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白銀の聖霊騎士  作者: 桜海冬月
第一部 
21/70

ホウテュの紅茶と清治のお菓子

ご覧いただきありがとうございます。

授業は四時間目までが終了して昼休みになった。わたしたちはいつも通りに屋上にある日陰でお弁当を食べている。


「ねえねえ、みんな知ってる?最近藤ノ原でまた騒動が起こったらしいよ」


さくらが言ったことをみんなは知らないと言って流したがわたしは心当たりがある。


「どんなことが起こったの?」

「僕も気になるな。藤ノ原は時々用事があるからね」


わたしが確認のために聞くと、蒼馬も風景画家という立場上藤ノ原によくいくので安全のために知っておきたいと思ったのか同じように質問した。


「この前の休みに大きな狼が突然現れたんだって。目撃者の人は遠目で見ただけで、そのあとすぐに木々に隠れてしまったから、そのあとはどうなったかわからないらしいけど」

「そんなことがあったのかぁ。その日は一日中家にいたはずだけど全く気づかなかったな」


蒼馬の家は藤ノ原に面しているので、あの日に大きな音や光で気づいていたとしてもおかしくはなかった。それはおいておくとして、大きな狼は恐らくわたしがあの日に出した光る狼のことで間違いはないと思う。


「まだ、いるかもしれないなら近づかない方がいいかもな」

「ロン、それは大丈夫だよ。その話、わたしも知っているみたい。確か国から派遣されてきた騎士によって駆除されているよ」


ロンはほっと息をついた。ロンには週末に隣町にいく予定があったそうでその隣町が藤ノ原を通らなければかなりの遠回りになってしまう。それを考えると少し憂鬱になっていたそうだ。


「大きな狼だったならもしかしたら狼仙さまの生まれ変わりだったかもしれないね」


狼仙さま?


誰のことなのか聞いてみると美佳はわたしたちが知らなかったことに少し驚きながらも教えてくれた。狼仙さまとは昔にある村にいた狼たちの頭領で何百年も生きていた存在らしい。狼の平均寿命は50年にも満たないことを考えると異常なほどの長生きである。しかし、数十年前に姿を消してしまっているそうだ。狼仙さまの年齢を考えるとすでに亡くなっていても不思議ではないため美佳がこの前までいた村では狼仙さまは亡くなったと考えて祀っていたそうだ。


千里さんたちならなにか知っているかもしれないと思ってわたしは午後の授業に戻った。




朝に言付けられた通りにわたしは図書館に来ている。図書館には閉館を示すカードがかけられていて、鍵は空いていたがなかに人はいなかった。ただ、司書室には千里さんたちがいるようでわたしは呼びに行った。

呼び掛けると千里さんと光希さん、陽菜と爆炎、慈玖さんが六十代くらいに見える男の人をつれて入ってきた。


(あの人が慈玖さんの師匠だと思うんだけどエイルはどう思う?)

(同感だよ。あの人は本当に全く隙がない)


エイルによると、千里さんみたいに霊力を活用して気配を消しているわけでなく動き方に配慮することで気配を完全に断っているそうだ。この技術はどちらも高度なのだがより霊力操作に長けるのが千里さんの方法で超越した身体能力と隠密法で行っているのがおじいさんだそうだ。また、わたしから見るとどちらも変わらないけどエイルによると隠密法と身体能力で気配を断つ方が圧倒的に困難だそうだ。


「久し振りだね、有里。流石にこの人数は司書室には入らないからそこのテーブルに座って」


千里さんが指差した先には図書室の真ん中にある一番大きな丸いテーブルがある。わたしたちがそこに座ると爆炎が一度司書室に戻って少ししてから中身が入った香しい匂いのするカップを持ってきてわたしたちの前に置いた。


「これはなんですか?」

「これはホウテュという茶葉を使った紅茶です。ホウテュはミュークルよりも甘く漂うフラワリーフレーバーと濃厚なコクが印象的で、味わいはデリケートで渋みは比較的少ない方ですので、飲みやすいと思いますよ」

「ホウテュは生産量が少ないのでこの国にはあまり入ってこない品種ではありませんでしたか?」


お茶を飲むことが趣味だという光希さんが反論した。


どうでもいいけど、光希さんがお茶を飲む姿はとても似合っている気がする。


ホウテュは人気のある品種だが生産量が極めて少ない。そのため同じく人気のあるミュークルという品種が好まれる。ミュークルはホウテュの原型ともいえる品種で味が近くてより流通しているため、ミュークルの方が一般的らしい。


「私が懇意にしているフォーンバーズ王国の貴族から貰ったがミリヤはあまりホウテュが得意ではないそうなのでこちらで飲もうと思った」

「今度、九条さまがいらっしゃるからそちらで出せばよかったのに」

「案ずるな。千里、そちらは別で準備している」


紅茶の話に花が咲いているが本題について話をしないでもいいのだろうか?

隣にいた陽菜に聞いてみると、これから校長先生も来るのでそれまで待つ必要があるそうだ。


「時間があるなら、教室からお菓子をとってきていいですか?紅茶と一緒に食べる用に」


途端に千里さんは顔を輝かせる。父さんのお菓子をとても気にいっているらしく、よく買いに来ているようだが本当のようだ。

わたしは千里さんの熱烈な肯定を受けて、陽菜と一緒に教室に戻りロッカーに置いてあるお菓子類を持ってきた。

わたしが持ってきたのはチョコレートクッキーとシナモンロールクッキー、最中の三種類だ。日持ちするお菓子であることと潰れないことが絶対条件なのでふわふわしたお菓子などはあまりロッカーには置いていない。

千里さん以外にもとても好評でみんな今度買いに来ると約束してくれた。これは父さんの役に立つことができたのではないだろうか?


しかし、わたしは慈玖さんがシナモンロールクッキーはフォーンバーズ王国のものだと気づいていたこととどこかで食べたことのある味だと思わせていたことには気づかなかった。








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