先輩! 助手になりたいです!
「先輩! 私、助手になりたいです!」
二人しかいない漫画研究部の部室でおさげ髪の眼鏡っ娘、足栖が元気よくそう宣言する。
足栖の突拍子もないことを言い出すのは、これが初めてではない。そしてそれを適当に受け流すのも、俺にとっては日常茶飯事だ。
「助手、って一体誰の助手になるつもりだ?」
「それはまだ考えてません! けれど私は名探偵でもマッドなサイエンティストでも、誰かをサポートする優秀なアシスタントになってみたいんです!」
「なら、お前はもう漫画研究部の立派な助手だろ? それじゃ不満なのか?」
「私は『副部長』で先輩は『部長』! 些細ですが決定的な違いがあるんです!」
ふんす! と鼻を鳴らす足栖に俺はやれやれと肩をすくめる。
「確かに、助手はあらゆる作品の名脇役だ。でもな足栖、助手にも色々な種類がいるだろう? 俺が考えるに、助手には三つのタイプがある」
俺は足栖に向かってびしっ、と三本指を立てる。
「その一、有能タイプ。まぁ一般的に求められる助手のイメージ像はこれだな。頭脳や戦闘力など自らの個性を発揮し、主人公のサポートをする。ふとした拍子に、問題解決のヒントを口にする重要な役割を担うことも多いな」
「画面左から右に向けて、ピコーン! と光が走るアレですね!」
ただし、このタイプの助手は「相棒」や「戦友」とのボーダーが曖昧なところがある。個人的にはクーデレ属性がついてると最高だな、などと思いながら俺は口を開く。
「続いてその二、無能タイプ。こちらはポンコツぶりが目立つタイプだ。助手として主人公の役に立つはずなのに、上手くいかないどころか足を引っ張る。人によって好みが分かれるかもしれないが、憎めない愛されキャラとしての人気を得ることができるぞ」
ぶっちゃけこれが足栖に合っていると思うが、本人は「そんなの嫌ですー!」と頬を膨らませているので不服なようだ。なので俺は足栖に向かい、三番目の例を口にする。
「最後にその三、影武者タイプ。どこぞの高校生探偵のように主人公が自分の正体を隠したい場合に、助手を隠れ蓑にするタイプだな。この場合は助手と言っても名脇役として、準主人公レベルにまで出世することもある。いずれにせよ、魅力的なキャラでないと務まらないのは確かだな」
なるほど~、と相づちを打ち考え込む足栖を、俺はそっと見つめる。
俺にとって足栖は脇役でも準主人公でもなく、最高のヒロインなんだけどな。
その言葉はぐっと、飲み込んだ。