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白銀の聖霊騎士  作者: 桜海冬月
第一部 
8/70

第六話 後始末

ご覧いただきありがとうございます。

ブックマーク、評価等いただけると幸いです。

「「渦めく炎(フレンワイリュ)」」


 二人の声が同時に響く。一人は陽菜で、もう一人は彼女に付き従っていた人だろう。

 この炎の攻撃を外側からの攻撃を妨害しない結界に覆われているルワンは相殺することが全くできず、かといって逃げ出すこともできずに消滅してしまったようだ。


「思ったよりも強かったみたいだね。もっと苦戦していると思っていたよ」


 笑顔で言っているがさっき放った炎は到底わたしたちが今受けて、耐えられる確証はない威力なのだ。そっちが気になりすぎてしまって声もでない。


「僕たちだけでは倒せていなかったからね。感謝するよ、ありがとう」


 エイルがなんとか声にしたが陽菜の強さが想定以上だったのだろう。声は感謝よりも驚愕の色が強くひきつっていた。それでも、助けられたことに間違いはないのでわたしもお辞儀をした。


「では、千里さん達のところに行きましょう。エイルさんは場所を知っているのでしょう?案内してくださる?」


 陽菜は御神木の下に行ったことはないのか、エイルに案内を頼む。わたしたちは御神木に向かって歩きながら、陽菜から少し話を聞いた。

 先程のイジー・ルワンは魔人という種族で、魔人はこの国の人間達とは敵対している者が多いらしい。さらに、陽菜と千里さんは人間達を襲う魔人達を討伐する組織に所属していて、今日わたしが戦ったイジー・ルワンは一般人でなんとかできる強さではなく、もしエイルと契約していなければ死んでいたのは確実だそうだ。


「ところで、そちらの方は誰ですか?」


 そこの人とは、最初に襲撃を知らせてくれた人のことだ。急に目の前に現れて来たことから、エイルは人間ではないと言っているが、精霊ともどことなく違う雰囲気をまとっているそうだ。


「申し遅れました。私は爆炎と申します。元精霊ですが今は魔人でお嬢様の執事を務めております」


 なんと、陽菜は執事がついている、思った以上に育ちのいいお嬢様のようだ。


「爆炎さんですね、よろしくお願いします。先程は助けていただいてありがとうございました。ところで、元精霊とはどういうことでしょうか?」

「さん付けは必要ありません。お嬢様の御友人であられますから。元精霊ということについての話ですが、本当に申し訳ございません。私にもよくわからないのです」


 陽菜とはまだ友人だというわけではないのだが、爆炎の中では既に友人扱いのようだ。まあ、いずれ友人になれたらいいけどね。

 それよりも、不思議な種族変化のことが気になっていたのに本人にもわからないとは。


「兆候などはなかったのですか?」

「兆候ですか······」


 そういって考え込む爆炎だったが首を横に振った。


「僕も同じような事例はいくつか知っているけれど原因はわからないな」


 爆炎と同じように考え込んでいたエイルだったが原因は知らなかったようだ。


「知の精霊でも知らないなら仕方ないね。さあ、先を急ぎましょう」

「えっ、知の精霊?」

「本当に知の精霊ですか?」


 わたしとしてはこのままだと不思議な種族変化の話が続きそうだったので、話を出した者として、この話を終わりましょうと言う意味も込めていたのだがみんなからしたら全くそのようなことはなかったようで、陽菜と爆炎からは知の精霊について叩き込まれた。

 曰く、知の精霊とは木、水属性を始めとした様々な属性の中で()()()()()()()()()()()()()()()()()の精霊の中では最も珍しい属性の精霊で最も位の高い属性でもあるそうだ。


「それに下位や低位の精霊ならともかく知の中位精霊なんて、本当に珍しいし同じ階級の中で最も強いんだからね」


 あまりの剣幕に思わず何度もうなずいてしまう。······返事は一回なのになあ。

 そういえば、エイルは知の精霊について説明してくれてなかったような気がする。


(それは有里に話していたら契約できなかったかもしれないし。強さを求めていない人に自分の属性の話をして知属性はすごいっていってもなんの意味もないよ。それどころか引かれて契約を断られてしまうこともあると聞いたことがあるからね)

(誰から、それを聞いたの?)


