誘拐(2)
「大変でござる! 大君殿が何者かに拉致られたでござる!」
ゼミの連絡網に衝撃が走る。
「何それ!? トモチー何で解るの!?」
「大君殿からのメール。たれでさごちでら……これは、でござる暗号でござる」
「反対から読んで『拉致された』、あーねー……、低次元過ぎて逆に見破られなそう」
「丁嵐君、他に何か解ってることは?」
「今、天照で調べているところでござる。Sシステムも使っているでござるが?」
「もちろん構わない。システム援護は丁嵐君に頼むよ。僕は父さんに連絡しつつ協力して状況を把握するつもりだ。それとみんな、念のため身の回りに警戒しておくんだよ」
「「了解!」」
「それから……既読にならないようだけど、那彩君は忙しいかな?」
「いや……下手したら、一緒に拉致られてる可能性がただ今絶賛浮上中でござる」
「トモチー、それどういうこと?」
「どうも数時間前から大君殿と那彩殿の携帯端末が一緒に移動しているようでござる」
「そんなことまで解るの?」
「Sシステムによる空間把握機能の一つでござる。大君殿と那彩殿の端末が予め特定できていたからこそすぐに解ったのではござるが……あ、もちろんこの連絡網は二人の端末は除外しているでござるよ? こちらの情報が犯人に筒抜けになるからして」
「凄いのは解ったけど……休日に二人の端末が一緒にって、つまりデートってこと!?」
「今はそんなこと言ってる場合ではないでござる! 実は先程から大君殿の端末の反応が途絶えて……ん! ちょっと待つでござる。那彩殿の端末から発信あり。天照! 傍受するでござる!」
車の後部座席で休んでいた誠也は電話の発信者が娘であることを確認して応答した。
「那彩か、どうかしたのか?」
「御面誠也、良く聞け。この電話が娘の携帯から架かって来た意味を良く考えた上で、今回の選挙を降りる旨を今から一時間以内に公表せよ」
「なに!? お前は一体何者だ?」
「お前が知る必要は無い。公表が確認できれば娘は直ちに解放してやる」
「ふざけるな! 娘は無事なのか」
「先程までは、な。今は事情により別行動中であるが、代わりにこの電話の後、我々が娘を拘束している証拠写真を送付する。くれぐれも余計な真似をしないことを勧める」
「ま、待て! 流石に一時間では短過ぎる」
「お前の公式アカウントから投稿すれば五分と掛かるまい? 記者会見でも何でも方法は問うまいが、世間が正しく認識できればそれで良い。後は娘が早く解放されるかどうかの違いだけだ」
そこで電話は途絶えた。
直後に誠也の端末に届いた写真には拘束された那彩が写っていた。
「くそ、なんと言うことだ……」
そこへ昴流からの着信が入った。
「はい御面です。昴流さん、実は今、大変なことになりました」
「はい。こちらも今、息子から事情を聞きました。どうやら私の父も一緒に拉致されている可能性が高いようです」
「なんですって!?」
「大丈夫、先程そちらに架かって来た犯人からの電話も天照によって傍受できているようです。恐らくその犯人は携帯を破棄し既に行方を眩ませているでしょうが、二人を拘束している方については現在全力で捜索を続けさせています」
「なんという対応の早さ……一体何が起きているのですか?」
「まず、今回の誘拐に関して目的は誠也さんの失脚でしょうね。恐らく狙いはフューマン法の阻止でしょう。しかし、ここ未来島は私達の掌の上だ」
「そんなに簡単に見つかるのでしょうか?」
「ええ。任せておいて間違いは無いかと思います。心中はお察ししますが、誠也さんもどうか早まった判断をせず、暫く静観を願えますか?」
「……はい。娘を、よろしくお願いします」
「見つけた、恐らくこの車でござる。現在商業区付近から環状線に乗って港湾部方面に移動中」
「は!? トモチーまじで? 何したん?」
「別に大したことは何も。大君殿達が車の速度で移動を開始したのが攫われたと思われる位置、それから暗号メールがあった位置、那彩殿の携帯から脅迫電話があった位置を割り出して移動ラインを推定。そしてその付近から電波を遮断して走行している車両がたった一つだけ見つかった……後はそれを定点カメラで捕捉してマップと連動、カメラを切り替えて追っているだけでござる」
「はあ!? 何でそんなことできんの?」
「Sシステムの柱の一つ、スペースは未来島全土を立体的に物理・電波の両面で把握しているからして。相手は警戒して電波妨害したつもりなのでござろうが、逆に電波が遮断されてポッカリ空いた空間こそが私ですと言っているようなものでござるよ」
「ヤババ! トモチー変態じゃん」
「酷い言い方でござる……」
「でも丁嵐君凄いよ、良くぞこの短時間で。ありがとう」
「拙者にできることはこれくらいでござるが……後はどうしたら良いでござるか?」
「現場はプロに任せるしかないね。二人を乗せた車は環状線を走行中のようだけど、どうにかして二人に危険が及ばぬよう隙が作れないものか……」
「車が何処かに停まるまで様子を見るでござるか?」
「停まらなかったらトモチーどうする?」
「え? 何処かアジト的な場所に向かうのでは?」
「その可能性もあるけど、撤退表明までたった一時間の拘束だよね? 犯人の心理を考えてみて? アタシが犯人の立場ならそれまでの間環状線をひたすら走ってるかもよ? だって人質乗せてれば最悪車を特定されても下手に手出しできないじゃん? 一時間で要求に応えなかった時に初めてアジトに向かうことを考えても良いよね」
「あ~。それは考えたく無かったけど、第一目的が誠也さんの失脚ならば、犯人側の行動としては正しいのかも知れないね。それは困ったな」
「しかもその場合、そんな役目の犯人捕まえたところで末端の捨て駒要因は確定だよね~」
「……目茶川さん、結構指摘がエグいね」
「仕方ないじゃん? むしろ悪いことを想定しておいた方が良くないセンセ?」
「確かに目茶川さんの言う通りだね。とりあえず該当車両は現地で追跡しておいてもらうしかないとして……」
「状況が変わるのを待つしかないでござるか?」
「悔しいけど……現実的には延々と走り続けられるとキツいね」
「それどころか追跡に気付いた犯人が、クソもう終わりだ。こうなったら捕まる前にこの女でもグヘヘヘ……」
「あーっ! そんな最悪な心理想定はやめるでござるよ!」






