連立政権
その日は日差しも柔らかく、大君は研究室で寝転がっては脳内で雑誌を読んでいた。
「そう言えば大君殿、今度は人気動画配信者とコラボするらしいですな?」
友親は目の前に横たわる研究用フューマンに視線をやりながらキーボードを叩いていた。
「そうなんだよ。昴流がわざわざ俺の事務所を作ってくれたみたいでさ。CMやら何やら、講演会以外にも露出する機会が増えそうなんだよな……忙しくなりそうだ」
「人間とフューマンの架け橋、順調のようですな」
「ま、昴流の助けになるのなら頑張ってみるさ」
そこへ瑛奈が現れた。
「あ~っ! トモチーがフューマンにいやらしいことしてる~」
「ちょっ! エーナさん、人聞きの悪い! 研究ですよ研究」
「ベッドに寝かせて女体の神秘の研究、みたいな?」
「ちちち、違いますよ。ハッキング中に姿勢制御を失ったら困るからですね……」
「でも、おっぱい揉む必要ないじゃん?」
「みみみ、見てたんですか!?」
「……」
「……」
「……トモチー」
「……ごめんなさい」
「そのフューマンに人格はあるの?」
「いえ。准教授が手配してくれた研究用です」
「なら良いって訳じゃないけど、今回は正直に白状したので不問とす」
「有り難き幸せ」
そんな様子を見ていた大君が小さく笑ったその時、息を巻いて那彩が現れた。
「大変です! 今すぐテレビを! ううん、ラジオでも何でも」
「どったのナーヤちゃん? そんなに慌てて」
「連立政権が崩壊しました!」
「「なんだって!?」」
「今から緊急会見です。宙光さんは?」
「宙光なら今さっき出て行ったけど」
「なら、もうご存知なのかも知れませんね」
「那彩殿、一体どうなっているでござるか? 未来連立がこんなにもアッサリと。しかも選挙直後だって言うのに」
「まずは会見を」
那彩はリモコンを操作して研究室のテレビを点けた。
画面に映し出されたニュースキャスターが語る。
「つい先程、未来民主党総裁である古美門総理大臣より緊急発表がなされました。これによりますと未来民主党は未来党との連立政権を解消し、新たに新明党と連立政権を組むことになります。これによって未来民主党は議席の過半数を維持しつつ新たな内閣を発足させるべく人事を進めるものと思われます。ここ数年、長く手を取り合ってきた未来党との関係解消の裏にはどのような意図があるのか、この後の会見によって明らかになるものと思われます」
暫くの沈黙の後、最初に言葉を発したのは友親だった。
「これ、未来党は切り捨てられたと言う事でござるか?」
「トモチー、言い方。ナーヤちゃんのお父さんのことなんだよ?」
「あ……那彩殿、ごめんでござる」
「良いんです、事実ですから」
「それにしても那彩ちゃん。こんな重大な変更が、どうしてこんな急に?」
「そこなんですよ。目的は大よそフューマン法の阻止だと思われるんですが、いくら何だってこんな方向転換が簡単に行える訳がないんです。何か大きな力が働いているんじゃないでしょうか? 例えば海外から、とか」
「新しく連立を組む新明党、だっけ? 確かアメリカ等と外交に強いとか言ってた……」
「そうかも知れない……ねえ大君くん。私達が拉致された時にいたもう一人の犯人、あの女性、顔は見えなかったけどイントネーションとか何となく外国人ぽくなかった?」
「関係してるかも知れないってこと?」
「解らない。こんな情報だけじゃ単なる偶然や思い込みの可能性の方が高いかもだけど」
「とりあえず、昴流には一応話しておくか。何かの役に立つかも知れない」
大君は即座に昴流に連絡を試みた。
「これ、フューマン法ヤババじゃない?」
「それどころか、未来島の運営にも影響が出かねないでござる……」
ゼミの中にも不安が広がり始めた。






