂が焼けた跡、という言い方もできよう。


 ただ悪霊の織り成され方は、様々だ。

 非業の死を遂げた一人の力で悪霊が形成される事もあれば、大勢の民衆が彼、または彼女は悪霊になったのだと信じる事で、魔法が補強されるケースもある。

 戦場で大勢が死んだり、賊に村が虐殺されたりした場合、多くの魔法が折り重なって、一つの悪霊という魔法になる場合もあるらしい。


 多くの悪霊は、その誕生の経緯から、人を傷付けようとする事が非常に多い。

 また人を傷付け、苦しめ、殺せば、自分が誕生した時と同様の魔法が発生すると知っており、自らを補強する為にも、人を襲う。

 悪霊を倒す場合は、魔法を用いるのが最も効果的である。

 理を染めている悪霊という魔法を、別の魔法で塗り潰すのだ。


 もしも魔法を用いずに悪霊を倒す場合、新たな犠牲者を出させず、悪霊が存在するという噂を否定し、悪霊という魔法の補強を防ぐ。

 そうすれば次第に、理は修復され、悪霊という魔法は消えるだろう。

 悪霊は所詮、不完全な魔法でしかない。

 その証拠に、悪霊は夜にしか活動ができなかった。

 何故、夜なのかといえば、夜は星が空に輝き、異なる世界の理の影響を受け、世の理が揺らぐ時間帯だからである。


「……異なる世界か」

『悪霊とは』を読み終えた僕は、次に『星の世界』を書見台に置いた。

 この本によると、夜空に輝く星々には、全てに別の世界があるそうだ。

 それは灼熱の世界かもしれない。或いは凍れる世界かもしれない。

 生き物なんて何もいないかもしれないし、逆に想像も付かない何かが住んでる世界かもしれない。


 時折、この世界に、異なる世界からの来訪者があるという。

 尤も、世界の壁は肉体を保持したままでは越えられず、魂のみが光に乗ってやってくる。

 そうした魂がこの世界で肉体を持つと、異なる世界に生きた記憶、『星の知識』を持つ者が生まれるそうだ。


 もちろん、星の知識を持つ者の全てが邪悪という訳ではないが、彼らは往々にして独自の理で動き、世界に混乱を齎す事が少なくない。

 また世界の壁を越えられる程の魂は、当然ながら強い力を持っていて、その名は幾度も歴史に刻まれた。

 大破壊の魔法使い、ウィルペーニスト、星の灯という宗教の開祖、グリースター……。


「なぁ、キリク。おいって、顔色、悪いぞ。本の読み過ぎで気分が悪いなら、もう出よう」

 顔にべちべちと、いや、ぐにぐにぷにぷにと、柔らかな物が押し付けられて、耳元でシャムが囁くように、そう言ってる。

 ふと気付くと、寒気を覚えて、身体が震えた。

 あぁ、うん、確かに、気持ち悪い。

 今日は、このくらいにしよう。


 この本を読み切るのは、今の僕には無理だ。

 ウィルペーニストに、グリースター。

 その名前だけは何とか憶えて、僕はフィリータに本を返却し、図書館を後にする。


 異なる世界、星の知識……。

 僕も、もしかしたら、この世界に混乱を齎してしまうのだろうか。



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― 新着の感想 ―
[一言] 星の知識を持つものを狙い撃ちで学院に勧誘してる可能性あるかも。邪悪に向かわないように教育するために。
[一言] 「ネコと和解せよ」と説く宗教を開くかもしれない
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