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白銀の聖霊騎士  作者: 桜海冬月
第一部 
4/70

契約の儀 前編

明けましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします。

一週間が経ち、わたしは話しかけてくる者をなんとなく感じとることが出来るようになっていった。

この一週間の間に聞きそびれていたことを質問する。


「ねえ、君は本当に精霊なの?」

「そうだよ。流石にそろそろ信じてよ」


そんなことを言われたって神様でもないのに見たこともなく信じることができるわけがない。

わたしは証拠と姿を見せるように言った。


姿を見せるように言うと、それまで姿を隠していたことを忘れていたようですぐに了承する。

次の瞬間、わたしの目の前から蔦のようなものが現れて繭を作り、その中から蛍石のように薄く緑色に光っている小さな男の子が現れる。


「僕の名前はエイル。中位精霊だよ」

「そうなんだ。よろしくね」


わたしが挨拶を返すと、エイルは物足りないと言わんばかりの顔でこちらを見つめてくる。

精霊が人の前に姿を見せることはとても貴重なことで初めて見た人は大抵、感嘆の余り涙を流すか驚きの余り呆然と立ち尽くすらしい。

そんなことはわたしには全く関係がないとエイルにいうと、エイルは大笑いをした。


「ふはははは·····やっぱり君は面白いね。森の大精霊様に好かれるわけだ。そんなことを言ったのは僕の知る限り君が初めてだよ」

「そういうのいいから。早く君の目的をわたしに教えてよ」


わたしはエイルの言葉を軽く流しながら早く用件を言うようにと急かした。するとエイルは笑っていた顔を引き締めて私の目をまっすぐ見て言った。


「僕の目的は君と契約統合することだよ」

「······えっと、どういうこと?」


いきなりの爆弾発言に口から出た言葉はこれだけだった。


「そのまんまだよ。僕は君のことが気に入ったから契約しようことだよ」


なぜ分からないのかというように口を尖らせつつエイルは一方的に話をすすめていく。

彼は知属性の精霊で一月ほど前にわたしを見つけてなぜか気になったので少し観察していたらしい。これは恐らく前に父さんから聞いた、わたしがお母さんと同じく精霊に好かれやすい体質だというのが関係しているのだと思う。

そして観察の結果、わたしと契約したいと思っていたがそのまま登場するのも面白くなかったので、姿を隠した状態で声をかけたりしながらあと一月くらい気づくまで待っていて、気付かれることがなければ姿を現して契約を持ち掛けるつもりだったらしい。でも、わたしは甘利先生や父さんに相談して精霊であることの見当をつけた。そこで、彼はわたしが呼び掛けるなどしたら姿を現して契約を持ち掛けることにしたらしい。

わたしとしては精霊と契約することに別に異論があるわけでもないので反対しないがその前に一つ聞いておくことがある。


「契約をしたら、わたしに縛りができたりする?」


そう、これが一番大事なのだ。精霊と契約してとある場所から移動出来なくなったり、命が短くなったりすることがあれば困るのだ。


「いいや、契約しても召喚に魔力か聖霊力か霊力を消費するだけで、統合をするとどちらかの魂がこの世から消え去らない限り解除出来ないだけだよ」


特に何もないようだ。エイルによると、わたしは魔力を持っていなくて、聖霊力も将来獲得できる可能性はあるが現状では保持していないが、霊力だけはかなりの量を保持しているらしい。

でも、エイルが知らないこともあるかも知れない。そのため一応、甘利先生に精霊との契約について教えてもらうことにして、エイルにも了承を取った。


甘利先生の授業が終わってから、先生の下に行く。


「先生、精霊についてお話をしたいのですがお時間空いていますか?」


甘利先生はこの前の話の内容を思い出したようで


「ああ、もちろんいいさ。では放課後に小会議室を取っておくからそこに来てくれ。俺もあれから精霊について少し文献を読んでみたんだ。少しは役にたてるだろう」

「おーい、有里!次の授業体育だから早く行こう!」

 不意に大きな声が響く。わたしの親友の一人、さくらが呼んでいるようだ。

「では、放課後に。ありがとうございました」


軽くお辞儀をして、さくらの下に小走りで行く。



昼休みになり、食事を終わらせたあとに図書館に新しい本を借りに行く。

この学校には図書館がある。本来、本はそこまで値段が安くないため庶民が手に入れるのは簡単ではないのだが神楽坂高校の理事長みたいな役割をしている人が古い名家でお金持ちらしく所蔵していた本を寄贈して、本を買うための資金も提供しているらしい。

