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僕とケット・シーの魔法学校物語  作者: らる鳥
十七章 僕の生き方

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 その日、魔法学校の講堂に集まったのは、邪竜の谷に向かうことを希望した生徒達。

 ただ僕が思っていたよりも、参加者はずっと少なかった。

 初等部は参加資格がないから誰もいないのは当たり前だが、高等部の一年は僕を除けば二人しかいない。

 しかしその二人は、どちらも僕のよく知った顔、もっと言ってしまえば友人である。


 そのうちの一人は、ガナムラ・カイトス。

 高等部に上がってからはあまり関わる機会がなかったけれど、戦闘学を専攻して黒鉄科に進んだ友人だ。

 サウスバッチ共和国の船乗りの家に生まれた彼は、世情に明るく、ついでに言えば性格も陽気。

 初等部の頃から戦闘は得意としてたから、いざという時には頼れる奴だった。


 もう一人の友人は、シズゥ・ウィルパ。

 こちらも黒鉄科に進んだ友人だが、専攻は魔法陣である。

 僕の友人の中ではパトラと特に仲が良くて、彼女は参加しないと言ってたから、てっきりシズゥも不参加だと思っていたので、ちょっと意外だ。

 まぁ、どうして参加したのかは、後で聞いてみればいいか。


 高等部の二年生の参加者は五人で、こちらにも知った顔が幾つか混じる。

 尤もその中で親しいと言えるのは、戦術同好会での縁があるスパーリグくらいだろう。

 だが二年生の参加者の中で気になるのは、そのスパーリグと親し気に話すキーネッツだった。


 キーネッツは、今の高等部の二年生で当たり枠で、……或いは今の魔法学校で最も強いかもしれない生徒だ。

 三年生の当たり枠はシールロット先輩だったけれど、彼女は戦いがあまり得手じゃなかったし、何よりも今はもう東方への留学で魔法学校にはいないから。

 あぁ、そういえばキーネッツも、スパーリグと同じ黒鉄科だっけ。

 なんだか……、いや、危険な場所に赴くのだから当然なのかもしれないけれど、黒鉄科の生徒が多い。


 そして三年生の参加者は、十五人だった。

 大体一学年が毎年多少は前後するが三十くらいだから、およそ半分程が参加してる事になる。

 一年は単純に実力と自信が不足していて、二年は実力が足りても忙しいからと自分の研究等を優先するが、三年になるとこれが最後の機会だからと、時間を作って参加する者も増えるといったところだろうか。


 他には高等部じゃないけれど、東方からの留学生であるイチヨウも参加を希望したと聞いたが、学校側に断られてしまったそうだ。

 なんでもウィルダージェスト同盟に加わってる国ならともかく、その外側の国、パージェット帝国へと入国させるのは、色々と難しいからだとか。

 実力の問題ではなく政治的な事だと言われると、流石のイチヨウも素直に諦めざるを得ない。

 まぁ確かに、ジェスタ大森林は人の手の入らぬ場所だから、どこの人間が踏み込もうが文句は言われず、ただ等しく魔法生物が襲ってくるだけだが、邪竜の谷は、変容してしまった今でも、パージェット帝国の国土であった。

 もっと言えば、ウィルダージェスト同盟の国々が邪竜の谷を管理したくないから、滅びかけたパージェット帝国を何とか延命し、その管理責任を押し付けてるというのが正解なんじゃないかと、僕は思ってる。


「皆さん、少し話を聞いてください。これから向かう邪竜の谷がどういう場所なのかは、既にご存じの方が多いでしょう。私にとって、実に縁の深い場所です」

 講堂の壇上から皆に注意を促したのは、ウィルダージェスト魔法学校の校長であるマダム・グローゼル。

 彼女の声は静かだが、しかし不思議とよく響き、講堂の隅々にまで届く。

 それまで思い思いに話をしていた生徒達も、声を聴いた途端にぴたりと口を閉ざして、視線を壇上へと向けた。


 流石はこの学校で、……いや、世の魔法使い達から、その敬意を一身に集めるマダム・グローゼルだ。

 邪竜の谷は、そんな彼女の名前が大きく広がった竜討伐の舞台であった場所。


「ですので谷の中程までは、私が案内します。しかしそこから奥へ、中心へと辿り着けるかは、皆さん次第になるでしょう」

 魔法学校の校長となれば、下手をすれば各国の王よりも影響力があるし、軽々しくは動けない立場の筈。

 だからマダム・グローゼルが直接案内してくれるとなると、これはとても贅沢な話なんだろう。

 逆に言えばそれほどに、邪竜の谷は魔法学校にとって重要な場所って事でもある。


「侵入者を拒む魔法の仕掛けがありますし、また狂暴な魔法生物も生息している危険な場所です。皆さんの身の安全に関してはこちらでも幾つか手を打ちますが、真に自分の身を守れるのは、自分だけだと考えて、状況によっては速やかにリタイアを選んでください。無理をすれば命を落とす事も、十分にあり得ます」

 この学校の行事が危険なのは何時もの事だが、それでもマダム・グローゼルが直々に忠告する程となれば、皆の表情にも緊張感が宿った。


 僕としては、魔法生物と戦う分には、余程の大物じゃなければあまり危険は感じないんだけれど、魔法の仕掛けは厄介そうだなぁって思う。

 何故ならその魔法の仕掛けは、狂暴な魔法生物も生息しているってだけじゃ守りが足りないと判断されて設置された物だろうから。

 当然ながら邪竜の谷に巣食う魔法生物を相手に勝てる何かを対象に、仕掛けられている筈だ。


 そして守りを行う必要があるって事は、悪竜の封印を解こうと狙う誰かも、存在してる可能性があった。

 例えば、やっぱりすぐに思い浮かぶのは星の灯辺りだけれど、連中が悪竜を欲するとか、あるんだろうか?

 僕はいまいち、星の灯のやりたい事が掴めていない。

 星の世界の再現をしたいというのは聞いたけれども、それと竜は何の関係もない筈だ。

 まさか自分達の理想の世界を実現する為に、一度今の世界を竜の力で潰そうとしてるとか、そこまでする程に狂ってるとも考えたくはないし。


「それでは皆さん、お話はこれくらいにして、そろそろ移動をしましょうか。現地は少し遠い場所ですから、転移の魔法が届かない子も多いでしょう。持って行くもの等があるのでしたら、今のうちに準備をしておいてくださいね」






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