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僕とケット・シーの魔法学校物語  作者: らる鳥
三章 夏期休暇

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「いっち、にっ、さん、しっ」


 夏期休暇に入ると、多くの生徒が帰郷して、魔法学校は閑散とした印象になった。

 ちなみにポータス王国以外に実家がある生徒は、各国の首都までは先生達が魔法で送り迎えをしてくれるそうだ。

 そこから先は、馬車なり何なりで実家に帰り、期日に再び首都に集まれば、先生達が纏めてウィルダージェスト魔法学校に連れ帰ってくれる。

 高等部には、自分で移動の魔法を扱える生徒もいるのだろうけれど、各国の首都までの先生達による送り迎えは、長期休暇のルールらしい。


 まぁ、ジェスタ大森林には首都なんてないから、僕には全く関係のない話なんだけれども。

 しかし、移動の魔法か。

 旅の扉の魔法は、確かシールロット先輩が、高等部になったばかりでも使いこなしてたから、恐らく初等部の二年生の間に覚えたんだろう。

 僕にも、同じ事ができるだろうか。

 移動の魔法はどれも高度で、高等部の生徒でも、いや、卒業した大人の魔法使いでも、使えない人が多いと聞く。


「ごー、ろっく、しっち、はっち」


 ……シールロット先輩なら、『私にできたんだから、キリク君にもできるよ』って言ってくれそうだ。

 でも彼女も、今は魔法学校を離れて、生まれ育った孤児院に帰ってる。

 確か、ポータス王国の辺境の町って言っていた。

 ジェスタ大森林にほど近い場所で、彷徨い出た獣や魔法生物による被害が多く、孤児も出易い場所なんだとか。


 僕にとってジェスタ大森林は、決して怖い場所ではないのだけれど、多くの人にとってはそうじゃない。

 シールロット先輩には、僕がジェスタ大森林から来た事は話してしまったし、彼女はそれを受け入れてくれたけれど、人によっては不快感を示される場合もあるだろう。

 寧ろ、シールロット先輩の懐が、深かっただけである。


「にー、にっ、さん、しっ」


 だから僕は、自分の出身地に関しては、あまり話さないようにしようと、改めて思った。

 余程に何でも話して共有したい相手や、話さなきゃならない事情、状況ができてしまったら、別だけれど。

 そうでないなら、出身はポータス王国の辺境の森って、以前に僕自身が勘違いしていたままに、問われても騙ろうと思ってる。


「ねぇ、最近毎朝それしてるけど、一体何なのさ」

 掛け声に合わせて身体を動かし、捩じっていると、ふと、シャムが呆れたような目でこっちを見てて、そう問う。

 何って、そりゃあ、……体操?

 多分、そうとしか言いようがない。


「いや、体操は見てわかるんだけど、急にどうしたのって事」

 あぁ、なるほど、これをしてる理由の方か。

 この前、ギュネス先生に負けたから、次に同様の試験があったら、今度こそぶちのめしてやろうと思ったから、身体を動かすようにしてるだけだ。

 走り込みや、トレーニングだって、ちょっと真面目にするようになった。

 魔法の実力が、基礎呪文学の試験結果でバレて合わせられるなら、身体能力を上げて隠しておいて、相手の想定を上回ってぶちのめすより他にない。

 後はやっぱり、夏休みの朝だし、ね。



 夏期休暇でも、寮に留まれば朝には洗濯物の回収に、魔法人形のジェシーさんがやって来て、食堂に行けば食事が食べられる。

 非常に恵まれた環境だった。

 なので各国の首都までの送り迎えはあっても、そこから先の移動の手間を考えると、そのまま魔法学校に留まる生徒も決して皆無じゃない。

 実家が裕福でなければ、尚更だ。


「おはよ~」

 卵寮の食堂に行くと、クレイが食事を取ってたので、挨拶をしてから前の席に座る。

 彼は口の中の物を飲み込んでから、

「ん、おはよ」

 挨拶を返してくれて、またパンに齧り付く。


 クレイも学校に留まった一人で、やはり彼の実家も決して裕福ではないという。

 真面目なクレイは、周囲が休みで実家に帰ってる今こそ、更に成績を伸ばす時だ、なんて風に言っていた。

 そりゃあ当然、強がりは多少あるんだろうけれど、口にした言葉を嘘にはしない。

 尤も、彼が本当に抜かしたいと思ってる相手は、同じく学校に留まってる僕なんだけれど。


「今日は、先輩との仕事?」

 問えば、クレイは一つ頷いた。

 彼が選んだアルバイトは、黄金科の先輩の、資料の整理の手伝いだ。

 もちろんそれは最初の話で、今がどうなのかは聞いてない。

 確か、高等部の二年の先輩らしいけれど、その人も、魔法学校に留まってるそうで、僕にはそれが、ちょっと羨ましかったりする。


「キリクは、クルーペ先生のところで魔法薬を作るんでしょ。……どんどん先に行かれてるなぁ」

 そんな風に、少し悔しそうに、クレイは言う。

 確かに僕は、前期の試験の結果、クルーペ先生の手伝いをしながらという条件ではあるが、夏期休暇の間、魔法薬を作るという仕事を手に入れた。

 ただ作る魔法薬は、前期で習った物に限られるから、そりゃあ上達はするけれど、新たな知識が増える訳じゃない。

 クルーペ先生の手伝いは、意外に勉強になる事が多いけれど、これが直接成績に結び付くかといえば、それは否だと思う。


 そう言えば以前、クレイとは、鶏を綺麗な声で鳴かせる魔法薬の使い道なんてあるのかって、笑い話をした事があったけれど、アレには重要な使い道があると知れたのは、大きな学びだ。

 使い道は、当然ながら鶏を綺麗な声で鳴かせる事なんだけど、その声は、夜に徘徊する悪霊を退ける効果があるらしい。

 時を告げる鶏の声が澄んで響き渡ると、悪霊は朝が来たと勘違いして逃げ惑う。

 それが魔法薬の効果で引き出された物なら、効果は抜群なんだとか。

 なので鶏を綺麗な声で鳴かせる魔法薬は、悪霊払いを仕事とする人に、常に需要があるそうだ。

 まぁ、悪霊なんて言われても、そんなのいるなんて、怖いなぁ……、としか思えないが。


 さて、食事を平らげて、お茶を飲みながら少しのんびりくつろげば、そろそろクルーペ先生のところに行く時間が近付いてくる。

 クレイも自分の先輩のところにアルバイトへ向かった。

 僕も一日、頑張ろうか。


3章です

なーつーやーすーみー

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― 新着の感想 ―
[一言] 自分の学んだ事が実戦出来るって、直接的な成績には繋がらないけれど次の学びの理解が早くなるから結局は成績アップに繋がるんだけど その辺に気づかないのは前世の経験があるとは言えども、現世が幼い…
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