 強いからと契約を渋るような人なんているとはわたしには思えない。おそらく結構特殊な事例だろう。


(精霊達の世界にいた、僕よりもかなり年上の精霊に聞いたよ。まあ、有里に不都合がある訳じゃないから気にしなくていいことだよ。それよりも絶対に木属性も持っていることを口外しちゃいけないよ。どうせすぐに気づかれることだとは思うけど。あとは重要なことを簡単に話さないこと。有里は普段はしっかりしてそうだけど、時々本っ当に迂闊に大事なことを周囲に話してしまっているときがあるからね)


 あっ、誤魔化した。というかわたしってそんなに迂闊だったんだ。ごめんなさい。これからも対処お願いします。


(あくまで迂闊さを直すつもりはないということだね。···はぁ。もう、いいよ。僕が何とかするから)


 エイルは諦めてくれたようだ。少し申し訳ない気がしたけれど自重はしない。というか、どうせ自重してもどこかでボロが出てくると思う。

 陽菜と爆炎から知の精霊について説明されながら御神木の方に進んでいると、うさぎのような大きさの、それでいて大きな角を持っているよくわからない生物の群れが飛び出してきた。


「はっ、何あれ!?すごいたくさんいる!」     

「あれは一角兎(ホーンラビット)よ。低級の魔獣だから安心して」


 陽菜はそのまま腰につけていた刀を抜く。


「燁幽術:紫 朧気」


 陽菜はそう呟いたあと刀が紫色から薄紫色に変わってなめらかな動作で先頭にいた一角兎(ホーンラビット)の首をはねる。剣速は見えないほど速いわけではなく、むしろ少し遅い部類に入るのだろうが、どうしてか剣の軌道があまり見えない。しかし、陽菜の剣筋は確実に取りこぼしなく前方から狩っていっている。


「爆炎、あとはお願いするわ」


 陽菜がそういうと、爆炎がどこからか袋を取り出してきて、陽菜が首をはねた一角兎(ホーンラビット)たちを袋にいれていく。


「なにをやっているの?」

「もちろん、食べるために回収しているに決まってるじゃん」


 なにを当たり前のことを、的な反応をされるが、魔獣を食べるんですか?魔獣、『魔』ですよ。


「ああ、その袋は確かに大きいけど、任務の時に時々たくさんの魔獣と遭遇したりしたときに回収できるように日頃から準備して(爆炎に持たせて)いるんだよ。それに、腐りにくくはなっているんだよ。魔法が掛けられていて、結構貴重なやつなんだよ」


 違う違う、ずれてる。袋のことじゃないけど、魔法が掛けられてるって、それを魔獣回収に使っちゃっていいの?大事なやつなんじゃ?


(対腐食の魔法が掛かっているみたいだね。それもまあまあ高等な術式が使われているみたいだよ)


 やっぱり貴重なやつじゃん!ってちがーう!


「そういうことじゃなくて、魔獣を食べて大丈夫なんですか?」

「そういうことでしたか。ですが心配はご無用ですよ。一角兎(ホーンラビット)は魔獣といいましても本来のうさぎに近い種族ですから、うさぎを食べるのと味はそんなに変わらないのですよ。それに食べられるものが大量にあるのに捨て置くのは勿体無いでしょう」

「僕も手伝うよ。どんな味か興味あるし」


 まだ少し追い付いていないわたしをよそにエイルが一角兎(ホーンラビット)の回収に加わる。······裏切り者めっ!


