⑦才能後編
物心がついた頃、既に「影」に居た俺は、厳しい訓練を繰り返す毎日を過ごしていた。
この国を護るため、格闘術、暗殺術、語学、果てはビジネスマナーまで、必要なことを全て叩き込まれてきた。
俺には5人の同期がいる。
途中までは俺も、皆と肩を並べながら成長出来ていた。
しかし、俺は.....
俺は、人を殺めることが出来なかった。不穏分子の排除、それが出来ない俺は、暗殺部隊をサポートする諜報部門に入ることになった。同期からも落ちこぼれと蔑まれ、彼らの中で同期は4人という事になってるらしい。
泣けるね。
まあ、そんな過去の暗い話は置いておいて、ついに俺の才能をお披露目する時が来た。
俺の才能に期待してる人がもしいるのならば、本当に申し訳ないが、この才能は落ちこぼれの原因の1つとなるくらいしょうもない。
さて、俺はみんなの前に立ち、まずはどんなものかを説明する。
「僕の才能は、物体の位置を入れ替えることができます。ただし、手に持てるサイズのものに限りますが。」
そう言って、俺も小石を拾った。拾った小石の重さを確かめながら、感覚的に入れ替えられそうなものを探す。対象物に意識を集中し、入れ替えを実行。手の中で小石が消え、代わりに対象物が手の中に収まる。
この才能は使用時に体力を消費する。今回は軽いものだからそこまで疲れることは無かったが、重いものを入れ替えようとすると、ものすごく疲れたり、場合によってはリリのように気絶してしまうこともある。
入れ替えが完了し、対象物であるペンを掲げた。
「このように、小石がペンに早変わり!なんて、手品じゃないですよ〜。」
申し訳程度の笑いが起きる。
ちょっとすべったか。
「あの〜、私のペン、返してもらっていいですか?」
「もちろんです。ご協力ありがとうございました。」
そう言って小石を握っているニナ先生にペンを返した。
「はい!それではこれでリリレイルさん以外は全員終了しましたね〜。お疲れ様でした!午前はここまでになります!それでは食堂まで案内するのでついてきてくださ〜い。」
こうして、俺は入学初日の午前を難なく乗り越えた。