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僕とケット・シーの魔法学校物語  作者: らる鳥
十五章 小さな魔法生物

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「フクロフクロウの赤ちゃんは好奇心が旺盛で、袋の中で親の収集物を玩具にしながら身体の動かし方や、外の世界に何があるかを学ぶの」

 クー・シーのバナドからフクロフクロウの雛を預かった翌日、僕の研究室に来てくれたパトラが、指先でタオルの上に寝転ぶ雛を優しく撫でながら、その状態を確認してくれていた。

 一通り、僕も雛の健康状態は確認したが、魔法生物に関する知識は、彼らとの契約を望んで黄金科に進んだパトラの方が豊富だし、見立ても信頼ができる。

 もちろん妖精に関してなら、僕の方が詳しい自信はあるんだけれど、残念ながらフクロフクロウは妖精ではないから。


「だから魔法の鞄で育てるなら、なるべく色んな物を中に入れてあげる必要があるわ。特に魔法生物の素材は幾つか入れておかないと、その気配に鈍い子になってしまうそうよ」

 パトラが語るのは、僕も知らなかったフクロフクロウの習性。

 好きなものこそ上手なれとは言うけれど、いや、この世界にその言葉はないかもしれないが、……彼女は自分の好きを学び、活かせる環境に身を置いて、少しずつ才能が花開きつつあるんだろう。


 しかしこの場には、逆にそのパトラの好きに対して、あまり良い顔をできない者も、一人この場には同席していた。

「幾ら赤子とはいえ、妖の子を育てるというのは、どうかと某は思うのだが……」

 そんな苦言を口にするのは、東方のホコチタルの国から来たサムライ見習い、イチヨウ。


 彼がやって来たホコチタルの国では、魔法生物は妖と呼ばれ、人を襲う存在だと認識されている。

 いや、実際に人が襲われて被害が出ているから、それを討つサムライがいるのだ。

 イチヨウはサムライの見習いとして、たとえそれが幼い雛であったとしても、魔法生物を見逃せないのだろう。


 彼のその言葉には、一理も二理もあった。

 この辺りの国々でも、ジェスタ大森林に接する辺境などでは、人を害する魔法生物による被害は少なからず出ているから、一般的に魔法生物と言えば危険で恐ろしい存在である。


 ……但し、それは一般人にとってはの話だ。

 僕ら魔法使いは、魔法という、魔法生物に伍する力を持っているから、むやみやたらに魔法生物を脅威だと恐れない。

 当然、人を襲う魔法生物が危険である事は知ってるし、中には竜のように強大で途轍もない脅威もいる。

 しかし魔法使いは、全ての魔法生物を一緒くたにはせず、その中には温厚だったり、人間に対して好意的だったり、有益な魔法生物がいるという事を知っていた。


「イチヨウ、妖じゃないよ。このフクロフクロウは、君の故郷にはいなかった、魔法生物だ」

 だから僕は、イチヨウの言葉にそう返す。

 彼がこの魔法学校で学んだ何かを、少しでも多くホコチタルの国に持ち帰る心算なら、魔法生物の利用価値に関しては知るべきだと僕は思う。

 例えばイチヨウが魔法生物と契約する事ができたなら、彼は飛躍的に強くなる。


「フクロフクロウは成鳥になると、人間の子供くらいの大きさになるの。鳥としては大きいけれど、魔法生物としては小さめ。好奇心旺盛だから物を盗んだりはするけれど、人間を自分から襲う事は滅多にないわ」

