⑥才能中編
治癒の才能。
その才能を持つものは数少ない。それを持つものは、ありとあらゆる方面から引く手あまたとなり、人生勝ち組と言われている程の才能だ。しかし、あまり知られていないが、その才能は使用時にかなりの体力を消費するという。
リリレイル=リーズファルト。
彼女は治癒の才能を持ちながら、上手く使いこなせず、ずっと悩んでいた。それが俺の知りうる彼女の才能に関する情報だ。そして今彼女は、瀕死の鳥を目前に、その才能を使おうとしている。
「この鳥を助けるって言っても、可哀想だけどもう瀕死だよ?」
何も知らないふりをして、俺はリリにそう言った。
「あたしの治癒の才能なら、助けることが出来るの!でも、上手く使いこなせるか不安で...」
「もしかして、治癒の才能を持ってるの!?凄いじゃないか!でも確か、すごく体力を使うんだよね...」
「ゼルノくんよく知ってるね!?そうなの、だから、もしもあたしが気絶しちゃったら、その時はお願い!じゃあ鳥さんを助けるねっ。」
そう言ってリリはしゃがみこんで、鳥に手を当て目を瞑った。すると鳥が暖かな光に包まれ出した。時間にしてものの数秒、その光は収まり、そして鳥は起き上がった。
「リリ凄いよ!鳥が元気になったよ!...リリ??」
「ゼルノくん.....ごめん.....」
彼女はそう言って俺の方に倒れかかってきた。彼女を受止め、その際に息があることを確認した。どうやら気絶してしまったようだ。
うん、めっちゃいいにおい。そして柔らかい。
しかし、彼女のその立派な双璧を堪能している暇は無さそうだ。
「ニナ先生!リリが倒れました!」
「え!な、何があったんですか!?」
ニナ先生が慌ててこちらに駆け寄ってきた。みんなからの注目も集まる。俺はリリの才能のことを含めて、状況を説明した。
「リリちゃん凄い...!!」
「治癒の才能か...」
「鳥を救ったなんて素晴らしいなリリレイルさん...」
皆、彼女に対して驚いたり褒め称えたりしている。そんな中、目の端に舌打ちするニックの姿が映ったが、見なかったことにしよう。
彼女は速やかに医務室に運ばれて行った。まだ微かに彼女の香りが俺の服に残っている。
さて、才能のお披露目はジャックの番から再開するようだ。みんなの前に立つだけで緊張するのか、顔が真っ青だ。頑張れジャック。
「ぼ、僕の才能は、複製です....。手で、持てるサイズのものを複製することが、できます....。」
一見、使い道が少なそうだが、悪くない才能だ。彼もまた、ニックと同様に小石を手に取り、複製して見せた。見た目が地味なのが故に、みんなからの反応は薄い。
「はっ、ショボイ才能だな。」
ニックが馬鹿にするようにそう言った。それに同調するように取り巻き達も笑いだした。
「コラコラ!、そんなこと言っちゃだめですよ!どんな才能でも結局は使い方次第なんですから!」
ニナ先生がそう注意した。さすがは先生、とてもいい事をいいことを言っている。しかしニックたちは一切聞いていなさそうだ。実際才能は使い方次第で化けるものが多い。ジャックの才能も、使い方次第ではこの国を救うかもしれない。なんてね。
「ああいうのって不愉快だよね〜。」
なんてことを考えてると、急に隣から話しかけられた。
「ああいうのって?」
「分かるでしょ?あの馬鹿にする感じ。」
そこまで背丈の高くない俺よりも頭1つ分位小さく、気の強そうな眼差しでこっちを見ている彼女は、アイナ=グリーブだ。グリーブ商会の一人娘であり、貴族には思うところがあるのかもしれない。
「そうだね。見ていて面白いものでは無かったね。」
「何よその煮え切らない感じは。アンタもアタシと同じ、商人なら分かるでしょ?」
「気持ちはもちろんわかるよ?でも、いちいち気にしていたらキリがないだろ?感情を押し殺すことも商人には必要だよ。」
「ぐっ、それもそうね...。お父様にも感情を表に出しすぎって、よく注意されたわ。」
そう言ってアイナは、その赤い髪のツインテールを少ししゅんとさせた。確かに、彼女のその豊かな感情は、商人にはあまり向いていなさそうだ。そんな彼女の才能は、身体能力向上と、これまた商人にはあまり必要のなさそうな能力を持っている。
「次は、ゼルノ=ブリッツ君!お願いします!」
ニナ先生からそう声がかかった。俺の番が来たようだ。
「じゃあちょっと行ってくる。」
「アンタの才能、どんなものか楽しみね。」
期待してもらってるところ申し訳ないが、ほんとに俺の才能はしょうもない。
今からそれを証明するとしよう。