⑪アイナの目的
右手にナイフ。
左手にフォーク。
ナイフでカットした1切れのステーキを、フォークで口に運ぶ。
咀嚼。
「っん〜〜〜っ!美味しい!」
思わず口にしてしまうほど、このデラックスステーキ定食は美味しい。
マスターシェフがレシピを監修している学園食堂で、毎日ご飯を食べられると言うだけでも、この学園に来た価値はあるとアタシは思っている。
再び、ナイフでカットした1切れのステーキを、フォークで口に運ぶ。
咀嚼。
「ん〜〜〜〜っ!!やっぱり美味しいっ」
もちろん、アタシがこの学園に来た目的は、このデラックスステーキ定食を食べるためじゃない。
ゼルノ=ブリッツでは無いけれど、アタシもとある目的があって、生徒会長に会いに来たんだ。
あの人の本当の目的を知れば、みんな驚くんじゃないかな。
「生徒会長、結構黒い噂があるらしいぜ。」
不意に聞こえてきた「生徒会長」と言うワードに、反応してしまった。
「え!あの生徒会長がですか!?一体どんな...」
「僕もそんな話は聞いたことがないです!」
アタシはバレないように、会話が行われているテーブルの方を、こっそり覗き見る。
そこには得意げな顔をしている小太りの青年と、パッとしない取り巻きが二人いた。
そう、ニックたちだ。
アタシは聞き耳を立てて、話の続きを聞くことにした。
「なんでもさ、裏で黒い組織と繋がってるとか、教師を買収しているとか、ホントだったらマジでやばいぜ。」
ニックがそう、面白おかしく語る。
「生徒会長、かなりヤバいやつじゃないですか!」
「さすがニックさん、物知りですね!」
取り巻きたちが興奮しながら、頭の悪そうな返事をしている。
声を抑えることなく、影で生徒会長の噂話をするなんて、度胸があるのか馬鹿なのか。
これ以上聞いていたら、せっかくのご飯が不味くなるから、アタシは彼らを意識から切り離す。
最後の1切れを口に入れ噛み締める。
「ふぅ〜。ご馳走様でした。満腹満腹。」
アタシは空になった食器が置かれたトレーを持って立ち上がり、返却棚に返した。
そのまま学園食堂の出口へ向かう。
外に出る前にふと、食堂内を見渡した。まだ、ニック達はダラダラ喋りながら食事をしている。
「火のないところに煙は立たない、か。」
そして、アタシは学園食堂を後にした。