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エクジステンス  作者: さやき
第二章
10/12

日常

  翔

「気になっていたんですが、普通、刀で金属って切れるものなのですか?」僕が聞いた。

 ずっと気になっていた。空き間さんがナイフを切ったときも、爆弾を切った時も、どっちも綺麗に切れていた。刀も同じぐらいの硬さのはずなのに。

「普通ならあれほど切れないかな。金属にもよるけど、今日の切れた金属は普通なら切れないよ。」拓也さんが言った。

「じゃあ、何で…」

「僕の特殊能力は『光霊術』と言ってな、光を力に変えるんだ。僕はその力を刀に乗せて使ってるんだ。刀じゃなくても、一応使えるけどな。」秋間さんがそう言った。

「刀を特殊能力で強化してるということですね。」僕は言った。

「まあ、そういうことだ。」

「訓練すれば、翔くんだって使えるはずだ。明日にでも涼平に訓練を付き合って貰えばいいんじゃないか?」拓也さんが言った。

「そうですね…秋間さんが良ければ、お願いしてもいいですか?」僕は聞いた。

「明日の午前ならいいぞ。」秋間さんはスケジュール帳をチラッと見て言った。

「良ければ、私もいつか訓練付き合うけど、どう?」塩野さんが言った。

「あっ、ありがとうございます!」

「明日の午後ぐらいなら空いてるけど、翔くんは大丈夫?」

「はい!」


 その後数日、特殊能力課の人たちに訓練に付き合ってもらった。

 僕は小刀の使い方、そして、『光霊術』をその刀に込めるコツを秋間さんから教わった。秋間さんほどではないが、小刀はだいぶ容易に扱えるようになった。

 塩野さんには体術を教わった。塩野さんの特殊能力、『夢と幻』といい、ある特定の人物に幻覚を見せるものだ。だが、解除された時、その幻覚は夢の如く思い出せなくなる。つまり、結果的にはその特殊能力を「見ていない」ことになる。そのため、僕にはこの能力は模倣できない。だから、塩野さん、特殊能力課の中で最も優れた体術使い、からは体術を教わることになった。

 

 訓練と少々任務をしていると、いつの間にか彩香さんの退院の日になっていた。

 僕たちは退院祝いに事務所を飾り、彩香さんの好物の胡桃亭の杏仁豆腐を用意した。

 塩野さんは任務でいなかったが、他のみんなは揃っていた。

 佐野さんと一緒に彩香さんは帰ってきた。

 ドアが開いた時、僕たちはパーティークラッカーをパーンと鳴らした。

「わっ!」彩香さんが驚いて。

「退院おめでとう!」

 彩香さんはにっこり笑った。

「ありがとうございます!」

 

 僕たちはしばらく事務所で彩香さんの退院を祝った。午後に塩野さんは帰ってきた。

「有希ちゃん!」嬉しそうな声で彩香さんが言った。

「彩香!退院おめでとう!」

 彩香さんは塩野さんを抱きしめた。塩野さんは彩香さんを抱きしめ返した。

「ごめんね、見舞いに行けなくて。無事で本当に良かったよ。『烏』に襲われたと聞いた時本当に心配だったんだから。」塩野さんが言った。

「心配してくれてありがとう。有希ちゃんも誘拐されたんでしょ。無事で良かった。」彩香さんが言った。

「だけど、有希ちゃんが誘拐されるなんてびっくりだよ。有希ちゃんめっちゃ強いし、反射能力もすごいのに…」

「その日休みだったから、外出してたら、急に背後から薬で眠らせられてね。休みだったから少し油断しちゃったの。」塩野さんがハハッと笑って言った。

「油断は禁物だね。」彩香さんが言った。

 楽しそうに二人はしばらく話した。

「塩野さんと彩香さんって仲が良いんですね。」僕は横にで彼女たちを見ていた佐野さんに言った。

「ああ、有希ちゃんはね、彩香が小さい頃からずっと一緒だったからね。今は同じ学校に通ってるしね。まあ、最近は雪ちゃんあまり学校に行かないけどね。」佐野さんが言った。

「そうなんですね。何で塩野さんは学校にあまり行かなくなったんですか?」

「…有希ちゃんは小さい時に両親を亡くしててね。特殊能力使いには多いことなんだ、親が殺されることは。犯人は『烏』の一員だ。彼らの仲間には未来が見える奴がいてね、そいつが将来確実に組織の敵になる特殊能力使いを見つけて『烏』のメンバーに殺させるんだ。彼らは有希ちゃんを狙っていた。有希ちゃんの親はその過程で殺されたんだ。そして、最近有希ちゃんの親を殺したその『烏』のメンバーの詳細が分かったんだ。それで、最近はずっとその犯人を捕まえようと仕事ばっかりなんだ。」佐野さんが言った。

「そうだったんですか…」僕は静かに言った。

「僕に勝手にそんなこと話して良かったんですか?」

「大丈夫だよ。ここにいる人たちの過去は大体そんなもんだし、有希ちゃんの過去はここのみんな知ってるからね。」

 僕の親は今どうしてるんだろう、と僕は思った。

 両親のことは一つも知らない。死んだのか、僕を捨ててどこかでのびのび生きてるのか、僕はわからなかった。

「だけど、有希ちゃんは本当に強いよ。親がいないのにあんな力強く生きていられなんて。僕と彩香は母さんまで死んだら、もう何もできなくなっちゃうよ。」

「まで?」僕はそれの意味をわかっていたはずなのに。それが佐野さんにとって辛いことだとわかっていたはずなのに。僕は好奇心というものに負けてしまった。

「僕の父さんも彩香の父さんも死んだんだよ。僕の父さんは最悪の人間だったから死んでもよかったかもしれない。だけど、彩香の父さんはすっごく優しい人でね、母さんの連れ後子だった僕にも優しかった。死ぬべき人ではなかった。彼は交通事故で死んだ。轢き逃げで犯人は捕まってない。あれは意図的なものだった。殺人だ。」彼は言った。

 彼の手は拳になって震えていた。それは多分怒りだった。

「そうだったんですか…わざわざ聞いてすみません。」僕は言った。

「大丈夫だよ。」手の拳を緩めながら佐野さんが言った。「どうせ君がいつか知ることだったし。拓也さんが僕を呼んでるみたいだから、行くね。」

 そう言って拓也さんたちの方に小走りで行った。

 僕はしばらく同じところから塩野さんと彩香さんを見ていると、彩香さんが話しかけてきて、僕は彼女たちの会話に参加することになった。

「やっと、全員揃ったし、大きな事件とかもなくなったし、今日から普通の日常が戻るね。」彩香さんは嬉しそうに伸びをしていった。

 普通の日常か…僕は思った。これからの日常はひとりぼっちじゃないんだ。特殊能力課のみんなと一緒にいる、それが僕のこれからの日常なんだ。

 僕はにっこりと笑った。

「そうだね。」僕はそう言った。


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