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僕とケット・シーの魔法学校物語  作者: らる鳥
十五章 小さな魔法生物

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 地下の闘技場で向かい合い、一礼をしてから杖を構える。

 僕と相対するのは戦術同好会に所属する高等部の二年生、スパーリグ。

 今日の立会人はギュネス先生で、観客は会長のバーリーを始めとする戦術同好会の面々と、それからイチヨウだった。


 ルールは魔法の発動体は複数使って良いが、魔法の道具や魔法薬、魔法陣、契約した魔法生物の使用はなし。

 当然ながら毒を使うのは以ての外の、己の身と魔法のみで戦うルールだ。

 高等部の生徒の間で行われる模擬戦としては、ベーシックなスタイルだろう。


 僕が思うに、このルールは一見わかり易く公平だけれど、本当は水銀科の生徒にとても不利なものである。

 何故なら、使用を禁じられた部分に最も力を注いでいるのが、水銀科の生徒だから。


 例えば黄金科の生徒は、契約した魔法生物は使えずとも、学んだ古代魔法の使用は禁じられない。

 まぁ、模擬戦なんかで古代魔法という己の切り札を見せるかどうかはさておき、使える手札は多いだろう。

 実際に、今は既に卒業し、大学に進んだというアレイシアは、己で再発見した古代魔法を使い、一時はこの魔法学校で最も実力のある魔法使いだと言われてた。

 己の強さに貪欲だった彼女は、去年の戦術同好会の会長でもあったそうだ。


 それ故、アレイシアの弟子に近い形だったクレイは、実は密かに戦術同好会から注目をされている。

 彼女の古代魔法を受け継いでるんじゃないかとか、そんな風に。

 ただ僕は、クレイが戦術同好会に加わる事は、多分ないんじゃないかと思ってた。

 彼とは、初等部の頃程は頻繁に話さなくなってしまったが、今でもちゃんと友人だ。

 だからわかるのだけれど、今のクレイは古代魔法の研究に、興味の殆どが向いてるから。


 もしも彼が戦術同好会に加わる事があるとすれば、それこそ初等部の頃のように、僕と競う為だろう。


 ……と、話が逸れたが、黄金科の生徒は身一つで使える古代魔法が使えるから、少し有利って話である。

 そして黒鉄科の生徒は、魔法陣と並んで戦闘学に力を入れているのだから、当然ながらこのルールだと有利だろう。

 もちろん魔法陣を専攻して力を入れてる生徒は、それを封じられれば不利にはなるんだろうけれど、個人としてではなく科として見るなら、このルールで最も有利なのは黒鉄科だ。


