⑤才能前編
「才能」
それは誰しもが一つは持っている能力だ。そして才能の種類は、使えるものから全く使えないものまで様々だ。
例えば、この国に知らない人はいないと言われるほどの伝説の剣士 コール=ステイマン。彼は「超加速」という才能を持っており、戦場では誰も目でとらえることができなかったという。
俺も幼少期はかっこいい才能が欲しいと願ったものだ。
さて、俺たち新入生は自己紹介を終えた後、担任の二ナ先生に連れられて演習棟に属するグラウンドへとやってきた。演習棟は座学等から少し離れた場所に位置しており、広々としたグラウンドが隣接している。俺たち新入生はそのグラウンドでニナ先生の前に整列していた。
「これから皆さんには、才能を見せてもらいます!」
いきなり二ナ先生からそう告げられ、一気にみんながざわつき始めた。
「見られるの恥ずかしよ・・・」
「俺の才能、しょぼいし見られたくないんだけど」
「聞いてないってこんなこと・・・」
急に訪れたこの状況には、主に才能に自信のない生徒からしたらやはり不満があるようだ。
「ど、どんな才能でも評価が下がることはありません!学園としては生徒の情報を把握しておく必要があるのです。だから皆さんの才能を見せてください。」
二ナ先生が必死に説明している。言っている内容は分かるし、正しいとも思うが、みんなの前で自分の才能を披露するのはなかなか厳しいものがある。
俺もできればそんなことはしたくない。
それに周りには、数人の大人が紙とペンを片手に待機しており、評価をつけるかのようにこちらを見ている。その視線を感じて萎縮してしまう生徒も多いようだ。
「ごちゃごちゃ言ってないで始めましょうよ二ナ先生。」
自信満々にそう発言したのはニックだ。彼はどうやら自分の才能に自信があるらしい。そしてその発言には、貴族階級が下のクラスメイト達は黙らざるを得ない。
まあ、今はニックも理不尽なことを言っている訳では無いし、このままでは、ニナ先生も困るだろう。ニックの発言によって、どうやら先に進みそうだ。
「それじゃあニック君からお願いします!」
二ナ先生に名指しされて、ニックは才能を見せるため、みんなの前に立った。
「それでは始めますね!ニック君、どんな才能なのか教えてくださいっ。お願いします!」
「俺の才能は念動力だ。触れたものを自在に動かすことができる。」
ニックは得意げに片目を閉じながら説明を始めた。自信満々だったこともうなずける、かなり優秀な才能だ。クラスメイトからの羨望のまなざしを受け、ニックも誇らしげに立っている。
「では、実際に見せてください!」
二ナ先生がそう言うと、ニックは足元に落ちていた小石を拾い上げた。どうやらその小石を使って実演をするようだ。
「この石を浮かせて飛ばす。俺の才能をよく見ておけよ。」
ニックの手のひらに置かれた小石が浮かび始めた。ぷかぷかと浮かんだ小石を自由自在に動かして見せる。
「「「「おおっ...」」」」
ニックの才能を目の当たりにしたクラスメイトからの感嘆の声が上がり、満更でもなさそうだ。
「まだまだこれだけじゃないぜ。あの鳥を撃ち落としてやる。」
調子に乗ったニックは空を見上げながらそんなことを言い出した。そして空に向かって小石を操る腕を振り抜いた。すると小石は勢いに乗って空へ飛んで行き、空を飛ぶ一羽の鳥を撃ち落とした。
「まっ、ざっとこんなものさ。才能の違いを見せつけちまったかな。」
才能は遺伝する。貴族階級の上位ともなると、優秀な才能を持つものを家系に取り込んだりすることもある。たしかロイム家は特にそういった事を積極的に行っているはずだ。どうりで優秀な才能を持っているはずだ
「ニック様!さすがです!」
「素晴らしい才能を見せていただきありがとうございます!」
どうやら既に取り巻きのようなものも居るみたいだ。ニックグループだな。ニックは取り巻きにチヤホヤされなが満足そうにしてる。そして次のクラスメイトが才能を見せるためにみんなの前に出てきた。ニックのおかげでこのまま滞りなく進みそうだ。
ふと、撃ち落とされた鳥が気になり目を向けると、リリがその鳥を悲しそうに見つめていた。
使うのだろうか、彼女の才能を。
ここはひとつ、リリとの親交を深めるために声をかけておこう。
「やあ、リリ。その鳥、可哀想だよね。もう助からないのかな。」
「ゼルノくん。うん、とっても可哀想.......。よしっ」
「どうしたんだい?」
「あたし、この鳥さんを助ける!」
どうやら彼女の才能を使うみたいだ。