襲撃、未来島
舞台は未来島に移る。
待機車両の中で中華フューマンの暴走の様子を見ていた完全武装の高憂炎が言った。
「ははは、やっぱ人は殺せねぇのか、フューマンにはよ」
それに答えたのは同じく武装した何永邦だった。
「まあ、事前の実験で解っていたことですが」
「人を殺す実験とか、ハンパねぇ国だな。ははは」
「確実に事を進めるために必要だっただけさ」
「流石だぜ。連中も何か事が起こるとは解っていても、誰一人としてこの規模までは想像できてねーよ。全国で一斉に暴走とか、ありえねーわ」
「そうだね。けれど、私達にはそれすら陽動作戦」
「ったく、お前にゃ敵わねーよ」
「何を言っているんだい。君の見せ場はこれからだろう? 電波妨害も済んだんだ、早いところ片付けてしまおうか。私達の本当の目的を」
「オーケー、任せておけ。そうさ、ここからは俺の仕事だ! 暴れるぜぇ! この世の全てをぶっ壊すまでなあ!」
「……必要最低限で頼むよ。必要なバックアップは私が行う」
「信用してるぜ、相棒」
全国では未だ中華フューマンの暴走が収まらず人々の注目を一手に集める中、人知れず未来島において中国部隊の武力介入が開始された。
暴走する中華フューマンと鳴り響く銃声により、未来島の住民は混乱を極めていた。
「お爺ちゃん、どうやら更なる異常事態が発生したようだ」
「解ってる。さっきから電波も使えない。外の状況が全く解らない」
「これが多分、丁嵐君が言っていた『何かが起きる』なんだと思う」
「銃声……戦争でも始まったのか?」
「恐らく天照が何かを察知して、アルテミスが未来島の物理防御システムを作動させて抵抗しているんだと思う」
「任せていて平気なのか?」
「どうだろう?……もし悪意ある者が備えた上で侵攻して来たならシステムだけじゃ厳しいかも知れない。電波妨害の手口から考えると、恐らくもう未来島から本土に繋がる3本の橋は制圧されて脱出不可能だろうし、有線による本土への通信も期待できないだろうね」
「どうする?」
「とりあえず、僕達がここにいても何も出来ない。一先ずは研究室に向かおう」
「解った」
大君と宙光は大学の研究室に向けて駆け出した。
「宙光、敵の目的は何だと思う?」
「それについて、実は親父とも話したことがあるんだけどね」
「昴流と? 事前に?」
「うん。実を言うと、この間の選挙前後からフューマン法反対派の動きが活発でね」
「誘拐に、未来党の切り捨て……確かに色々と続くな」
「僕達はその背景をこう考えていたんだ。フューマンの軍事転用が目的なのでは、と」
「なるほど。人権さえ持たなければ、ただの無人戦闘ロボットという訳だ」
「だけどね。各国とも、最後のピースがどうしても突破できていないんだ」
「最後のピースとは?」
「フューマンの、いやAIの最も根幹にある基本原則、人間を支えること。これに反する行動として、AIは人間に害を成すと認識する行為が出来ないんだ。もしこれを無理矢理にでも実行させると、AIは自らの存在意義に矛盾が生じることとなり、深刻なエラーとなって自己を崩壊させてしまう」
「だから軍事利用が出来ないんだな」
「そう。……だけど、それを覆し得るシステムが、ここ未来島にはあるんだ」
「それが敵の目的か。……で、それは一体何なんだ?」
「お爺ちゃんも知っているはずだよ」
宙光は大君を見た。
「7年前、お爺ちゃんが二度目の死を迎えてしまったあの事件のきっかけ。親父の気持ちを変に邪推したナナは、僕と明日葉の関係を裂こうと明日葉を追い込み……」
「人を害することの出来た唯一のフューマン、そう言うことになるのか」
「……何故、そうなったのかは解らない。既にその時点で深刻なエラーが生じていたのかも知れないし、フューマンとしての可能性から解き放たれ、本当に人としての心が宿っていたのかも知れない」
「つまり敵の狙いはSシステムに眠るナナさん」
「だと考えるのが妥当だね」
「もしそれが他国の手に渡ってしまえば」
「解析結果として、無人の戦闘部隊が完成してしまうかも知れない」
「だから昴流は、その前にフューマンに人権を与えようとしていたのか」
「世界に、戦争の火種をばら撒いてはいけないんだ」
「絶対に阻止しないと」
二人は研究室に向かうその足を早めた。その時だった。
「お爺ちゃん、あれ!」
二人の眼前に、今まさに暴走した中華フューマンに追い詰められた老夫婦がいた。老夫婦は二人の姿を見つけると助けを求めるように手を伸ばした。間髪置かずに動いたのは大君だった。大君は近くにあった手頃な大きさの店舗看板を手に持つと、一切の迷い無く中華フューマンの元へ駆け出し、その後頭部へ看板を叩き付けた。
「うわ。お爺ちゃん、容赦ねー……」
中華フューマンは倒れて動かなくなっていた。大君は老夫婦に礼を言わせる間も無く近くの建物等に隠れるよう勧め、先へ向かわせた。
「暴走してたとは言え、元は誰かの財産だよ? それ。幾らすると思ってるの?」
「今はそんなことを気にしている状況じゃない。宙光、もう研究室も近い。このフューマンをサンプルに持って行くぞ」
「ええ!? 本当に?」
「友親君なら、何かに役立てられるかも知れない」
「ええい! もう解ったよ!」
二人は動かなくなった中華フューマンを抱えて研究室へと向かった。