 僕の言葉に付け加えるように、パトラが言う。

 恐らくパトラとイチヨウの相性は、あまり良くない。


 生き物に優しく、魔法生物に興味があって、戦いを好まないパトラ。

 魔法生物を妖と呼んで敵視し、戦う為の強さを求めるイチヨウ。

 彼女と彼は、殆ど真逆だ。

 なので正直、パトラがイチヨウに自分の意見を述べるのは、意外でもあった。

 僕と知り合ったばかりの頃の彼女だったら、イチヨウの相手は僕に任せて、あんな風にハッキリと主張はしなかっただろう。


「言葉を喋れる種じゃないから、残念ながら契約はできないけれど、ちゃんと世話をして躾ければ、主と認めた相手の言う事はちゃんと聞くし、理解する知能はあるわ」

 だが今のパトラは、魔法生物との実戦も経験し、魔法使いとしての目標も見付けたから、明確な自分の意見を持っている。

 それがとても頼もしい。


「でもキリク君は、この子をどうしたいの? 大人になるまで育てて、その後も飼うの? ジェスタ大森林に放すの? まさか袋を採る為に大人にするなんて事は、言わないと思うけれど……」

 もしそうだったら許さないと言わんばかりのパトラに、僕は少し笑ってしまう。

 本当に、とても頼もしくなったなぁと、そんな風に思ってしまって。


 当然ながら、袋を採る為に育てるなんて事はしない。

 素材の為に雛を成鳥にまで育てる手間をかけるくらいなら、別の方法で魔法の鞄の重さを失くす研究をした方がよっぽど有意義だ。

 そもそも僕は、素でそれなりに力持ちだし、魔法の鞄の引き寄せができるから、重さはあまり苦にならないし。


「クー・シーの頼みは、この雛に生きる道を与えてやって欲しいって事だから、素材にしたいとは思ってないよ。どうするかは考えてないけれど、僕が飼い続けたりはしないかな。少なくとも卒業後は無理だ」

 育ててる間によっぽどの情が湧けば話は別だが、いや、湧いたとしても、成鳥になったフクロフクロウを、僕が飼い続けはしないと思う。

 そりゃあ雛から成鳥まで育てたら、情も大いに湧くだろうが、恐らく魔法学校を卒業した僕は、常に危険に付き纏われると予想してる。

 シャムやツキヨならともかく、フクロフクロウはその危険を平気とする強い魔法生物じゃないから。

 契約ができれば、普段は遠くに暮らして貰って、定期的に呼び寄せを行うって関係を続けられるけれど、残念ながらフクロフクロウはそうじゃない。

 またその関係は、僕はともかく、フクロフクロウにとってのメリットがなかった。


 なので成鳥にまで育てば、どこか住み易い環境に放すか、或いは信頼のできる誰かに託す事になる。

 仮に誰かに託すなら、その相手は恐らくパトラで、万に一つくらいの可能性でイチヨウになるかもしれない。


 どうするのかって聞く時点で、どの程度かはわからないが、パトラにもその気はある筈だ。

 そして世話に協力して貰う、言い方を変えるなら一緒に育てるなら、彼女もきっと雛に情が湧く。

 故にパトラが引き取るとすれば、フクロフクロウを不幸にする事は決してないだろう。


 ではどうしてイチヨウに、万に一つとはいえ可能性があるのかと言えば、彼は僕の研究室を頻繁に訪れるし、僕は彼の魔法生物に対する認識を変えようと思っているから。

 僕はイチヨウに道を示すと決めているから、関わる機会は少なくなかった。

 その間に彼が魔法生物に対する認識を改め、この雛といい関係を築いたなら、もしかするとそんな未来も、万に一つくらいはあり得る筈。

 また与えられる餌に関しては、もしかするとパトラより、狩りの心得もありそうなイチヨウに引き取られた方が恵まれるかもしれない。


「まぁ、取り敢えずこの子に名前を付けてあげようか。パトラも、イチヨウも、一つずつで良いから、何か案を出してよ」

 どの道を進む事になっても、この雛が元気に健やかに、僕らに愛されて育てるように、その一歩としてまずは名前を皆で付けよう。

 シャムはまだ、イチヨウの前では喋らないから、案を出せはしないけれど、どれにするかの選択には、加わってくれると思うし。




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