恩人の孫
講義が終わると、大君と宙光は揃って研究室に戻り雑談をしていた。
「それにしても、宙光の講義、もの凄く人気だったな」
「あはは、ありがとう。これでもフューマン技術の最先端を走ってるからね。結構ウチのゼミに参加したがってる学生も多いんだって聞くよ」
「ははあ、流石だなあ。……でもそうなると、なかなかそのお眼鏡に適う学生も?」
「ははは。言っちゃなんだけど、僕は結構厳しいんだよ?」
「うちの家系は本当に凄いなあ……。あ、家系と言えば」
大君がそう言い掛けたところで研究室のドアがノックされた。
「喜屋武准教授、いらっしゃいますか? 先程の講義で質問させていただきました御面那彩と申します」
「やあ! 待っていたよ、どうぞ入って!」
「失礼します」
研究室のドアを開いて那彩が顔を覗かせた。
「やあ御面さん、歓迎するよ」
宙光が嬉しげにそれを迎え入れる。
「ささ、どうぞそこへ座って。さっき丁度、お爺ちゃんと君の話をしていたんだ」
宙光はソファの上の書類を片付け、そこへ那彩を促した。
「どうも、初めまして。喜屋武大君と申します」
「初めまして、私は御面那彩と申します。喜屋武大君さん、お会いできて光栄です」
「こちらこそ。先程宙光から伺いました、何でも寿満子さんのお孫さんだとか」
「あ、はい。祖母祖父、父と、家族代々、大変お世話になっております」
「ははは。御面さん、お爺ちゃん。ここではそんなに硬くならなくても良いんじゃないかな? お互いに素性を知らない訳じゃないんだし」
「そうか。確か昴流も政治面で色々とお世話になっているんでしたね。大体、この未来島自体が御面さんが尽力してくれた賜物だと聞きました」
「とんでもない。祖母からは全て昴流さんのお力だと伺っております」
「だから二人とも硬い硬い。僕達は言わば身内みたいなものなんだからさ」
「……宙光の言うとおりかもね。御面さんもどうぞ緊張を解いて。それから俺には敬語も要らないよ、なんたって俺は今10歳の子供、君より年下なんだからね」
「あ、はい。では失礼して」
言われて那彩は少し表情を緩めた。
「よろしくおねがい……ね? 大君、くん」
「うん! こちらこそよろしく!」
そこでようやく那彩の緊張が解れたように笑顔になった。
「喜屋武准教授もよろ……」
「僕は宙光だよ、他の学生の前ではそれで良いけど」
「よ、よろしくお願いします、宙光さん」
「はい、よろしく。ところで君のことは那彩さんで良いかな? 寿満子さんや誠也さんと区別つかなくなっちゃうから」
「もちろんです。お二人とも、どうぞ私のことは那彩とお呼びください」
「それじゃあ遠慮なく、僕は那彩さんと呼ばせてもらうよ」
「俺は年も近いから、那彩ちゃんかな?」
「あ、はい! よろしくお願いします」
こうして三人で交誼を結び、次第にぎこちなさは解消されていった。






