強くなるために
翔
杉本さんは近くの病院に運ばれた。命に別状はなく、一時間ほどで目を覚ました。
「杉本さん。本当にすみませんでした。僕のせいでこんな目にあって、苦しい思いをして。」僕は深く頭を下げていった。
「頭を下げないで。これぐらいのことはこの仕事をしている限り何回かこのような経験はをするのは普通だよ。あと、君のせいじゃないし。」優しくか杉本さんは言った。
「だけど、僕が狙われてたから、杉本さんは襲われたわけだし…」
「本当に大丈夫だから。あと彩香でいいよ。」
「あの…彩香さん。僕、強くなってもう二度と誰にも僕のせいでこんな思いをさせないように頑張ります!」
フフっと彼女は笑った。
「わかった。頑張ってね。」
「翔くん。何度も言うが、今日の襲撃は君のせいじゃない。」病室の外で待っていた拓也さんが言った。
「わかっていますが、どうしてもそれを自分に言い聞かせられないんです。彩香さんが僕と一緒にいなければあんなことにならずに済んだんですから。」
近付いてくる複数の足音が聞こえた。廊下の向こうには特殊能力課のみんながいた。その中で佐野さんが一番焦って走ってきた。
「拓也さん!彩香は、彩香は大丈夫なんですか⁈」佐野さん疲れ切った声で言った。
「あぁ、大丈夫だよ。命に別状はない。数日で退院できるそうだよ。」
「よかった…」佐野さんが言った。
拓也さんが病室のドアを開けた。
「彩香ちゃん、入っても大丈夫そう?」拓也さんが言った。
「大丈夫。」彩香さんの声がした。
佐野さんは真っ先に入って行った。
「彩香ー!無事でよかったー!」佐野さんは涙ぐんで言った。
佐野さんは彩香さんの病床の横で大声で泣いた。
「お兄ちゃん、うるさい。病院では静かにして。」彩香さんが言った。
「えっ⁈佐野さんと彩香さんって兄弟だったの?だけど、名前が違う…」僕は驚いて言った。
「ああ、言い忘れてた。和馬と彩香ちゃんは父親は違うけど、血のつながった兄弟だよ。」拓也さんが言った。
「今日から僕の訓練が始まる…頑張るぞ。」僕は自分に気合を入れて言った。
僕は事務所へ行った。事務所には拓也さん、月見さんと国枝さんしかいなかった。
「翔くん!おはよー!」拓也さんが元気そうに言った。
「おはようございます。」僕は返事をした。「みんなどこに行ったんですか?」
「みんなは仕事があって出たよ。和馬は彩香ちゃんの見舞い。」拓也さんが言った。
「そうですか。」
「翔くん、ちょっとこっちきてもらっていい?」月見さんが読んでいた書類から目を離して言った。
「あっ、月見さん。おはようございます。なんでしょうか?」
僕はそう言って月見さんのところまで行った。
「今日から君は訓練をして、簡単な任務をこなしてもらう。今日は拓也と訓練をする。拓也の力は君が今使える能力に似ている。今後も気を抜かずに頑張ってね。」
「はい!」僕は言った。
「拓也、あとはよろしくな。」そう言って、月見さんはまた書類を読み出した。
「了解!」潔く彼は言った。「翔くん、訓練を始めるよ。」
そう言った拓也さんに僕は地下へ連れて行かれた。地下には大きな部屋があった。その部屋には的が数個左側の壁にあった。
「この部屋では銃の練習をする。みんな時々使ってるよ。今日はこの部屋を使わないけどね。」
そう言って拓也さんは部屋の奥の方に行った。部屋の奥にはドアがあった。
「こっちの部屋は対人戦の部屋だ。ここは特殊能力の訓練だったり、格闘技の練習をする。と言ってもそれほど使われないけどね。」
対人専用の部屋は真ん中が開けていて、周りに建物や階段、柵などを再現した障害物があった。
「今日は戦うと言うより、ただ僕の力を見て理解してもらい、それを使えるようになると言うことが目的。使いこなせるようになったら、俺に勝てるまで戦う。それが君がこれから数日やる訓練だよ。」
「拓也さんと戦う⁈そんなの勝てるわけがないじゃないですか!」
「そんな弱音吐いてたら、強くなれないよ。君は強くなりたいんじゃなかったの?」
「強くなりたいです…」
「よし!じゃあ、始めよう!」拓也さんが言った。
