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白銀の聖霊騎士  作者: 桜海冬月
第一部 
41/70

封印されし者

ご覧いただきありがとうございます。


日が暮れてしまったので子供たちを村のお母さん方に預けて家に帰す。村長の家に向かっていると孝之さんがやって来て、わたしを宴会場まで案内してくれた。

香月さんたち他の騎士団員はすでに到着していて、村人たちもわたしを待ってくれていたようだ。


「では、今回のハイウルフ討伐の一番の功労者の有里様がいらっしゃたので宴会を始めよう!今日はとてもいい日だからたくさん飲め!」


村長の合図を受けて、村人たちは堰が外れたように一斉に大量のお酒を飲み始めている。

村長はもっと大人しい文官のような人だと思っていたが人が変わったように騒がしくなっている。


これがお酒の力か·····


わたしは父さんが下戸で静かめの人なので、大声が上げられることに慣れておらずビクッとなった。

父さんだけではない。叔父さんも菜緒さんも付き合い酒以上の飲酒はしない人だった。

ちらりと横を見ると、香月さん以外は慣れているようで空気に順応している。


「村人たちはずっとハイウルフの脅威にさらされて辛い日々を送っていたでしょうから、その脅威が取り除かれたことで気が大きくなっているのでしょう。騒がしいとは思いますが、今日だけは気にしないでいただけると幸いです」


孝之さんが村人たちの空気に置いていかれているわたしたちを見てから申し訳なさそうに言った。


「それは全然大丈夫ですよ。今日がおめでたい日であることは間違いないんですから。それよりも香月さん!どうしてわたしが最大の功労者ということになっているんですか!?」

「私が推薦したからだよ」


わたしが新田村の防衛計画とハイウルフ討伐計画を立案したこと、ハイウルフの一隊を殲滅させたこと、憲実さんや朝晴さんを治癒魔法で回復させて怪我を軽くしたことなどが理由らしい。


「それなら、エイルの方が相応しいです!」


エイルも計画立案をわたしとしているし、ハイウルフよりも強いウルフロードという魔獣を倒している。

それにエイルがハイウルフを魔法で全滅させていなければ、わたしが憲実さんを治癒することもできなかっただろう。


「ボクと有里は契約統合しているからその功績も有里のものとも言えるよ。まあ、逆も然りだけどね」

「でも····」

「そんなことは置いといて、早く食べましょう。有里さんはお酒を飲めないけど、このご飯もとても美味しいですし、急がないとなくなりますよ」


香月さんに話をはぐらかされつつ食べ物を積まれる。

それを食べているうちに香月さんも酔いが回り始めたようで、問い詰めることはできずに有耶無耶にされてしまった。




宴会も終わりが近くなってきた頃


「有里さま、この村に伝わる伝説をご存じですか?」


長く生きているのだろうご老人がわたしに伝説のことを聞いた。

知らないと答えると親切に、ご老人がその伝説について説明してくれた。


「何百年も前、この村の近くで暴れていた蒼い炎を操る恐ろしい鬼人がいたそうですじゃ。その鬼人は他の鬼人たちを配下に従えて周囲の村々を荒らしては、その土地から村人を追い出しておったそうですじゃ」


まだ、蓬菊隊が活動範囲がそこまで広くなかった頃のことなので、国から騎士団が派遣されたものの返り討ちに遭ってしまい、被害を受けていなかった村の人たちも我先にと次々に逃げ出していった。

残った村人たちも人が少なくなっては村としての活動が維持できなくなり、段々と安全な離れた土地に移り住むようになった。

火事を起こされて作物が駄目にされたり、魔獣達が焼け出されて村に侵入してくることも度々あったそうなので当然と言えば当然だ。


それでも村から少しでも離れたくない人たちが、その鬼人の活動範囲から山を挟んでいて被害を受けにくいと思われるこの辺りに集まって、今の新田村を形成した。

この辺には山を挟んだ先には平地もいくつかあるのに村がここにしかないのはそういう理由かららしい。

しかしながら、それから数年が過ぎた頃には鬼人の襲撃が迫ってくるようになった。

しかし、国から派遣されてくる騎士団では太刀打ちできないと分かりきっていたので、追い返そうにも簡単にはいかない。


村人たちは玉砕を覚悟で決死の戦いを挑もうと覚悟を固めつつあったところに救済主が現れた。


その男の名前は新田義冬といって、元々とある貴族の護衛として功績を上げていたとても勇猛な人だったそうだ。

新田義冬は村人から件の鬼人の話を聞くと、討伐を請け負った。何でも主を亡くして、共に働いていた同僚達も一人残らず失ってしまい、彼らの家族だった一人の親戚筋の少年と行く宛もなくさまよっていたところを助けてくれた恩返しだったそうだ。


