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白銀の聖霊騎士  作者: 桜海冬月
第一部 
31/70

ハイウルフ討伐 エイル編 その弐

ご覧いただきありがとうございます。

エイルの言葉を聞いてハイウルフのリーダーは嗤う。


「これまでは力を抜いていたとでも言いたいのか?」


ハイウルフのリーダーは味方の士気を下げないためにエイルを表面的に嘲笑するが、心のなかでは慌てていた。

今まで以上の力を持っているとしたらすでに勝ち目は潰えている。

それどころか、エイルを追い詰めて自分が負けた後を群れのハイウルフに託して倒して貰おうという希望すらも叶わない確率が高い。

ここは逃げるのも一つの手かもしれない。

縄張りを自分から手放すのはあまりいい気分ではないが縄張りなら別の場所に行ってまた作り直せばいいだけだ。

逃げ延びることができなければ意味はないのだが、ハイウルフのリーダーには何となく逃げてしまえばエイルが追ってこないような気がしていた。

一つだけ問題はある。

別の方向に行っている仲間のハイウルフたちを見捨てることになってしまうことだ。

ハイウルフのリーダーは自分達だけでも取り敢えず逃げ延びるべきかそれともエイルを少しでも消耗させて他のハイウルフたちが生き延びる確率を上げるべきか迷っていた。

このハイウルフのリーダーはハイウルフのなかでも賢い部類に入る個体だったので理性的に考えていればエイルほどの強敵ではないとは知らないにしても他にもエイルのように自分たちを討伐しに来ている者が複数いると考えて、自分達だけでも生き延びる方向を選んでいただそう。

しかし、彼は戦い抜くことを選んだ。

それは戦いを好むハイウルフの本能ゆえか、それとも仲間を大切にする思いゆえか。

どちらにせよ、彼は戦い抜くことを選び身構える。

エイルが本気を出すと明言している以上次の一撃ですべてが決してもおかしくはない。

そう考えて全身全霊の力を込めて突撃を行う。

思いが天に伝わったのか彼の体は少しずつ大きくなる。

角はより鋭くなり、爪は一度使ってしまえば折れてしまうだろうと思えるほど細く大きくなった。


(力が漲ってくる。これならば勝てるかもしれない)


すべては仲間のために。

死を覚悟した者、それも互角に近い力を持つ相手ほど恐ろしい敵はいない。

地球でも宗教一揆が手強かったのはそのためだ。

ハイウルフのリーダーの攻撃がエイルに向けて一直線に放たれる。




エイルは少しずつ大きくなって行くハイウルフのリーダーを見てあることに感づいた。

これはハイウルフの上位種のウルフロードに進化が始まっている。

ウルフロードは一級もしくはA級に分類される魔獣で魔法も使いこなす個体もいる恐るべき魔獣だ。

有里が作り出した狼よりも単純な戦力はわずかに劣っているがそれだけでも危険であるし、知性的な動きもできる分実質的な危険度はウルフロードの方が上だ。

今は中途半端な進化のためそこまでハイウルフと変わらないとはいえ元々がハイウルフの上位者だったのですでに最下位クラスのウルフロードくらいの力は保持していると考えてもいいだろう。

試しに結界をいくつか張ってみたが動きを少し遅くしただけでほとんど効果はない。

この一撃で仕留めなければ優勢だったはずが一転して負けになってしまうかもしれない。

エイルは全力の身体強化を全身にかけて迎え撃つ。

体力の温存などと言っていられる場面ではないので頭の回転を最大速度にする。

そして、二人はついに交錯する。

二人の周囲は衝撃波と砂ぼこりが立ち込めて周りにいるハイウルフたちは援護することなど到底できるものではなく、目を辛うじて開けて戦いを見守っているいる者と閉じている者に分かれている。