「えっとねー…あった。」拓也さんはポケットから石を取り出した。「この石を見ててね。
『大気操術』」
すると、その石が突然浮いた。そして、砕けた。
「俺の特殊能力名は『大気操術』。俺の力はこの空中のあやゆる特質を操れる。例えば、重力、圧力、水分、成分や風向。」
「昨日君は僕の力を他にも見ている。例えば、銃弾を止めたあれは銃弾に対して反対の圧力をかけてその場にとどめた。その後に緻密な圧力の操作で弾の方向を変えて、撃ち返した。
あと、あの銃の人たちが倒れたのは、あの人たちの周りの空気の酸素量を減らした。彼らは酸欠で倒れたんだ。」拓也さんは説明した。
「さっきの石が浮いたのは重力操作だよ。そして、砕けたのは全方向から圧力をかけたから。」彼は付け足した。
「そうだったんだ…」
「じゃあ、やってみよう!」拓也さんが微笑んで言った。「君にはできるよ。君は僕の力を見て、今理解した。もうこの力は君の力になっている。」
「この石に何かしてみて。」拓也さんが新しい石をポケットから出して床に置いた。
僕は集中した。すると、まるで昔からこの力を昔から知っていたような不思議な感覚がした。僕の口が勝手に動いた。
「『大気操術』」
石が浮いた。そして、横から圧力が当てられ、壁に勢いよく突っ込んだ。
「完璧だよ、翔くん!敏美さんは習得した力を使いこなせるかどうかは別って言っていたけど、この調子なら俺との訓練はすぐ終わりそうだ。まぁ、俺の特殊能力は君が元々持っていた力に似ているから、習得は割と簡単だったかもしれないけど、他のはまだわからないね。後、他にも銃とか武器の訓練もあるしね、最短でも訓練が終わるのは1週間かかるかな。」拓也さんが言った。
『大気操術』は圧力、重力、空中の成分、風をコントロールできる。圧力では、物を潰したり、動かしたりできる。重力は物を浮かせたり、逆に重力で物を重くしたりできる。空中の成分は二酸化炭素だったり、酸素だったり、そういう成分を調整できる。風は風向を変えたり、強風を作ったりできる。
そのように色々なことができる力だ。僕はそれを三時間ほどで全て使えるようんになった。圧力と重力はすぐにできたが、空中の成分と風のコントロールに手こずった。
「君の元々持っていた力は圧力と重力のコントロールに似ていたものだったのかもしれないね。」拓也さんが全部使えるようになった時に言った。
拓也
圧力と重力の特殊能力…まさかあいつの力か…?俺は訓練が終わった時そう思った。
翔
昼休憩の後、拓也さんに仕事ができたため、秋間さんに銃の扱い方を教えてもらった。的に定めることすら難しかったが、日が暮れた頃には的に当てられるようになった。
「こんな長い時間僕の訓練に付き合ってくれてありがとうございます。」僕は秋間さんに言った。
「敏美さんに頼まれただけだ。大したことない。」彼は言って訓練室を出て行った。
僕も秋間さんの後に訓練室を出た。
事務所へ続くドアを開けると目の前には拓也さんがいた。
「翔くん、ちょっと聞きたいことがあるから来てくれる。」拓也さんが言った。
拓也さんは深刻な表情をしていた。
「あっ、はい。」
応接室へ行った。
「翔くん、君、本当に過去のこと何も覚えてないの?なんか過去に関係ありそうな物なんでもいいから、伝えて欲しいんだけど。」
「路上生活をし始めた頃ぐらいからは覚えてるいるんですけど、それより前は全然…」僕は言った。
その時、あの夢のことを思い出した。あの血溜まりの夢を。この時、僕はそれが自分が過去に見たものかもしれないという感じがした。
「時々、大きな血溜まりの夢を見ます。ただの夢か、思い出なのかわからないのですが。とりあえず、僕が誰かの家の壁の影から二つの血溜まりが道路の上で合わさってゆくのを見る夢です。」
拓也
血溜まり…被害者がいないのに血溜まりがある、あいつらしい手口だ。多分その夢は翔くんが過去に見たもの…
目撃者の彼はあいつに狙われている。そういうことか…
最終的には多分あいつが翔くんを殺しにくる…その時、特殊能力課は全員死ぬ––––。
俺の脳内に最悪の事態が横切った。
翔
「なんだったんだろう…」僕はつぶやいた。