 それに引き換え水銀科の場合は、高等部に進んでから得た力の殆どがルールに封じられてしまう。

 僕はシールロット先輩に、錬金術を用いた戦い方とは即ち準備だと教えられた。

 しかしその事前準備の殆どが封じられるのだから、このルールは公平なようでありながら、酷く水銀科に不利なのだ。


 恐らくこのルールは、水銀科の生徒が殆ど模擬戦に興味を示さないから、黄金科や黒鉄科の生徒の間で決まり、頻繁に用いられるようになったのだろう。

 またそのルールは、水銀科の生徒が見れば自分にとって著しく不利だと一目でわかるから、余計に模擬戦への興味を失くす。

 なので異議を唱えられる事がなく、ベーシックなスタイルとして定着したんじゃないだろうか。


 尤も、だからといって僕が負けると決まった訳じゃない。

 水銀科の生徒にとって不利なルールなのは確かだけれど、素の力を試すルールとしては、それ以外の全てを縛るというのは、わかり易く公平だ。

 事前準備の殆どは封じられたけれど、一つだけ、残され許された準備がある。

 それは自分自身の素の力を磨く事。

 僕は、その素の力が元々他よりも強く、また強いからこそ、それを磨くのが苦ではなかった。

 故に僕は、準備の一環として自分を磨いて、初等部の頃よりも素の力だけでもずっと強い。



 飛来する幾つもの火球を展開した盾の魔法を側面からぶつけて打ち払っていく。

 盾の魔法を使いながらも相手の魔法を真正面から受け止めないのは、炎と爆発に視界を塞がれないようにする為。

 スパーリグが放ったのは受け止められる事が前提の、威力よりも爆発で舞い散る炎を派手にした牽制用の魔法だから。


 お互いに、次に放つ魔法がバレる詠唱は使わない。

 使われる魔法の予測は、その対処を容易にする。

 今、スパーリグが仕掛けて来てるのは、相手の処理能力を削り合う消耗戦だった。

 相手の魔法の対処が一秒早くなれば、反撃の魔法を放つのもまた一秒早くなり、それが積み重なれば相手の処理能力は飽和する。

 だから詠唱を使う事があるとすれば、相手を押し込み始めて、使う魔法を察せられようが、威力と正確さで押し切る場合だ。


 一体どうしてスパーリグが僕に模擬戦を申し込んだのか。

 恐らくそれは、自分を倒したイチヨウに、僕が勝利したからだろう。


 ではどうして僕がその模擬戦を受けたのか。

 それは今日、僕が戦術同好会を訪れたのは、スパーリグからイチヨウに、魔法生物狩りの仕事を紹介してやって欲しいと頼む為だから。

 錬金術で稼げる僕は、そちらの仕事の伝手がない。

 故にイチヨウの実力をはっきりと知っていて、そちらの仕事に詳しいであろうスパーリグに、仕事の紹介を頼んだのだ。

 そしてスパーリグから出された条件が、僕が彼との模擬戦を受ける事だった。


 まぁ、今回の模擬戦は、勝ち負けに関してはそんなに重要じゃない。

 受けた時点で、スパーリグからイチヨウに仕事を紹介して貰う条件は満たしてた。

 なのでこのままチマチマと消耗戦に付き合って押し勝つよりも、スパーリグにも観客にも、面白い物を見せてやろう。


 次の攻撃が来るタイミングで、僕は指輪の発動体を使って、短距離を転移する魔法を使用する。

 但しその使い方は、距離を取ったり死角に回り込む為じゃなくて、距離を詰めてスパーリグの懐に飛び込む為。


 イチヨウならともかく、まさか僕が飛び込んでくるとは思ってなかったらしいスパーリグは、それでも咄嗟に僕と彼の間に盾の魔法で障壁を張った。

 それはとても正しい判断だ。

 僕は転移に一つ魔法を使っていて、スパーリグは防御に一つ魔法を使う。

 すると次に僕が攻撃に魔法を使ってもその防御に阻まれて、反撃のスパーリグの魔法が僕を仕留めるだろう。


 けれども残念ながら、今から僕が使う攻撃の魔法は、盾の魔法じゃ防げない。

 僕が杖を振るって放つは、斬撃。

 きっとスパーリグもこの斬撃はハッキリと覚えているだろう。

 これは彼が、イチヨウに喰らって負けた斬撃だった。


 イチヨウが短距離を転移する魔法、彼は瞬歩という歩法だと言ってたが、それを使ったように、サムライの技も、魔法使いの魔法と根本的な原理は変わらない。

 故に、サムライが使う鉄をも切り裂く斬撃も、魔法使いの魔法で再現は可能だ。

 何しろ、僕は妖精の魔法ですら、人間の魔法に落とし込んだ経験があったし。

 もちろん、長い修練の果てに得るのであろうその斬撃を、数度見ただけで完璧に模倣する事は難しい。

 当たり前だが、彼の斬撃の威力は剣の技の技量にも由来するから。

 仮に僕とイチヨウがこの魔法で切り合えば、僕が一方的に打ち負けるだろう。

 そもそもこの短い杖で木刀と競り合うのが無茶って話もあるけれど。


 けれども、張られた盾の魔法を切り裂く程度なら、大きく踏み込めば僕の腕でも十分に可能だ。

 木刀の替わりに振るった杖はスパーリグの盾の魔法を切り裂いて、彼の喉元でピタリと止まる。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 お~、イチヨウの斬擊を魔法で再現ですか!食らったスパーリグよりイチヨウのが驚いてるでしょうね……恐らくですが彼の中には「自身の技は此方の人間には使えまい」的な考えはあ…
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