新しい家族
「あのー。そろそろ僕達もお爺ちゃんと話したいんだけどさ」
病室を覗き込んで宙光が言った。
「あ、すまない。つい時間を忘れて」
昴流は時計を見て飛び上がった。
「しまった! 予定を忘れていた」
「昴流、忙しいのか?」
「実は、衆議院解散が近くてね。やることが沢山あるんだ。すまない父さん、僕ちょっと行かなきゃならない」
「ああ、気にするな早く行け」
「宙光すまない、来てくれた皆にも謝っておいてくれ」
そう言い残して昴流は駆け足で病室から出て行った。
「全く親父のやつ忙しなく……まあ、やっと会えたんだ、解る気もしないでもないけど」
「仲良くやれてるようじゃないか。……それより宙光、結婚したんだって? おめでとう」
「あはは、聞いたんだ。ありがとう」
そこへ明日葉も顔を出す。
「大君さん、お久しぶりです」
「明日葉ちゃん! また会えて嬉しいよ」
「これから毎日会えますよ~。だってもう、私達は家族なんですから」
「聞いたよ。早く乃々花ちゃんに会いたいよ」
「あ、あのクソ親父! 驚かせるつもりだったのに言いやがった!」
「まあまあ宙光君、ネタはもう一つあるでしょ」
「あ、それもそうだね。明日葉、教えてあげて」
「うん」
宙光と明日葉はアイコンタクトを取って大君に満面の笑顔を向けた。
「実は、また一人家族が増えまーす!」
そう言って明日葉は自身のお腹に手を当てて見せた。
「本当かい!? もう一体この喜びをどうすれば良いんだ俺は」
「まだまだ先の予定なんですけどね」
「いやもう言葉にならないくらい嬉しいよ……でも心配だな。俺、本当に邪魔じゃない?」
「ぜーんぜん。大君さんは三人兄弟の一番お兄ちゃんになるんですよ」
「そうだよお爺ちゃん。それに僕達がそばにいれば機能に万が一があっても安心だしね」
「本当に何から何まで助かるよ」
「一応、まだフューマンに人権は認められていないから、形式上は宙光君が所有者ってことになっちゃうんだけど、そこは今、昴流さんが尽力してますからね」
「ああ、それで昴流のやつ衆議院解散がどうだとか忙しそうに出て行ったのか」
「上手く行けば今回の選挙でいいとこ行くんじゃないですかね~」
「ちょっとの間、嫌かも知れないけど我慢してねお爺ちゃん。僕だって例え形式上のものであっても所有権だなんて言いたくないんだ。好きにしてて良いんだからね」
「色々迷惑かけるけど、よろしく頼むよ」
「こちらこそ。お爺ちゃんよろしく」
「でもさ~、本当のところ宙光君、大丈夫?」
「ん? 何がだい明日葉?」
「妻の元カレが同じ屋根の下で一緒に暮らすとかさ」
「「ぶっ!!」」
瞬間、大君も宙光も吹き出した。
「明日葉! 僕だって怒るぞ」
「そうだよ明日葉ちゃん!」
「あはは、ごめんなさーい」
明日葉は大げさに手を振って空気をうやむやにした。
「でも正直なところ、お爺ちゃんの存在は僕にとって、もうそういう次元じゃないかな。大恩人っていうか、尊敬する人っていうか、なんかこう、特別な人なんだ。無条件に信用してるって言うのかな……だから大丈夫」
「そっか。じゃあ、私達、もう完全に家族なんだね」
「うん、そう。そんな感じ」
「いいね。家族って」
「うん。……近頃、ようやくお爺ちゃんや親父の気持ちが解るようになってきた気がしているんだ、まだまだ新米パパだけどね」
「このお、良いパパしやがって~」
明日葉が肘で宙光をグリグリと押した。
「ほんと、見せ付けてくれるよな~」
そう言う大君は呆れたようで屈託のない笑顔だった。
「そう言うお爺ちゃんだって! 瑞樹さん、どんだけ美人だったんだよ~」
「あ、私もそれ思った! 今日初めてお会いしたけど、私この人に負けたのか~って、ちょっとショックだった半面、なんか解っちゃったって言うか……」
「と言っても、もう80になる歳だぞ」
「年齢じゃないよね、人って」
「そうそう。会いに行ってあげたら? 僕らに気を遣って外で待ってるから」
「……そうだな。ちょっと顔を合わせ難いけど、色々謝りたいこともあるしな」
大君はそう言って欠伸を一つ、そして大きな伸びをしてベッドから降りた。






