⑯会話
「リリはどうしてこの学園にきたんだい?」
学園寮のロビーで、いかにも高価そうなソファーに腰掛けながら、寮生活についてレイモンドの説明をそのまま伝えたあと、俺は雑談を装いつつそう質問した。
「ん〜、この学園なら、あたしの悩みを解決出来るかもって思ってさ、それが一番の理由かな。あとは、お姉ちゃんが居ることも大きかな!」
きた、早速エルレイナがでてきた。でもまだ焦っちゃいけない。まずは、その周りから削っていく。さも気になってるかのように、俺は質問を続ける。
「へ〜!そうなんだね。ちなみに、その悩みって何か聞いてもいいかな?」
「あたしの悩み?...それはまだ、教えられないかなぁ〜。ふふっ、もっと仲良くなったら、教えてあげるっ」
ぐっ...
大丈夫、全然興味なかったし。
姉の情報にしか興味無いし。
「そっか。残念だけど、そのうちまた聞かせてもらうからね。...そういえば、お姉さんが、生徒会長やってるんだっけ?」
ここで軽くジャブを打って、手応えを確かめておこう。
「そうなの!昔っから、お姉ちゃんはすごいんだよー!あたしに出来ないことだってなんでも出来るし!」
いきなりテンションが上がり、身を乗り出して、大きく手振りを交えながらリリはそう言った。早速獲物がエサに食らいついたようなので、違和感を与えない程度にリリの知る、エルレイナの情報を引き出していこう。
「昔から凄かったんだ!自慢のお姉さんなんだね。姉妹の仲も良さそうだ。」
「うん!自慢のお姉ちゃん!でも仲は....良いのかな....」
「違うのかい?」
「んー、お姉ちゃんはあんまりあたしのこと好きじゃないと思うんだ.....」
なんでだ。
絶対大好きだぞ。なるほど、姉はもしかして隠してるのか。自分のシスコンを。なぜ隠しているのか、それがなにか重要な意味を持っているのか、そのあたりはまだ分からないな。
「リリの事を好きじゃない人がいるなんて、僕はあんまり想像できないけどなぁ。」
ここで一歩踏み込み、変化球を投げてみる。
「ううん。そんな事ないよ。あたしにも色々あるからさ。」
こっちは手応え無しか。
今日はこの辺りで切り上げよう。
「そうだよね、色々、あるよね、誰だって.....さてと。そろそろ僕は行こうかな。」
そう言って俺は立ち上がった。
「今日は色々ありがとう、ゼルノ君。また明日ね!」
「うん。また明日!じゃあ。」
初日にしては上出来な進み具合かな。
俺はそのまま部屋に帰って明日に備えることにした。