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僕とケット・シーの魔法学校物語  作者: らる鳥
十三章 高等部

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「ふむ、今年の一番はやはり君か。カンター先生から話は聞いてるよ。それにしても随分と早かったね。さぁ、席に着きなさい。そろそろ講義の始まる時間だ」

 授業が始まる前に教室に辿り着けた僕を出迎えたのは、二十代の後半と思わしき男性の教師。

 物腰の柔らかな印象を受ける彼が、選択式の授業で、古代魔法を教えてくれる教師だった。


 古代魔法、錬金術、魔法陣の選択式の授業を担当するのは、科の第二教師と呼ばれる人達だ。

 例えば古代魔法を黄金科の授業で教えるのは、初等部の二年生で僕もお世話になったカンター・ログジァーダ先生。

 彼は黄金科の第一教師で、ウィルダージェスト魔法学校における古代魔法の第一人者だった。

 ……いや、まぁ、正確にはマダム・グローゼルこそがそう呼ぶに相応しいんだろうけれど、彼女は校長なので例外扱いである。


 そしてその第一教師のサポートをしたり、科外の生徒に選択式の授業で教えるのが、第二教師のフォスロ先生。

 第二教師は基本的に第一教師よりも若い先生が多くて、科外の生徒に教えながら経験を積み、やがて第一教師に昇格する事を目指すそうだ。


 ただ、今の水銀科は例外らしくて、第一教師のクルーペ先生は20代と若い。

 クルーペ先生もまだ10代の学生、子供でしかない年齢の僕に若いなんて言われたくないかもしれないけれど、それは客観的な事実である。

 というのもその当時の第一教師であるジォード先生が、クルーペ先生の錬金術は既に自分を超えていると言って、第一教師の座を譲り、今は第二教師を務めているから。

 教師に求められるのは錬金術の実力よりも寧ろ教え方の上手さとか、経験だと思うんだけれど、その辺りを全く無視して錬金術の腕で物事を決めてしまうのが、如何にも錬金術の教師って感じであった。

 マダム・グローゼルは考え直すようにとジォード先生に求めたらしいが、変わり者かつ頑固者の彼はそれを聞き入れず、クルーペ先生に第一教師を任せてしまったという。


 黒鉄科の第一教師はシュイラ・フォード先生で、30代の女性だ。

 先代の第一教師が引退したから、数年前に昇格したとか。

 第二教師はミュネス・マイヤー先生で、20代の女性。

 年齢が10歳と離れていないので、今はともかく、将来的には第一教師の座を巡る争いが起きるんじゃないかと、黒鉄科では噂されているらしい。

 あぁ、その噂を教えてくれたのは、魔法陣を学ぶ為に黒鉄科に進んだ僕の友人のシズゥである。


 ちなみに黒鉄科だけは他の科と違い、第一教師だけではなく、戦闘学の教師の発言力も強い。

 黒鉄科には戦闘学を教える教師も複数いるそうだけれど、こちらには第一教師や第二教師って区分はないそうだ。


「今年からこの講義を受ける子もいるから、最初はゆっくりと進むよ。わからない事があれば何度でも聞いて構わないから、学びに遠慮はしないように」

 フォスロ先生は、……声が良かった。

 優しく聞き取り易い声をしている。

 喋り方も早くなく、遅くなく、ハッキリとしていて、聞いてて心地が良い。

 決して眠くなるという訳ではないが、言葉に集中させてくれる力が、フォスロ先生の声にはあった。

 声が良いって得だなぁと、しみじみと思う。


 講義の内容に関しては、まだ始まったばかりだからか、初等部で教わった内容の復習も多い。

 だけど少し違うのは、古代魔法と言えば失われた強大な物ってイメージが強いけれど、そうではない些細な魔法に関して教えてくれる事だろうか。


 何でもフォスロ先生によると、古代魔法にはこうした些細な物の方が多いそうだ。

 師から弟子に細々と受け継がれていた些細な魔法が、大破壊の際に、或いは別の理由で失われてしまう。

 そしてその中でも偶然にも書付や日記に残っていた魔法が、手掛かりを元に再発見される。


「今から教えるのはそうした魔法の一つなんだけれど、そうだね、君達は魚釣りをした事はあるかな?」

 フォスロ先生が、釣竿を振る真似をしながら問う。

 その姿は結構様になっていて、少なくとも初心者ではなさそうだ。

 ちなみに僕は、シャムが時々魚を食べたがるので、釣りの腕前はまぁまぁだった。

 魚の中には鱗やヒレ、内臓等が魔法薬の素材になる種もいるから、もう少し釣りの腕が上がればいいなって思うけれども。


「水中の魚に釣りをする姿を見られると、警戒されて釣れなくなったりするんだけれど、今から教えるのは水中の魚からは自分を見えなく、だけど自分からは水中が見えて魚を探せるって状態にするって魔法だよ」

 釣りの話をするフォスロ先生はとても楽しそうで、やっぱりこの人はそれが趣味なのかもしれない。

 確かに、これは些細だけれど、釣りをするのに便利な魔法だ。

 魚に直接作用するんじゃなくて、水面に作用して視界を一方通行にするというのが、僕的にはとても良い魔法に感じる。

 正直、魚に魔法を使うなら、それこそ攻撃の魔法で仕留めてしまった方が早いってなるし。


 いや、もちろんそれが最も効率的なのは確かなんだけれど、釣りの楽しみは皆無になってしまう。

 でもこれって、別に魚釣り以外にも使える魔法なんじゃないだろうか?


「但しこれは、透明な何かを隔てた場所に対して有効だと今ではわかってる。例えば透明なガラス窓を一方向からのみ見えるようにするって使い方もできるね。魔法は、使い方の創意工夫も大事だよ」

 まるで僕の考えを肯定するかのように、フォスロ先生がそう言ってくれる。

 あぁ、この授業、楽しいな。

 魔法の授業は大体どれも楽しいんだけれど、フォスロ先生は教え方が上手いというか、丁寧で親切だから余計に楽しい。

 尤も、魔法使いは自分から意欲を出して学んでしかるべきだから、フォスロ先生が親切過ぎるのかもしれないけれど。


 ただ、それでも授業が楽しいのはいい事だ。

 選択式の授業だからこそ、ある程度の緩さがあって楽しいのかもしれない。

 次回は古代遺跡の探索に関してと、それに役立つ魔法を一つ教えてくれるという。

 恐らく選択式の授業では、強大な古代魔法の類は教えて貰えないと思うけれど、それでも僕はこの授業に受ける価値を十二分に感じる。

 次回の授業も、楽しみだった。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 >声が良いって得だなぁ 確かにこれは真理ですよね。自分も動画サイトでたまに生声実況の動画を見る機会有りますが、題材・編集技術・会話のテクニックや盛り上げ方に大差ない場…
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