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同級生

 病棟から見える中庭のベンチに瑞樹と熊三くまぞうの姿を見つけた大君は、それに駆け足で手を振りながら近寄った。


「おっす、同級生の再会か」


「おっすじゃねえ、ヒロお前この野郎、また死にやがって」


 体格の良い熊のような男熊三がベンチから立ち上がって言った。


「すまんなあ熊ちゃん。そんで、瑞樹も」


「本当よ。全く、貴方って人は」


「それが……いや、あはは。どうしても避けられない事態だったからさ」


「聞いているわ、昴流さんや宙光さんの事件のことも。そして貴方が自分の命をかけて二人を守ろうとしたことも。とても貴方らしいと言うか、それはそれで私も誇らしく思うのだけれど……私、二度も貴方に先立たれたのよ? この気持ち解る?」


「う……返す言葉もありません」


「それに、7年前に目覚めた時はまだ当時のままの姿だったけれど、今度はなに? 10歳って、ますます歳が離れちゃったじゃないの」


「はい。全く以て、仰るとおり」


「流石にもう、貴方とは付き合いきれないわ、私達別れましょう」


「えっ!? いきなり何!? そんな簡単にフラレちゃうの? 俺」


「本来、死んだ時点で永遠のお別れなんですからね?」


「は、はい。仰るとおり」


 瑞樹は怒りの表情を解いた後、一つ小さく自嘲のように笑い、それから大君に微笑んだ。


「だから……貴方はもう、新しい人生を生きて」


「瑞樹……それは」


 大君が何か問いかけようとしたのを熊三が無言で睨みを利かせて止めた。


「でも……時々は遊びに来てね? 友達として」


 瑞樹は必死に笑顔を保ちながらも涙を流していた。


「それだけ。それだけは伝えたかったから」


 瑞樹はベンチから立ち上がって大君に背を向けた。


「ごめんなさいね。私はもう、帰ります。親友同士の話もあるでしょう?」


「瑞樹……」


「さようなら大君くん。絶対、また遊びに来てね」


「ああ。絶対、絶対に遊びに行くよ」


「ありがとう、じゃあね」


 そうして瑞樹は振り返ることなくその場を去って行った。


「あ~あ、フラレてやんの」


「……そりゃあ、俺が悪いのは認めるけどさあ」


「何言ってんだ。あれはお前に気を遣って言ったんだぞ?」


「解ってるよ、そんなの」


「今のお前の姿じゃあ、今までの人生とは切り離して、一から人生をやり直していかなきゃならん。だから年老いた自分が縛り付けてちゃいけないと思ってだな……」


「みなまで言うな、解ってるから」


「ったく」


 熊三は呆れたように言った。


「しっかし瑞樹ちゃん、健気で良い女性だよなあ。高校の頃からみんなのアイドルだったもんな……まさかお前とそんな関係だったとは」


「うっせ。熊ちゃんこそ、朱莉あかりとはどうなんだよ?」


「う。……まあ、それなりだよ」


「そっか、ありがとな。色々」


「なんだ? 今になって元夫ヅラか?」


「ちげーよ。もう俺の精神メンタル、そんな次元じゃねーみたい」


「そーかよ」


「なんかもう、清濁併せ呑み過ぎて一回りしたせいか、また皆に会いたくなった」


「はは。じゃあ、近い内にウチにも来いよ? お前の元妻、朱莉もいるぞ」


「棘のある言い方しやがって」


「はっはっは。言わせてくれよ、それくらい。……でもな。あいつ、あれからずっと、お前に感謝してるんだぞ。息子の昴流君にも、孫の宙光君にも会えたし。本当に、本当に涙を流すほど感謝しているんだ。……なあヒロ、お前がそうしてくれたんだろ?」


「……さあな」


「ありがとう。これだけは言わせてくれ」


「ああ、受け取った」


「また、ウチにも遊びに来てくれよ? 最高の一杯を奢らせてくれ」


「ああ、言われなくても行くよ」


「よし、じゃあ俺の用も済んだ。大切な家族の時間、大事にしろよ」


 そう言って熊三は歩き出した。


「またな、熊ちゃん。今日はありがとう」


 熊三は背を向けたまま手を挙げてそれに応えた。

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