⑨目的
「アンタは、なんでこの学園に入学したの?」
アイナとお昼を食べていると、そんなことを聞かれた。ここに来て初めて、新入生同士らしい質問が来た。ようやく、事前に用意していた設定を使う時が来たようだ。
「影」にはありとあらゆる隠れ蓑が用意されている。そのうちのひとつ、名前だけ商会ギルドに登録されているブリッツ商会を元に、俺自身の設定をつくりあげた。
「僕は人脈形成だね。うちは田舎で細々やってる商会だから、学園内で貴族とのコネのひとつでも出来ればなって感じかな。」
「なるほどね、たしかに悪いけどブリッツ商会って名前は聞いたことないわ。」
「そういうこと、だから今は貴族様の情報を集めてるのさ。」
こう言っておけば、いつか東侯爵の娘エルレイナ=リーズファルトの情報も入ってくるかもしれない。
「そういうことなら、アタシも協力してあげる。」
「天下のグリーブ商会様にそう言って貰えるのは心強いよ。ありがとう。」
「大袈裟ね。まあ、とは言ってもアンタなら、クラスメイトの貴族たちとも仲良くやってけるんだろうけど。」
「そんなことないさ。それにしても、今年に入学できたのはラッキーだったかな。」
「確かに、クラスメイトには貴族階級の中上位が多いし、なんて言ったってあの東侯爵家もいるからね。」
「リリがいるのは確かに大きいかな。人柄的にも、仲良くさせて貰いたいよ。」
ついでに言うと、この後リリが休んでいる保健室に、顔を出しておきたい。
「お見舞いにでも行ってきたら?彼女、今保健室でしょ。」
わお。
渡りに船とはこの事だな。アイナからそう切り出して貰えると、こちらとしても会いに行きやすい。
「そうだね。昼休みのうちに、お見舞いに行ってこようかな。」
「それなら早く行ってきなさい。アタシは味わって食べたいからここでゆっくりしていくわ。」
俺は少し前に日替わり定食を完食していた。アイナはまだもぐもぐ食べている。
「ありがとう。じゃあ僕は先に失礼するよ。」
「あ、一つだけ忠告。彼女の姉、勘が鋭いから下心、気をつけてね。ま、会うことはそうないだろうけど。」
「肝に銘じておくよ。」
そう言って俺は席を立った。
思わぬタイミングで一つ、エルレイナの情報を得ることが出来た。
勘ごときに、俺の偽装がばれるとは思えないが。それに、アイナも言っていたが、そもそも会うこともないだろう。時間はまだたっぷりある。エルレイナの情報収集は少しずつ、進めていこう。
まずは、エルレイナの妹、リリがいる保健室からだ。