だから、新着図書は本が好きな生徒の要望か研究に使いたい先生からのリクエストが大半を占めているそうだ。


「あらあら、こんにちは。昼休みに来るなんて珍しいじゃない」 


司書の光希さんがにっこり微笑みながら言った。


「光希さん、こんにちは。今日は放課後に予定があって、図書館に来れないので昼休みのうちに来ました。新着図書が届いたと聞いたので」

「ええ、あなたが希望を出していた本はこちらにおいてありますよ。他にも面白い小説が入荷したから読んでくださいね」


光希さんはわたしが希望していた小説『燭台』を司書室からとってきてくれる。

そのあいだ新着図書を見ているととある本が目に入ってきた。そのタイトルは『精霊についての研究』

思わずわたしは手に取る。そのまま、光希さんから『燭台』を受け取り、貸し出し手続きを済ませている間に尋ねる。


「それはね、すこし前の本なんだけど古くなっちゃって新しく買い換えたのよ」

「精霊についての本とかってこれ以外にあったりしますか?」


光希さんは一瞬驚いたように目を瞬いたあとにふふっと微笑する。


「ええ、あるわよ。ちょっと取ってくるね」


貸し出し手続きを一旦中止して、本棚の隅から二冊取り出す。比較的その本棚のなかでは新しかったようだったが埃が飛び散って少し咳き込む。


「ごめんなさいね。この本棚の本は少なくともわたしが雇用されてからは貸し出された経験がないの。赴任してすぐに確認をとって読んだのが最後かな」


二冊の本のうちのひとつは精霊についての本で間違いなかったのだがもうひとつの本は少し違ったようだ。


「『属性魔法 初級編』ですか?これは精霊に関係する本ではないように思えるのですが······」

「ふふっ、そう思うでしょ?でも実は違うのよ。わたしも読んでみて初めて気づいたんだけど、この本は、ただの属性魔法だけじゃなくて精霊魔法や精霊について専門的な本にはあまり書かれない基本的知識について紹介してあるのよ。このもう一冊の本を読む前に読んでおくといいわ」


精霊のことは知っている人もあまり居ないし本に書かれていることもあまりないから結構貴重な本だそうだ。

もっと詳しい本は大変高価なのだそうでこの二冊以外の精霊関係の本は貸し出し禁止で図書館内でしか読めないものか禁書庫にあるものしかないそうだ。

禁書庫の本はあまりにも内容が深すぎて簡単に漏らすべきではないものや貴重すぎて表に出すことが推奨されない本などがおいてある。

禁書庫への立ち入りは校長先生からの許可が必要であり、審査も結構厳しいため入ることが許可される人はあまりいないそうだ。

その証拠に教師でさえも簡単に立ち入ることができず、現在許可を得ている人は先生、生徒を含めてたったの二人だけである。

ただ、禁書庫の本を読むためにはこの本棚の本の内容をマスターしておかないと理解が難しいそうでわたしが必要とするのは大分あとになると思われた。

取り敢えず、この二冊も借りることにして手続きを済ませる。


「また、いらっしゃい」

「ありがとうございます」


お互いに手を振って、わたしは図書館をあとにする。


「その本は読んでおいた方がいいよ。魔法は知っておくに越したことはないからね」


エイルと談笑しながら歩いていると人影が見える。もう昼休みも終わりの方に差し掛かっていているので、この時間帯に図書館に向かう人がいることに珍しさを感じつつ、道を開けようと少し脇にそれる。

抱えていた本のうち、『精霊についての研究』の本が少しだけ音をたててずれる。

その子の視線は一切動いていないように見えた。


「あなた、精霊に興味があるの?珍しいですね」


わたしはどうして目線も動かすことなく気づいたんだろうと思っていたがそこまで深く考えることなく質問に答える。


「あ、はい。先生から精霊について少しだけお話を聞かせてもらったので興味をもって、丁度図書館にあったので調べてみようと思ったのです」

「そうですか。精霊とはとても奥が深いですからね。ところであなたの名前をお聞きしてもいいですか?」

「有里。天草有里と言います」

「わたくしは川岸陽菜です。一年六組ですから教室は近くないようですね」


優しげな目をした少女も名前を名乗る。そしてどことなく身のこなしにも無駄が感じられずただ者じゃないというような風格がある。

エイルは陽菜に対して警戒をしていたのだが有里はそのかわいい少女に警戒などすることもなくむしろ仲良くなりたいと思っていたのだった。

しかし、そのほのぼのした空気は次の陽菜の言葉で崩れ去ることになる。


「ところで貴女は精霊にあったことがありますか?」


急に来た質問にどう答えたら良いのかわからない。


「えっと、どうかな」


そう答えるしかなかった。

精霊がどういう扱いなのか全くわからないのだから。

それにどういう答えを望まれているのかが全く分からない。

エイルの顔をちらっと見るに苦々しい顔をしていたので取り敢えずはぐらかしておくのがいいだろう。


「そう、ありがとう。また今度お話ししましょうね」


そう言って去っていく陽菜ちゃんにわたしは手を振って見送った。

しかし、その言葉が気になって放課後まで全く集中できなかった。



次回は後編です。

またお元気で

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