親子三代
話は発表の場に戻る。
「それでは皆様、息子共々、よろしくお願いいたします」
挨拶を終えた大君に大きな拍手が向けられた。それを大君ははにかみながら受けていた。
「素敵な挨拶をありがとう父さん。父さんなら必ず人間とフューマンの架け橋になってくれると僕は確信しているよ。皆さんも是非僕達を見守っていて欲しい。必ずや世界をもっと幸せにしてみせます」
昴流は自信に満ちた様子で世界に向けて言い放ち、大きな反響の中で発表を終えた。
控え室に戻った大君と昴流に宙光がコーヒーを差し入れた。
「親父、お爺ちゃん、お疲れ様」
「ああ、ありがとう宙光。父さんはブラックで平気かい?」
「俺だって中身は大人だよ」
大君は受け取ったコーヒーを一口飲んで顔をしかめた。
「苦っ」
「ははは、やっぱり味覚にも影響がありそうだね」
「嘘だろ、これじゃ熊ちゃんのコーヒーが楽しめないじゃないか」
「しばらくは仕方ないね、お爺ちゃん」
「ま、そのうち慣れるのを待つか」
そんな様子を見て昴流は悪戯な笑みを浮かべて言った。
「父さん、そんな子供の身体だし急かしはしないけど、ミッションも頼んだよ」
「人間とフューマンの架け橋になるって話か?」
「もっと具体的な話だよ。人間の女性と子供作っちゃえば良いって話さ」
「……それは本気なのか?」
「本気さ。人らしく人生を歩み、人らしく子を成す。父さんに与えられたミッションさ」
「ははは。親父はそんな風に言ってるけど、本当はお爺ちゃんに新しい人生を自由に生きて欲しいと思ってるだけさ。普通に恋愛して、結婚して。もちろん一人で気ままに生きたって良い。そんな新しいお爺ちゃんの人生を自由にさ」
「宙光、それを言ったら面白くないだろう」
「いやあ、でも。あんな風に発表してしまえば興味を持っちゃう女の子が沢山いるんだろうなあ。なんたって親父、金持ってるからなあ。お爺ちゃんお疲れ様」
「流石に昴流の威を借りる訳には……」
「いや、そんなことせずとも父さんなら平気さ。実はさ、もう今から父さんに講演の依頼が届いていたりするんだ。きっと色々な人と関わる機会も増えると思うから、自然とそうなる人も出てくるんじゃないかな」
「講演?」
「うん。実は父さんの存在は少し前から噂されることがあってね、みんな興味深々なのさ。なんたって少し前に有名になったフューマンが歌う子守唄、謎の歌シリーズの作者なんだからね。今頃父さん、世間ではもの凄く検索されていると思うよ。しかしそうか、そうなると父さんの事務所が必要になるな」
「そ、そうなのか」
「でも良いじゃないか。父さん絶対、自分で生計を立てたいとか言い出すだろ?」
「お爺ちゃん、別にそんな事気にしなくて良いのに」
「そうは行かないよ。とは言え……俺、フューマンなんだよな?」
「うん。だから細かい話をすればお爺ちゃんが得た収入は僕が確定申告することになるし、行動の責任も僕が負う事になる。でも、収入なんて分けて管理することは造作も無いし、例え万が一お爺ちゃんが何かしたとしても僕にはそれを全て受け入れる義務がある。なんたって、あの時お爺ちゃんがいてくれなければ、僕は……」
宙光は少し表情に影を落とした。
「宙光、いいんだ。あれは俺が勝手にやったことだ。お前が気に病むことはない。むしろ俺はお前が責任を感じてしまうことを一番恐れていたんだ。頼むから自分を責めるな」
「ああ、父さんもこう言ってくれている。言ったとおりだったろう? あれは不幸が重なっただけの事故だ、自分を責めないでくれ」
そう言われて宙光は表情を緩め、顔を上げた。
「ありがとう……父さん、お爺ちゃん。僕は、二人の家族で本当に良かった」
「何を言っている。お前ももう自分の家族を持ったんだ。そう思ったのなら、その気持ちは自分の家族に向けてやれば良い。僕はそう、父さんから教えてもらった」
「ん? 昴流、俺そんなこと言ったか?」
「ん~、どうだろうね。でも、僕の中にある父さんが、そういう気持ちにさせてくれるような気がするのは確かなんだ」
「そうか。なら、それで良いな」
親子三代は互いを見合い、微笑み合った。
「さて、と。そろそろ帰る準備をしようか。親父はこの後どうする? 乃々花が待ってると思うけど」
「乃々花に会いたいのは山々だが……この後、誠也さんと会う約束になっているんだ」
「そっか。未来党にとっては正念場だもんね」
「ああ、すまない。落ち着いたら必ず会いに行くと乃々花に伝えておいてくれ」
「了解。それじゃお爺ちゃん。外で明日葉が待ってる。一緒に我が家に帰ろうか」