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僕とケット・シーの魔法学校物語  作者: らる鳥
十五章 小さな魔法生物

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 朝、ピチピチ、ピシュピシュという鳴き声で目を覚ますと、サイドテーブルに置いた魔法の鞄から、フクロフクロウの雛が顔を出して鳴いていた。

 どうやら腹を空かせて、朝食をくれと訴えているらしい。


「おはようぴー太、それからシャムも、おはよう」

 僕はフクロフクロウの雛と、それから枕元で丸まっていたシャムに、朝の挨拶を告げた。

 雛の名は、僕はぴー太と呼んでいる。

 ……えっと、僕は、というのは、他に名付けに参加したイチヨウは兵太と呼ぶし、パトラはピーターと呼ぶからだ。

 殆ど同じような名前なんだけれど、彼らはそれが呼び易いらしい。


 僕は物を冷蔵して保管できる魔法の道具、……まぁ、冷蔵庫から生肉を取り出し、ナイフで削いでぴー太の口元に持っていく。

 するとぴー太は肉片を嘴で突いて、器用にそれを口の中に運ぶ。

 ぴー太の餌は、朝と夕はこうして食べ易くした生肉を与え、昼はシャムがどこからか獲ってくる昆虫を与えてる。


 僕はぴー太を引き取った責任があるから当然だけれど、シャムもまた、小さな雛の面倒をよく見てくれていた。

 こう、やっぱりシャムって、面倒見がいい性格なんだろう。

 何しろ、ケット・シーの村を出て、僕と一緒に魔法学校に来てくれるくらいなのだから。


 朝からぴー太の食欲は旺盛だ。

 与える肉を飲み込んでは、次を寄こせと鳴く。

 まぁ、食欲旺盛で何よりである。

 食が細くて弱るより、沢山食べて大きくなってくれた方が、心配が要らなくて有難い。

 魔法生物であっても、やっぱり小さな子供は死が身近だから。


「今日はぴー太をどうするの?」

 ベッドの上で大きく欠伸を一つして、シャムが僕に問う。

 この質問は、今日は僕かパトラのどちらがぴー太の面倒を見るのかって意味だった。


 フクロフクロウの雛は、多くの時間を親の袋の中で過ごし、育つ。

 親を失ったぴー太も、袋の替わりに僕が作った魔法の鞄の中にいるのが殆どだ。

 外に出てくるのは餌の時か、僕らと触れ合う時くらいである。


 しかしそれでも小さな雛であるぴー太の傍には、誰かが必ず付いてなきゃならない。

 具体的には、僕かパトラが。

 実はイチヨウも、少しは面倒を見るのを手伝ってくれるんだけれど、流石に留学生の彼に一日預けっぱなしにする訳にはいかないから。

 僕が魔法の鞄を持ち込めない授業を受ける日等は、パトラが面倒を見てくれていた。


 いや、僕の都合が悪くなくとも、パトラが望んで面倒を見てくれる日もある。

 どうやら彼女はぴー太の世話をすると同時に、研究対象にもする心算がある様子。

 尤も研究対象といっても、ぴー太を素材とみてる訳でも、実験対象としている訳でもなくて、雛から愛情を注いで育てる事で人の言葉を持たぬ魔法生物とも、意思疎通ができないかと試みるらしい。

 意思疎通ができれば、言葉を持たぬ魔法生物とも、契約が交わせるんじゃないかと考えて。


 何というか、実にパトラらしい研究だなぁって、そう思う。

 結果が出るまでに時間が掛かり、しかも不可能だったで終わる可能性の方がずっと高いけれど、それでも間違いなく彼女のやりたいが詰まってる研究内容だ。


 恐らくパトラは、魔法学校に認められる事をあまり重視していない。

 もちろん進級、卒業はしなきゃならないから、ある程度の成果は出していかなきゃならないけれど、それ以上を求める様子がなかった。

 それは既に、彼女の中で自分がこうなりたいって魔法使いの姿が、しっかりあるからじゃないだろうか。


 僕の場合は、新しい何かを作り、魔法学校に功績として認められて何かを得、次のステップに進むって事を重視してるから、パトラの魔法使いとしての生き方は、この研究に対する姿勢一つとっても大きく異なる。

 まぁ、僕の選んだ錬金術がそういう分野だからってのもあるとは思うけれども。

 なので僕とパトラの魔法使いとしての生き方は、研究への姿勢一つとっても、大きく異なるものだった。


 でも、生き方は違っても、彼女が自分の夢を叶えられたらいいなとは思ってる。

 鳥と話せる能力を持った妖精もいるから、その魔法を人間の魔法に落とし込むって方法もあるけれども。

 あぁ、僕とシールロット先輩が作った、鳥の言葉がわかる魔法薬を使っても良いか。


「今日はパトラがあいてるって言ってたし、僕は毒の授業があるから、向こうで預かって貰うよ」

 錬金術の4、毒に関する授業には、ぴー太を連れて行く事はできない。

 僕が最大限の注意を払っても、周囲もそうであるとは限らないからだ。

 毒に関する授業では、扱いに失敗した毒が周囲に影響を及ぼす場合も、皆無じゃなかった。


 僕は自分の身は魔法で守れるし、多少の毒ならすぐに薬で癒せるから、授業を受ける事ができている。

 しかしぴー太はそうじゃない。

 仮に僕なら多少痺れる程度の毒だって、身体の小さなぴー太には致死量となるだろう。

 そして命が失われてしまえば、僕の知る魔法薬では取り戻せないのだ。


 ……僕の知るって付けたのは、その命に関する魔法は伝説としては語られていて、確実に存在しないとは言い切れないから。

 古代魔法を研究する人の中には、大破壊前にはその魔法が実際に在ったと信じて、追い求めている人もいた。


「ふぅん、じゃあ昼の餌はパトラのところに持ってくよ」

 シャムがぴー太の所在を問うたのは、昼の餌の届け先を気にしたらしい。

 何というか、繰り返しになるけれど本当にシャムは面倒見が良くて、ぴー太の事を気にしてるんだなぁと思うと、僕はとても嬉しくなる。

 その気持ちのままに撫でようと手を伸ばすと、嫌そうにべしっと叩き落されてはしまうけれども。




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