③入学式
朝。大きなホールの中で長々と続けられる学園長の話に、何人もの生徒が夢の世界へといざなわれているようだ。これまで何日も徹夜を繰り返してきた俺にとって、これしきの眠気など屁でもない。
何事もなく入学式当日を迎え、俺たち新入生は学園内の大ホールに整列し、着席していた。そしてようやく、永遠に続くかのように思えた学園長の話も終わるようだ。
「え~、最後に一つ、ここ数日のうちに学園敷地内で不審者の目撃情報が相次いでいます。新入生の皆さんも気を付けてください。私からの話は以上です。」
ん!?
まばらな拍手が送られる中、俺は一気に眠気が吹き飛んだ。決して、拍手の音で目が覚めたわけではない。不審者の目撃情報に関して、心当たりがありすぎた。
俺は数日前から学園と学生を調べるために、王国学園に繰り返し潜入を行っていた。それを誰かに目撃されていたのだろうか。そんなはずはないと思いたいが、もしそうなのだとしたら、不審者とは俺のことだろう。
「大丈夫?顔色悪いよ?」
ご親切にもお隣さんから心配される始末。俺は一瞬で気持ちを落ち着かせ、とりあえず返事を返した。
「心配してくれてありがとう。少し学園長の話が長くて退屈でさ。」
「あはは、確かに長かったよね。あたしも眠くなっちゃったよ。それにしても怖いよね、不審者が出たなんて。」
小さな声で話す彼女の顔は近く、素敵な香りが漂ってきているが、気まずさのあまり別の意味でドキドキが止まらなかった。そんな俺の心情を知る由もない彼女はその目を再び正面に戻した。
「あっ、生徒会長のあいさつだよっ」
急に、テンションが数段上がった隣人の声を聴き、俺は目を前に向けた。舞台上には一人の女子生徒が立っていた。
それは、ただ立っているだけで、圧倒的な存在感を放っていた。
皆の視線は彼女にくぎ付けとなっていた。とても有名な人物だ。二年生にして生徒会長に就任、東侯爵の娘、容姿端麗、成績優秀、才能多数、数を挙げればきりがない。
そして、彼女こそがエルレイナ=リーズファルト。そう、俺の調査対象、王国に仇をなす恐れのある不穏分子だった。
俺はすっかり落ち着きを取り戻し、冷静に彼女の話を聞いた。
「新入生諸君。入学おめでとう。長話には辟易としているだろうから、私は手短に済ますとしよう。」
彼女の話はとても短かったがわかりやすく、ホール内の空気が変わっていくのを確かに感じた。皆、彼女の言葉を聞き入れ、心酔していくように見えた。俺は本能的に、彼女は危険だと感じた。彼女には何かを変える力があると。
「すごいねっ、生徒会長っ」
俺は再び隣人に目線を向ける。学園長の時とは比較にならに程の大きな拍手が喝采する中、とても興奮している様子の隣人の横顔は、生徒会長と、とてもよく似ていた。
俺は知っている。
リリレイル=リーズファルト、それが隣人の名前だ。