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白銀の聖霊騎士  作者: 桜海冬月
第一部 
32/70

ハイウルフ討伐 憲実編

ご覧いただきありがとうございます。

一色憲実は有里たちとは違い、ハイウルフ相手に苦戦を強いられていた。

エイルのように余力を残そうとしたがゆえの苦戦ではなく全力で戦い続けての苦戦だ。

だが、それは憲実が実力不足だというわけではない。

むしろ、憲実は騎士団のなかでも剣術だけを見ればかなりの上位者である。 


そう、()()()()()()()()()()()


憲実がハイウルフに対して苦戦をしているのは、この場で使うことのできる有効で強力な魔法を憲実は持っていないからである。

というのも、憲実の属性は火属性であり下手をすると森を燃やしてしまう可能性もあるのだ。

普段ならばこのような場では数人は騎士が赴いて、憲実が魔法を放っても処理してくれる騎士が一人くらいはいるのだが、生憎今回はこれ以上騎士を派遣する余裕はなかった。

シルフィアリトスを使いこなすことができたならば戦局は一気に憲実有利に傾くだろうが、憲実は情報伝達の仕事をしていた瀬那とは違って自分が使うことのできる属性以外の魔法の詠唱文句をほとんど知らなかった。

せめてもう少し時間が余裕を持ってあれば瀬那からそれぞれの状況を予測して、それに対応する魔法を教えてもらうこともできただろうが、この討伐自体が即席で決められているようなものなので仕方ないだろう。

タラレバを言ってもどうすることもできない。

魔法にほとんど頼ることなく剣術と体力だけで圧倒的に数の多いハイウルフたちを相手にして持ちこたえ、引き付けており、それだけで憲実の実力が相当なものだとわかるだろう。


泡状微粒炎弾(バブルフレア)


二体のハイウルフの爪を使った攻撃を双剣で受け止めながら、魔法発動の媒体にもなっている双剣の先の部分に爪を食い込ませながら周囲への影響がほとんどない魔法を放つ。

泡状微粒炎弾(バブルフレア)は小さな炎を薄い霊力の膜で包み、放出媒体を経由して相手に直接ぶつける魔法である。

射程距離がほぼ0であり、相手にぶつかったときの威力も弱く、なおかつ霊力消費量に対して相手に与えることのできるダメージもそこまで高くないので運用効率がとても悪い。

ただ、ハイウルフのように直接戦闘が主である相手に対しては小さな痛みの積み重ねにより集中力を奪うことができ、爪や拳などの攻撃部位が焼かれて使いにくくなってしまうので受ける側からすれば時間がたつほど地味に効いてくる嫌な攻撃である。

実際に泡状微粒炎弾(バブルフレア)を受け続けて集中力を欠いて、たとえ一瞬だとしても大きな隙を作り出した何体かのハイウルフを見逃すことなく始末して数を減らすことに成功している。

しかし、衆寡敵せずというべきか少しずつ憲実が不利になりつつある。

憲実は一人で戦い続けているのに対して、ハイウルフたちは少なくとも30体はおり、前方が傷つき戦えなくなってしまえば後方から交代要員が何度でもやって来るのだ。

交代したハイウルフに疲労など見られるはずもなく、憲実に対して猛攻を仕掛けてくる。

驚異的な動きの速さで何体ものハイウルフを同時に相手をしているからには身体強化を習得していない生身の人間の体ではどうしても限界が来てしまう。

憲実の腕には爪傷のあとが増え始めて、その大きさも先程までの細い傷やかすり傷ではなく深く大きな傷になり始めてくる。

この先がこの勝負の行方がどうなるのかは火を見るよりも明らかである。

憲実にはすでに痛みを感じられるだけの感覚も残っておらず、双剣を握り続けるだけの力も最早残されていない。

気合いだけを頼りにして戦いを続けているのだ。


「俺はここで負けるわけにはいかないんだ!フレアバーースト!」


周りが被害を受けるほどの魔法を使わないようにしていた憲実だったが、自分が負けてしまうことで村人や仲間たちに被害が及んでしまうことを恐れて被害がより少ないと思われるフレアバーストのみ使用することを決めた。

憲実が残されている力を振り絞って放った斬撃の軌道が炎に包まれる。

ハイウルフたちは突然の大きな魔法に対応することができず、半分近くが炎の餌食になった。


「もう一度··········グハッ!」


もう一度刀を振り下ろそうとするが、刀は上がることはなく、憲実は血を吐きながら刀を放り出して前に倒れこんでしまう。

どう足掻いても動くことのない身体に鞭を打ちつつも内心では諦めていた。

ハイウルフが近寄ってくる音だけが聞こえてくるが、どちらにしてもこの出血量ではすぐに止血をしなければ助かることは不可能だろうと割りきって心の中で大切な人への別れをしようとしていた。


だが、それは叶わなかった。

否、必要がなくなったのだ。


樹根槍(ワーゼルスピアー)!」


地上から根っこが飛び出して、ハイウルフたちを一匹たりとも逃すことなく貫く。


「ふぅ、なんとか間に合った。急いで正解だったよ」


声の主はエイルである。エイルはハイウルフを一網打尽にしたあと有里と共に待っていたのだが、あまりにも憲実の帰還が遅かったため手助けをしに行こうと思っていたのだが胸騒ぎがしたので、急いでこちらに向かってきた。

有里も少し遅れてではあるがこちらに向かっている。


「有里に支援をしてもらっていてよかった。流石に単独の力ではこの量は一度には倒しきれなかったな」


いくら演算能力が優れていて魔法効率が一番いい選択ができるとしても今のエイルの力では全てのハイウルフを同時に攻撃して、なおかつ全ての息の根を止めることなどとてもできたものではない。

万全の状態だったならばなんとかなったかもしれないが、エイルは先ほどウルフロードとの死闘を繰り広げたばかりである。

有里の燁幽術:光の権能で魔法の威力を強くして、香月さんの余剰霊力を込めた霊晶石を使うことでなんとか倒しきることができたのだった。

エイルは憲実の姿を見つけてすぐに取り敢えず止血をしなければいけないと思い、蔦を利用して血が流れないように押さえつけた。

回復魔法を使うこと自体はエイルにも出来なくはなかったが気休め程度でありこれほどの傷を治療するのは有里が得意だと直感で感じたからだ。

後から追いかけてきた有里に、軽く状況を説明して辛うじて動くことができる程度に治癒をしてもらう。

治癒にはそこそこ多めの霊力を必要とするのだが霊晶石とシルフィアリトスを活用して、有里の聖属性強化の能力の補助を受けることで有里自身の霊力の消費量を最低限に抑えた。

まだ戦いが残っている可能性もあるため、少しでも温存しておくに越したことはない。

何はともあれ、憲実はなんとか生き永らえる事ができたのだった。






まだ、ハイウルフ討伐の話が続きます。

おそらくあと一話で、そのあとは第一部の終わりに差し掛かる予定です。

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