村人たちは一縷の望みに託して新田義冬に任せると彼はその鬼人の住んでいる山に案内人をつれて登っていった。

何日たっても村に戻ってこない二人を村の人々が心配して探しに行こうとしていたとき、案内人だけが帰ってきて言った。


"新田義冬がかの鬼人を封印した"と


案内人の話によると、その際に新田義冬も命を散らしたそうだ。案内人は死んでまで村に尽くす義理はないと宥めたようだが、「元々、死に場所を探していた」と言って聞かず、その鬼人との戦いを行ったらしい。

その話が真実だったかどうかはその案内人にしかわからないことだが、一つ確実なことはそれ以降鬼人の活動は確認されなくなったことだ。

村人は歓喜して、新田義冬を崇め奉って封印が行われたとされる名もなき山を新田山と名付けて、村の長には新田義冬が連れてきた少年を就けた。

そして、新田義冬は今もその鬼人を抑えながら新田村を見守っている、というものだ。


「にわかには信じがたい話ですね。騎士団の情報室でもそのような資料は見たことがありません」

「それはおそらく騎士団の構造が一度変わってしまったからだろう」


どうやら蓬菊隊が国直属の部隊となった際に一度国の軍事機構全体が見直されて再編されている。

それに加えて、この時代は皇主桜陽皇后が現れる前の話でもあったため、情報の保持と管理がそこまで重要視されておらず、破棄された可能性が高いようだ。


「でも、俺は新田村のことかは覚えていないがそのような伝承話を聞いたことがあるような気がするな」


顎に生えた濃い髭を擦りながら、憲実さんが言った。


「そういえば憲実の生家は一色家でしたね。あの名門家なら、現在の騎士団よりも歴史が長いですから、古い資料が残っていても不思議ではありません」

「名門といっても歴史が古いだけの家だぞ。今の当主は確かに若くて有能で可愛い、自慢の姪だがな」

「蓬菊隊の後ろ楯をやっている国でも有数の家柄なのによく言うよ」


なんと、憲実さんの生まれた一色家は蓬菊隊とも縁のある名門の貴族だったようだ。

そして、驚いたことに憲実さんは姪をこの上なく可愛がっているらしい。冷たいわけではないけど、何かを可愛がることも滅多になさそうな、アッサリとしたハードボイルドっぽい見た目をしていたからとても意外だ。


「それは置いておいてですね、わたしも新田義冬の話は本当のことだと思いますよ」


少しくらい誇張はあるかもしれないけど、日本にいたときもそういう伝説はたくさんあって、その裏には何かしら基となる物語が存在するものも多かった。

ましてや、新田村はその時から途切れることなく続いているのだ。そのようなことがあっても何らおかしくはない。


「あと数日は事後経過観察のために新田村に滞在する必要があるので、有里さんが帰る前日にでも確認に行きましょうか?」


わたしは本来神楽坂高校に通わないといけないところを元蓬菊隊の校長先生の力で特別に許可をもらっているので、騎士団の人よりも先に帰らないといけない。


「では、朝晴さんと憲実さんの傷がもう少し回復したらいきましょうか?」

「そうしましょう、ハイウルフの動向も含めて確認を行うのがいいですね」


今後の日程を決めると、わたしたちはもう少しの間宴会を楽しんでから、宿に戻った。



そして、次の日の朝


新田村は新たな災厄に包まれることになる。

新田義冬がその身をもって封印したとされる大昔に暴れまわった鬼人が復活したという報せが村中、果ては騎士団と蓬菊隊中を駆け巡ることとなる。


その鬼人の名前は"蒼獄"

奇しくも西海地方で慈玖が黄獄を倒してからきっかり12時間後のことだった。

それはまるで、彼の死がトリガーであったかのように······



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