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僕とケット・シーの魔法学校物語  作者: らる鳥
三章 夏期休暇

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 僕が向かった先は、錬金術の教室とは別にある、クルーペ先生の研究室だ。

 この研究室に入るにあたって、大切な事は三つある。


 一つ目は、知らない物には触らない事。

 この部屋は危険物だらけなので、自分が知らない、扱えない物には触らない。

 まぁこんなの錬金術だけじゃなくて、魔法に関わる事なら当たり前だけれども。

 例えば魔法生物も、見た目と裏腹に危険ってケースは非常に多いし。


 二つ目は、魔法の発動体、僕の場合は杖を常に身に付けておく事。

 別に手に握ってなくても、咄嗟に鎧の魔法を使って、自分の身くらいは守れるように、帯びておく必要がある。

 理由はもちろん、危険だからだ。


 三つ目は、クルーペ先生の言い付けにはちゃんと従う事。

 これも部屋の中が危険で、取り扱いの繊細な作業をしてるからって理由だった。


 錬金術の授業の時は、クルーペ先生は解説や、生徒達の様子を見守る事に全力を注いでる。

 だから何があっても守れるからと、ある程度の自由を許すのだろう。

 当然ながら、魔法薬という、貴重品にして危険物を扱う授業だから、ふざける事は許されないが。

 しかしこのクルーペ先生の研究室では、彼女は自分の作業にこそ集中している。

 その邪魔になるような、安全に気を払ってあげなければならないような生徒は、立ち入る事は許されないのだ。


 僕は夏期休暇の間は、週に三日、クルーペ先生の研究室で、手伝いと、魔法薬の作成をする予定だった。

 だがその時間、僕はシャムを連れ歩かない。

 恐らく、クルーペ先生はシャムの正体に気付いてるから、入室を断りはしないだろうけれども、それをわからぬ人が見れば、この研究室の危険性を低く見積もってしまうかもしれないから。

 それは僕にとってのけじめである。


 尤も、僕はちょっと寂しいのに、シャムは自由な時間ができたとばかりにのびのびと、あちらこちらを探索していた。

 何時の間にか、マダム・グローゼルの許可まで取って。

 どうやらこの本校舎には、ある程度の魔法の実力がないと気付かない、入れないようにされてる場所が幾つもあって、シャムはそれが気になっていたらしい。

 正直、僕は全く気付かなかったのに、流石は妖精、ケット・シーというべきか。


 もちろん魔法学校側も、理由があって魔法で隠蔽してるのだから、どこでも好き勝手に入って何をしてもいいって訳じゃなくて、シャムはマダム・グローゼルから、居場所を報せ、尚且つ身を守ってくれる鈴を身に付ける事を条件に、探索を許されている。

 猫に鈴って、そんな話があったなぁって、ふと思い出す。

 確かその話の鈴も、猫の居場所を報せる為だったけれど、誰にもそんなの付けられないってオチだった筈だ。

 その話に登場するのは、猫を怖がる鼠だったから。

 でも、マダム・グローゼルは人だから、恐れもせずに鈴を付けた。

 単なる猫じゃなくて、ケット・シーであるシャムに。

 さて、この事に何らかの意味を感じてしまうのは、僕の考え過ぎだろうか。



「先生、クルーペ先生、入ります」

 研究室の扉をノックし、開けて、中に踏み込む。

 各種、素材の匂いが鼻を突く。

 扉の内と外は、全く別の世界だ。

 何が違うって、何度か述べてるように、危険度が。

 僕の身は緊張感に包まれ、自然と背筋も伸びる。


 返事はなかったが、クルーペ先生は中にいて、既に魔法薬の作成に取り掛かってた。

 そうだろうとは思ってたので、僕も気にする事なく、自分の作業スペースに向かう。


 クルーペ先生の研究室は、教室と同じくらいの広さがある。

 時に僕のような生徒に使わせる為だろうけれど、それでも広い。

 僕に貸し出される作業スペースを見ると、既に素材が用意されてて、作るべき魔法薬の書かれたメモがあった。

 どうやら今日は、回復の魔法薬と、美声の魔法薬を、幾つかずつ作ればいいらしい。

 あぁ、この美声の魔法薬は、鶏用じゃなくて、人間用である。


 まぁ美声といっても、元々の声を、大きく遠くまで響くようにする魔法薬だ。

 本来の声と全く別の声を出せるようになる魔法薬もあるが、僕はまだ、その作り方は習っていない。

 シールロット先輩が作ってるのを見た事はあるから、何となくはわかるんだけれど、錬金術で勝手な真似をしようって思う程、僕は無謀じゃないから。

 もちろんいずれは、自分で新しい魔法薬、未知の物を手探りで作ってみたいって思いはあるが、それはまだまだ先の話だ。


 美声の魔法薬を、喉飴にするくらいなら、今でもできそうな気はするけれど……。

 いやいや、それもまずは与えられた仕事を全てこなして、クルーペ先生に計画を話して、許可を得た上でやるべきだろう。


 魔法で出した水で手を洗い、それから赤苦草を包丁で刻む。

 喉に関わる魔法薬には、この赤苦草をよく使う。

 この素材を扱うコツは、温度管理。

 赤苦草の薬効は、熱ですぐに飛んでしまう。

 この薬効成分はとても苦く、熱で飛んでしまった場合はそれが感じられなくなるので、失敗はわかり易い。


 魔法で出した水に、刻んだ赤苦草と、黒柳の木の皮を加え、火にかける。

 さっきも述べた通り、赤苦草の薬効は熱で飛ぶから、慎重に。

 そしてここからが、錬金術の魔法たる所以、魂の力を注ぐ作業だ。

 溶液に、望む効果が宿る事を、或いは素材の力が引き出されるイメージを行いながら、魔法と同じ要領で、魂の力を注ぎ込む。


 それから、火から遠ざけ、漉し器を使って赤苦草と黒柳の木の皮を取り除きつつ、瓶に溶液を移す。

 十分に冷めたら、栓をして、美声の魔法薬の完成だ。

 この美声の魔法薬は、先日見た、王都の劇場で使われるらしい。

 必要なのは、七本か。

 残り六本、まずは美声の魔法薬から、片付けよう。


「すまない、助手君。ちょっと手伝いが欲しいんだ」

 暫く作成に専念してると、クルーペ先生からのお呼びがかかる。

 僕は火を止め、その作成を中断して、クルーペ先生の下へ向かう。

 途中で火を止めてしまったから、一回分の素材は無駄になった。

 けれども、それでもクルーペ先生の用を優先させるのが、ここを使う際のルールである。


 さて、一体どんな手伝いをさせられるのだろう。

 もちろん、無駄になった素材を惜しむ気持ちは皆無じゃないが、それよりも今から何が見られるのか、そちらの方に心が躍った。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] 説明の合間に会話を入れてほしいです。 友達や先生の性格、話し方がつかめず入り込みにくいです。
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