⑮自由時間
王国学園に入学した生徒は全員学園寮で生活を行うというルールがある。
つまり、調査対象であるエルレイナも、この学園寮で生活しているというわけだ。
ちなみに三年生が三、四階、二年生が五、六階、そして一年生が七、八階に割り当てられていて、上級生になるほど階段を上る手間が省かれる。
一応、全生徒の部屋を調べておくか。男子棟は簡単だが、女子棟については知るための策を考えておく必要があるな。
とりあえず今日は学園の構造を把握しよう。そんなことを考えながら階段を上っていると、俺の部屋がある七階に着いていた。廊下を、相変わらずふかふかな絨毯を踏みながら進んでいくと、俺の部屋である705号室に到着した。扉の横にはネームプレートがはめ込まれているようだ。
これなら、全生徒の部屋を把握するのはそこまで難しくなさそうだ。
部屋の鍵を開けて中に入った。部屋はシンプルな構造をしていた。正方形の形をしていて、奥には1枚の窓、左側にベッド、右側には大きな棚がひとつと、机と椅子が備え付けられている。あとは、予め学園に送っておいた、ここで暮らすための荷物が、部屋の真ん中にまとめて置かれていた。
俺が持ってきたものは、服を含めた生活必需品のみだから荷解きも直ぐに終わるだろう。
他の新入生なら部屋の整理に今日一日はかかりそうだな。特に上級貴族たちは、自分で荷物を整理なんかしたこと無いだろうから。
ササッと荷物の整理を終わらせて、時刻を確認すると夕方の四時だ。
「学園内の散策でもするか。」
鍵だけを手に部屋を出て、一階ロビーに向かう。
入学前に数回学園に潜入しているため、ある程度の事は把握しているが、確認できていない場所もいくつかある。
さて、どこに向かおうか。
「あ!ゼルノくんだ!昼間はごめんね、急に倒れちゃって...」
ロビーに到着したところ、ニナ先生と共に帰ってきて寮の説明を受けているリリに、そう声をかけられた。
「やあ、リリ。体の調子は、もう大丈夫なの?」
「うん!おかげさまでっ。ゼルノくん、どこか行くの?」
「あぁ、散歩にでも行こうかなって思ってさ。」
別に嘘は言っていない。俺はこれから散歩に行くのだ。
「ゼルノ君、寮についての説明は受けてますよね。散歩ということは、これからは暇みたいなので、リリレイルさんへの寮生活の説明は任せました!」
「え、ちょ、ニナ先生?職務放棄ですか!?」
「違いますよ!私、寮は担当外なので、説明を受けたばかりのゼルノ君の方が適任かと思いまして。それに時間もあるようですし!」
勘弁してほしいと思いつつも、リリとの関係を深めることができるため、ある意味これはチャンスでもある。
しかし、学園の構造を把握しておくのも重要だからな...
うーん、悩ましい。
急に、柔らかくて温かいものに俺の手が包まれた。
「お願いゼルノくん。あたしに寮のこと教えてくれない?」
「もちろん是非ご説明させていただきます。」
手を握って見上げながらお願いなんてされたら、誰だって断れないだろう。
これは仕方がないことだ。
「?なんで敬語?ぜルノくんおもしろ〜いっ。」
「今のは冗談さ。とりあえず一階の説明からしていくね。」
やめろよドキドキするだろう。
これまで「影」での仕事に明け暮れていた俺からすると、女の子に褒められるだけで甘すぎて胸焼けしそうだが、そんな事はおくびにも出さず、平然としたフリをする。
「ではぜルノくん、あとはお任せしますね!」
そう言ってニナ先生は颯爽と帰っていった。
唐突に訪れたリリとの2人きりの状況。
この手を逃す気は無い。