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白銀の聖霊騎士  作者: 桜海冬月
第二部 
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プロローグ シャトレの地での会話

ここはフォーンバーズ王国のシャトレ地方


そこを治める貴族の二人の大物がシャトレ地方最大の城郭、シャルロッテリア城の一室にて久方ぶりに顔を合わせていた。


「青々と繁る森は今年もまた美しい眺めですね」


紫馬簾慈玖とほぼ同年代と見られる男が、部屋に入ってきてすぐに城の外に広がっているシャトレ大深林を眺めて言った。

シャトレ大深林の木々の表層の多くは地球で言うところの落葉広葉樹。冬には葉っぱは枯れ落ちて、樹氷が代わりに葉を広げる。


「ご機嫌麗しゅう、ニコラウス。ええ、本当に。王宮に住んでいた頃のラルート森林も美しかったのですが、やはり癒しの女神、セレスティーナさまの祝福を受けしシャトレの森は格別ですわね」


それに答えるのは彼よりも少しばかり年上に見える女性だ。昔を懐かしんでいるのか、生来の気質か、彼女は優しげに微笑む。


「そうですね。私も初めてこちらに来たときには驚いたものです、義母上」


実は彼女、レティーシアの本来の年齢は還暦に近い。歳と共に刻まれるはずの皺がほとんど見られないので勘違いされがちだが、これでも三人の娘の母であり、既に孫も七人いる歴とした"おばあ様"だ。

そして、このニコラウス・ティア・ルベルティ・シャトレ準公爵はレティーシアの娘婿に当たる。


「ところでニコラウス、王国の使節団として白蘭皇国に行くそうね」

「はい。今日はその事でお話があります」


ニコラウスはどのような取引を考えているのか、使節の目的について詳しく説明した。

レティーシアは腹心の子爵に報告を受けていたのか、内容に比してそれほど驚く様子もない。


「それで、わたくしは取引の準備をして、シャトレの貴族から魔術具を買い付ければいいのですか?」

「その通りです。魔術具の種類は攻撃系のものに限られますが、王国全体からこの冬の騎士団の活動に支障のない範囲で集めたいただきたいと思います。お願いできますか?」


秋には冬眠に備えて食料を集める魔獣たちがいるので騎士団の仕事が多いのだが、冬は冬で一部の魔獣が異常進化を遂げて強くなるので、ひとつの仕事に対する負荷が大きくなる。

そのため、魔術具の使用量は冬の方が多くなるので、騎士団の活動を阻害しない程度にしなければならないのである。

ニコラウスは手伝ってくれるか頼むと共に、騎士ではないレティーシアにそのあたりの調整が出来るかどうかについても尋ねる。


「分かりましたわ、かわいい娘の婿さまの頼みですもの。わたくしだけでは不安もありますが、イヴァンにも手伝ってもらって構わないならば、ちょうどよい塩梅で集められます」

「子爵なら、迂闊な行動はしないでしょうから構いません。サングリア侯爵も手伝ってくれるでしょうから連携行動をお願いします」


ニコラウスが承諾したことで、彼女の腹心のイヴァン子爵の参加も決まり、誰がニコラウスの意思を理解しているのかが明かされる。

分かっていたこととはいえ、自分の忠臣がニコラウスから信頼されていることに喜んで、レティーシアの扇に隠された頬が仄かに上気する。


「分かりました。有らぬ疑いをかけられぬ程度に魔術具を取り揃えておきます。なんならミリヤのためだと言って魔術具の材料を集めておく方が紛らわしになっていいかもしれませんね」


レティーシアは優雅に微笑みながら言った。

ミリヤとは彼女の長女のことであり、今はわけあって白蘭皇国に滞在している。ミリヤはフォーンバーズ王国にいた頃から天才魔術具師として国内外に知られていて、今でも王国の学園には毎年のように新作の魔術具が寄贈されている。

そんなミリヤのための魔術具収集だと言い張れば誰も文句を言うことはできないし、それどころかより集められる量が増えるだろう。

加えて、目的こそ違うものの実際に一度はミリヤの元へと魔術具はいくわけで、シャトレ家の一族としての嘘をつかないという縛りに背くこともない。

ニコラウスも同じ結論にたどり着いて同意した。


「······ところで、どうしてあなたのお父様、クラウディオ様やベル様にお願いせずにわたくしに?」


レティーシアはこの話が明かされた時より気になっていたことを質問した。

レティーシアとて実家が王国でも有数の名門なので、コネクションはクラウディオ・ルベルティ公爵や彼女の夫ベルナール・シャトレにも劣るものではないが、建前上は政界から身を退けた自身よりも、大神殿の名誉神官長を務めるベルナールや中央貴族である公爵の方が適任なのではないかという疑問があった。


「父上は、といいますかフォーンバーズ王国の兵部省は現在それどころではないのです」

「ファロレスコ公国ですか······」


ニコラウスに言われてレティーシアも思い出した。

そして吐いたのは大きなため息だ。

ファロレスコ公国は極寒の大陸北限に広い領土を抱える国で、豊かな鉱産資源と貴重な魔獣資源に恵まれているため、かつては北方を治めていたキンレンクル公爵を通して活発な交流していた友好国だった。

尤も二十数年ほど前に起こったフォーンバーズ王国内のキンレンクル公爵とコルヒルニア公爵による内乱に乗じて、フォーンバーズ王国北方を占拠しようとしたため、以降は国交は当然断絶している。