どちらも心のなかでは群れの主の勝利を祈っていると同時に常人では立ち入ることのできない領域にいる二人を羨望の眼差しで見ていた。

エイルとウルフロードは打ち合いを続けている。

今はどちらかと言えば自分の力をよく理解して上手く使っているエイルに分があるが長引けば成長を続けているウルフロードに勝利の女神は微笑むだろう。

ウルフロードが折れてギザギザになった爪でエイルを傷つけようとすればエイルが結界で受け流し、エイルが拳をウルフロードの腹に入れようとすればウルフロードが右足で弾き返す。

エイルは巧みに魔法を使って様々な方向からの攻撃を試みているがその全てを見切られてしまう。

これはウルフロードが強いとされる所以の能力のひとつ『霊魔感知』のお陰だ。

霊魔感知は霊力や魔力が迫っている場合に無意識に感知できる能力で一定以上技能の差がある相手には通用しなかったりや自分に向けて打たれたもの限定という制限はあるが流れ弾の可能性がほとんどない互角な者同士の一騎討ちの場面では万能とも言える力を持っている。

魔法を弾き返した後、ウルフロードは霊力弾をエイルに向けて撃ち放った。

魔法を打つために距離を取り近接戦闘が主体になると油断していたエイルは不意を突かれて霊力弾のひとつを受けてしまう。


「馬鹿な、どうして君が霊力弾を」


幸いにも圧縮率が低かったためそこまでのダメージはないが予想外の攻撃を受けたエイルの驚きは半端なものではない。


「コツをつかんできたみたいだ。次はもっと強いのが来るぜ!覚悟しな」


『霊魔感知』のもうひとつの恩恵が霊力に対する感覚を強めてくれるという効果だ。

霊魔感知があれば詠唱を知らなくても、魔法の発動の仕方を知らなくても魔法が使えるようになることがある。

ウルフロードはまだその段階まで至ることはできていないが、霊力弾を放つことはできた。

次の段階に進むのはそう遠い未来の話ではない。

以降は魔法を交えながらの戦いになる。

エイルは先ほどとはうって変わって上や下に移動しながら逃げ回るようにして攻撃をする。

ウルフロードもエイルを追いかけながら霊力弾を放ち続ける。

すると不思議なことにエイルはすべての霊力弾を受ける。

上手くかわしているのか、かする程度ではあったがそれなら避けることもできるだろうとウルフロードは思ったがそこまで深く考えることはなくより圧縮をできるように試行錯誤を繰り返す。

力尽きてきたのかエイルは少しずつ動きが鈍っていく。

ウルフロードは時を同じくして霊力を今の本人にできる限りの圧縮を行った霊力弾を完成させる。

ウルフロードはエイルに確実に当てることができるようにタイミングを計って霊力弾を放つ。

その瞬間、エイルの頬がわずかに緩んだことには気づかなかった。


「これを喰らったらただではすまないぜ。()()()()()!!」

「それを待ってたよ。お返しだ。偽りの勝利(ミラージュ)


ウルフロードの体に向けて無数の黒い光が放たれる。

その発信源はもれなくウルフロードが霊力弾を放った場所である。

偽りの勝利(ミラージュ)は相手から受けた攻撃を何倍にもして返すという魔法である。

ただし、発動条件が相手が勝利を確信していることと、発動者が攻撃を自ら受けていることが必要となり、さらに起動するための魔法陣はとても複雑で戦いながら書ききれるものではないし、そもそもの話として形を覚えておけない。

動きを鈍らせていたことも攻撃をすべて受けていたことも勝利を確信させるための演技である。

曖昧で分かりにくい発動条件だが発動してしまえば強力だ。

避けることはできず、攻撃を防ぎたいならば結界を張るしかないがそれでも完全に防がれることはない。

攻撃量が多く、結界も張ることができないウルフロードは偽りの勝利(ミラージュ)の反撃をすべて受けてすでに消滅している。


凄まじいほどの光が出現して、ハイウルフたちは勝敗が決したことを本能で悟る。

黒い光の中から出てきたのがエイルだけだということを確認して、すでに彼らの主が負けて死んでしまったことを理解する。

統率者を失ったハイウルフたちは一斉にエイルに飛びかかろうとして、一人残らず討伐されたのだった。


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