「ここにいたんだ。探したよ」


 千里さんたちがわたしたちの所にたどり着いたようだ。


「有里、無事でよかったよぉ~」


 さくらは泣きながら飛び付いてきた。


「あはは、エイルや陽菜ちゃん、爆炎のお陰でなんとかなったよ」


 話しながら、さくらの頭をなでて宥める。


「無事でよかったぜ」

「一時はどうなることかと思ったけど、有里が元気でよかったよ」


 ロンとそうまもさくらを追いかけてやって来た。


「というかあれはなんなんだい、有里?さっき、僕たちを襲おうとしていた角の生えたうさぎたちがたくさんいるようだけど」


 そうまの問い掛けにわたしは口をつぐむ。


「お~、たくさん一角兎(ホーンラビット)がいるじゃん。やっぱり、陽菜の所に来てたんだね。今日の夜ご飯はうさぎ料理?わたしも手伝うよ」


 千里さんが一角兎(ホーンラビット)の山を見るなり、ワクワクした表情で駆け寄ってきてさも当たり前のように回収を手伝い始める。


「千里さんさん、一角兎(ホーンラビット)を見つけてたなら倒しといてくださいよ」

「いや、それがさ、あの魔人に人質の解放を条件とした互いに攻撃禁止の契約を結ばされてさ」

「まあ、そうですよね。じゃないと千里さんさんが一角兎(ホーンラビット)なんかに負けるはずがないし。だって、わたしよりも余裕で強いですし」


 陽菜よりも強いとはどれほどなのだろうか。なんかもう、色々なことが起こりすぎてあんまり気にならなくなってきた。さくらたちも色々なことが起こりすぎて困惑しているようだ。わたしがこのめちゃくちゃな状況を何とかしないといけない。


「お弁当を食べましょう!」

「有里、お弁当なんて持ってきてないけど」


 さくらがしまったというような表情をして言った。


「大丈夫、父さんがたくさん作ってきてくれたから」

「清治さんが?それは美味しそうだね。時間的にもお昼時だしそうしよう」

「おれも賛成!」


 有里は自分のお陰で雰囲気がよくなったと思っているが、実際は清治のお弁当につられただけである。その証拠に清治が料理人であることを知らない陽菜や千里さんは今でも一角兎(ホーンラビット)の回収を一時やめて困惑しているし、有里がお弁当を食べようと言ったときにはさくらを除く、他の全員の困惑度合いはそれまでよりも酷くなっていた。だが、それも当然である。なぜなら、襲撃を受けて一歩間違えば死人が出ていた可能性もあるわけだし、この場には一角兎(ホーンラビット)が大量に血を流しているのだ。そしてそれを、平然と回収している人たちがいる、この状況でお弁当を食べようと思う人は普通いない。

 しかし、死んでいたかもしれない当事者(有里とさくら)や一角兎(ホーンラビット)を回収している人たち(陽菜や千里さんたち)は自分達の行動が困惑を招いているとは全く思っていない。


「さすがにここで食べるのは不味いでしょ。血だらけだよ。水流魔法で洗浄するにしても水浸しになって食事なんてとてもできなくなるから、御神木のところで食べない?」

「そうするのがいいでしょう」


 今この状況でまともなエイルと爆炎が提案をする。


「じゃあ、陽菜ちゃんたちも行きましょう」

「それはいいんだけど、···あれをどうしましょう」


 陽菜が指さした先には回収途中の一角兎(ホーンラビット)が転がっていた。すでにたくさん袋に詰めているんだしもう必要ないんじゃないですか、と言いかけたけれど陽菜がものすごく惜しそうな表情をして止めた。


「ごめんね、ちょっと待ってくれない?さくっと回収終わらせちゃうから」


 やっぱり回収するんですね。千里さんも急ごうとしているのか、なにやら魔法の詠唱を始めた。


「その必要はありません。私が回収を済ませてから、参りますので、お嬢様たちは先に行かれていてください。私はお嬢様のところに転移できますから」


 爆炎が自分に任せて先にいっているように言った。陽菜と千里さんは頷いて、念のために腰の刀に手をかけながら御神木の方角に進んで行く。それに、わたしたちもついていった。


この世界での魔獣の肉は魔力処理が必要なのでこの国では食べる人は少ないですが日持ちするので隣国では解体処理を生業にしている人も多く常備食です。

もう少しするとその隣国出身のミリヤという人が出てくるのですが彼女が広めました。


では、お元気で

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