王国の深追い無用、三国外絶対中立の立場によって、反撃を受けることはなかったため現在も存続しているものの、王国にとっては目の上のたんこぶのような国である。

ニコラウスの口ぶりから察するに、懲りていないのかそれとも最近若い国王に代替わりしたことに由来しているのか再度侵攻する様相を見せているらしい。


「それは仕方ありませんね」


ファロレスコ公国は国土面積や人口こそフォーンバーズ王国に及ばないものの、資源にものを言わせた兵装には侮れない点もあり、侵攻の構えをみせるとなれば兵部卿たるルベルティ公爵がニコラウスの援助を行えないことも納得であった。

それにニコラウスには姉で次期当主のエステリがいるが、彼女は彼女で近衛隊副隊長なので、ニコラウスは手伝ってもらうどころか協力する側なのだ。(今回もエステリを通しての国王からの依頼であったりする)


「それでは、ベル様はどうしてですの?」

「義父上は······人を疑いきれる人物ではないですし、生粋のシャトレ一族として、腹芸なども苦手としているではないですか」

「あー、そうでしたね」


レティーシアはひどく納得した。

その理由には複雑な話がいくつも絡むのでここでは割愛するが、ベルナールが圧倒的に政治の世界に向いていないことは疑いようもない。

他にも気になることは幾つかあったのだが、少なくともレティーシアが自分よりも適当な人物がいないことを悟る。


「それともうひとつお願いが······」

「皆まで言わずとも分かっておりますわ。アリサ達を気にかけておくようにしますわね」


レティーシアはフフッと微笑ましいものを見る眼差しでニコラウスに言った。

アリサ・ミーティアル・キンレンクル・シャトレはレティーシアの娘でニコラウスの妻でもある。

魔術具師として名声を得ているミリヤやベルナール以上の純粋な聖霊力を持ち、次期シャトレ家当主を継ぐことが確定視されている末っ子と同じく、アリサはアリサで優秀な魔術師として学園時代には六年連続最優秀という大記録を打ち立てている。

そんな彼女であるので、別にニコラウスが心配しようがしまいが普段なら問題ない。

側近には優秀な護衛騎士もいるので少々の襲撃があろうとも一人で容易く対処できるのだ。

にもかかわらずニコラウスがアリサの身辺を心配するのには理由があった。


「そういえば、新たな命を授かったそうですね」

「はい。義父上の手前、まだ極中の秘にしているのですが、義母上には知らせておこうかと」


防音の魔術具を起動しているので盗聴の恐れはほとんどないのだが、それでもニコラウスは誰にも聞かれないように口元を隠して読唇されないように細心の注意を払った小声で明かした。

ニコラウスとしてはレティーシアが知っていたことに驚きもしたのだが、アリサやその周囲との親密さを鑑みれば彼女にだけは、と伝えていてもおかしくはないとすぐに思って気を取り直した。


「間が悪かったですね。出産には間に合いそうなのですか?」

「まだまだ日も浅いようですので船旅の期間を差し引いても余裕はあるでしょう。········ハイデマリーが夢中になって予定に大幅な変更が生じなければですが」


日程的には大丈夫だと、立ち会い自体にはそれほど不安のない様子を見せたが、後半の部分についてはかなり不安げな、というか確信を持った不安さを呈した。

ハイデマリーは王女の側近筆頭を務めるくらいに優秀ではあるのだが、いかんせん興味を持ったことはとことん突き詰めようとする性格であった。

それでも普段は強く言えば好奇心の矛を納めてくれるのだが、彼女の主である第一王女が望めばそちらに従う。


「アリシア王女はわたくしの父に似て好奇心と興味関心がとても強いお方ですからね。ハイデマリーに見聞を記して、後で報告するように申し付けていてもおかしくはありませんもの。もしかすると今頃は自分も行くといって駄々をこねているかもしれませんね」


いくら好奇心が強くても大国の王女として、出来ることと出来ないことの分別を身に付けているだろう、と一笑に付したいニコラウスであるが、あり得ないとも言えない王女にやれやれと首を振った。


「それだけは止めて欲しいものですね。王女のせいでハイデマリーを制御する大義名分を失うなど、考えたくもないものです。ハァ、国王陛下に、いやアルノー殿にでもお願いしておきましょうか」


先手を打って国王にアリシア王女がこねるだろう駄々に従わないようハイデマリーに命じてもらおうと考えたが、国王も王女には甘いことを思い出して、王女に進言できるアルノーに頼もうと決めた。

姉でも構わないのだが、エステリは子供に甘いので王女相手だと信用がおけないからだ。


「わたくしからも王女には言っておきましょう。ハイデマリーに代わる見聞役を用意するのも一手かもしれませんね」

「ありがとうございます」


ニコラウスは光を見つけて輝く草木のように安堵感をこぼした。

レティーシアは負ける戦いはしない主義なので、他の誰よりも確実性には信頼できるのだ。


「お任せしていただいてよろしくてよ。貴方も怪我と病にだけは注意しなさい。貴方に万一の事があればアリサがひどく悲しむのですから」


日程にばかり気が行っているように見えたニコラウスを戒めるように、危険はそれだけではないという寓意を込めて言った。


「はっ。誰一人欠けることなく戻ってこられるよう、白蘭皇国との会合がうまく行くように最善を尽くす所存でございます」


レティーシアの戒めで、緩んでいた気を締め直すと、ニコラウスは片膝を地に着ける騎士の誓約の構えをとった。


「期待しておりますわ。貴殿方にシャトレにおわす癒しの女神セレスティーナと幸福の女神シャルロッテ、導きの神ファルトアルーンの御加護がありますことを祈っております」


レティーシアは静かに微笑んで、ニコラウスたちの旅路が安全なものとなることを祈った。

キャラクター紹介の作成に手間取っています。(私が書いているのは最後の方の設定くらいまで長々と書き連ねたものなので何を出していいのか、検討中です)


来週も火曜日に更新します。


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