夢
「そう言えば、那彩ちゃんは中学からの飛び級だって?」
「あ、大君くんは知らないよね。でも今はわりと普通のことなんだよ? 近年は子供の学力格差が物凄く大きくなっているから、伸びる人材に足並みを揃えさせるのではなく、よりその力を伸ばせるように制度が整っているの。具体的には、中学卒業前に高校卒業資格を取得又は取得見込みで大学入試を受けられるんだよ?」
「いやいやお爺ちゃん。那彩さんは簡単に言うけどね、とんでもないことなんだよ。義務教育中に高校までの学業を修めるばかりか、大学入試も普通に高校生と競うんだからね。しかもこの大学、FHFへの就職率が良いせいか凄い倍率なんだから。中学生からストレートで入って来れるのは数年に一人くらいかな。それでも今年中学生からの入学は那彩さん以外にもう一人いるんだ、どうなっているんだろうね最近の子は」
「天才って言うんだろうなあ」
「とんでもない、恐縮です。私はただ、人の役に立ちたいだけで……」
「ははは、立派に陶冶されたものだよ。学部は……確か医学部だったね」
「はい。祖母のような立派な医師になりたいと考えています」
「そうか……寿満子さんの病院を継ぐのかい?」
「それも選択肢にはありました」
「であれば、何もウチの大学でなくても良い大学は沢山あると思うけど」
「ですが近年の動向を見るに、フューマンの参画やブレインコンピュータデバイスの登場等により、従来の医学に無い知識が必要になってくると私は考えております。そのため、どうしてもここでしか学べない高次元の脳機工学の知識が必要と思い、志望しました」
「その若さでその遠望も去ることながら、驚いたな。BCDのことまで知っているのかい」
「はい。大君くんに用いた技術の応用で、人間の脳に接続して様々なサポートをする機械……そう、父からは聞き及んでおります」
「なるほど誠也さんにね。そっちの面では色々お世話になっているよ」
「持ちつ持たれつ、ですね。父も今回の選挙でも力強いご支援を頂いております」
「僕達としても誠也さん、未来党には頑張ってもらいたいからね」
「おかげさまで。油断こそ出来ませんが、今回もまた議席を増やせそうな見込みであると父も申しております」
「共に頑張ろうね。……ついでに、親父の奴の夢にも一歩近づく」
「昴流の夢?」
「うん。フューマンに人権を、ってやつ」
「なるほど。BCDによって機械の脳を手に入れた人間と、人間の脳を手に入れたフューマン、その境界は徐々に曖昧になってくるってことか」
「そう言うこと。お爺ちゃんにとっても大事なことだね」
「そっか……俺の使命でもあるんだったな。人間とフューマンの架け橋になること」
「やれるよ、絶対に叶う。皆で力を合わせれば絶対に」
「あ、あの。私も微力ながら協力させていただきます」
「心強いよ! よおし、良い流れになってきた! 僕らもより一層頑張らなきゃ!」
研究室で語られる夢は大きく膨れ上がった。






