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僕とケット・シーの魔法学校物語  作者: らる鳥
十二章 冬の契約とキリクの秘密

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 冬期休暇に入って一番の変化は、寝起きする場所が卵寮から、水銀科の寮に変わった事。

 高等部にあがるのは、冬期休暇が終わって前期が始まってからなんだけれど、卵寮の部屋はまた新しく入ってくる初等部の生徒の為に開けなきゃならないから、移動は早めに行われる。


 あぁ、それと、やっぱり色々と教えて貰ったり、一緒に研究をしたりしたシールロット先輩がこの魔法学校から居なくなった事も、大きな変化か。

 何が悪かったんだろうって、あの日から何度も考えてしまっていた。

 結論は何時も同じなんだけれど、でも何度も何度も、繰り返す。

 まるで別の答えを探すかのように。


 寮が変わると、食事を取る場所も変わる。

 卵寮だと、食事時には常に人の姿があったけれど、水銀科の寮は、食堂に人の姿が殆どない。

 それは水銀科に所属する生徒の数が少ないからってのもあるけれど、自分の研究室を持ってる先輩が、自分の研究を優先して食堂にあまりやって来ないってのもあるんだろう。


 なので食堂で顔を合わすのは、僕と同じく前期が始まれば高等部の一年生となる、要するに初等部の頃からのクラスメイトだ。

 水銀科に進んだクラスメイトは二人。

 ミラネスという名前の女生徒と、セビジャって名前の男子生徒。

 これまでミラネスに関しては殆ど関わった事がなかったけれど、セビジャとはドラゴン・ロアーの相談や練習もあったから、そこそこ知ってる。


 流石にクラスメイトと食堂で会えば相席するし、そしたら色々と話しもするから、ここ数日間で二人とは幾分仲良くなれたと思う。

 実はミラネスの事は、クラスでもあまり目立たない秀才だってくらいしかわかってなくて錬金術を得意としてたのも水銀科で一緒になって初めて知った。

 もう一人のセビジャは、ミラネスに比べると幾分知ってて、彼は魔法はそこまで得意としないが、要領良く結果を出すタイプだ。

 最終的に物を完成させれば評価される錬金術には、向いてると言えば向いてるタイプなんじゃないだろうか。

 実際、そう評価されて、水銀科に進めた訳だし。


 初等部の頃の成績はミラネスの方が良かったようで、セビジャは彼女を抜かしたいって思ってるようだし、ミラネスは彼に抜かれたくないって思ってるらしい。

 正直に言えば、ちょっと羨ましいなぁって思う。

 だって二人とも、僕への対抗心とかは欠片もない様子だから。

 クレイのように、背中を追い掛けて、隙あらば抜き去ろうとしてくれる誰かは、高等部ではもういなかった。


 尤も高等部で評価されるのは試験の点数じゃなくて、研究の出来になるというから、別に競う相手は同級生じゃなくても構わないだろう。

 水銀科には、僕より前を進んでる上級生が幾人もいるのだし、まずは彼らの背を追い掛けて、抜き去る事を目標にしようか。


 当然ながら、生活環境が変化しても、やっぱり変わらないものはある。

 例えば、そう、今日もシャムは、僕の傍にいてくれた。

 正直、とってもありがたい。

 色々と思い返してやる気が起きないなって日でも、シャムが活動を始めれば、僕もそれに合わせて動き出せるし。


 ウィルダージェスト魔法学校にきて二年。

 本当はまだ、変化だの何だのって言える程の時間を、僕は過ごしちゃいない。

 そもそも環境なんて、魔法学校に来てからの二年間は、常に変化していた。

 なのにこんな風に、色々と変わってしまった……、なんて考えてしまうのは、きっと僕が、今は寂しがっているからだ。


 親しかった先輩は遠くへ去り、仲の良かった友人とは科が別れて、寝泊まりする場所もバラバラである。

 ……うん、そりゃあ寂しい。

 ふられたのも大きいとは思うけれど、自分がそれでどのくらいのダメージを負ったのか、僕自身わかってないから、とにかく寂しいって感情に振り回されてる感じだった。

 だからこそシャムが近くにいてくれるのは、本当に心の救いになってるんだろう。

 まぁ、だろうって、自分の事なのに断定できない辺りが、駄目だなぁって思ってしまうんだけれど。



「キリク、そろそろ動きなよ。朝ごはん食べたら、図書館で調べものするんだろ」

 朝、目を覚ました後、何となく気分にならずにベッドでゴロゴロとしていた僕に、シャムが声をかけてくれた。

 これがあるから、僕は止まったままにならずに動けている。

 まぁ、僕がご飯を食べに行かないと、シャムも食べられないって事情もあるし。


 シャムの言う通り、今日の予定は図書館で調べものだ。

 調べる内容は、魔法生物について。

 そろそろ僕が契約する魔法生物を決めなきゃならなかった。


 契約するのは、魔法生物なら何でもいいって訳じゃない。

 当たり前だけれど、まずはその魔法生物が人の言葉を理解して、意思の疎通ができるだけの知能が必要だ。

 それから戦力を求めているのだから、僕という魔法使いと共に戦う事を前提で、選ぶ必要がある。

 また僕の性格と、大きくぶつからない価値観の魔法生物が好ましいだろう。

 どんなに強くても、血に飢えた獣って感じの乱暴な魔法生物と付き合っていくのは、僕にとってストレスが大きいから。

 可能な限り相性のいい魔法生物を選びたかった。


 契約する相手は、ジェスタ大森林に生息する魔法生物を選ぼうと思ってる。

 旅の扉の魔法を習得したから、例の近くの泉まではそれで行けるし、そこから森までは視界が開けているから、やっぱり転移で移動が可能だ。

 森に入れば、シャムを頼る事になるだろう。

 ジェスタ大森林は危険な場所ではあるけれど、それでも僕らの故郷である。

 僕らだけで行動するなら、リスクはそんなに高くない。


 だから、そう、僕は足を止めてる訳には行かなかった。

 冬期休暇中には魔法生物と契約し、前期が始まれば新しい当たり枠を連れて魔法学校に戻って来るエリンジ先生に、その報告をしよう。

 高等部にあがったら、すぐに何かの研究を始めないと、折角シールロット先輩が譲ってくれた研究室が無駄になる。

 前期が終わって夏が来れば、ジャックスに付いて戦場へ赴き、彼を助けなきゃいけない。

 科が別れても、彼が友人である事に変わりはないのだし。

 それから僕は、魔法学校在学中に、壊れてしまった魔法人形、ジェシーさんを修復できる錬金術を身に付けるって目的がある。


 やる事は、本当に多いのだ。

 ふられたからって、落ち込んでる暇なんて、本当はないくらいに。

 寂しいのは仕方なくても、やらなきゃいけない事に変わりはない。


「よし、そうだね。じゃあ今日も一日、よろしく、シャム」

 僕はそう言葉に出して、自分を奮い立たせて起き上がる。

 立ち上がる事さえできたなら、前に向かって歩き出すのは、そんなに難しい訳じゃないから。


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― 新着の感想 ―
[一言] やはり猫。 猫は癒し。猫は導き。猫は人生最高のパートナー。
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