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白銀の聖霊騎士  作者: 桜海冬月
第一部 
20/70

転校生 後編

ご覧いただきありがとうございます。


「桜陽皇后はその他にも調理法や衛生管理の改革を皇主桜陽に助言して、その計画を推し進める担当部署の顧問役として活動して、特に衛生管理分野では農村などでの子どもの死亡率の改善や平均寿命の伸長に貢献したと言われている」


先生が言われていると表現を濁したのは皇主桜陽の治世以前は文書に残すことをしていなかったので、記録がなかったからということと、農村にいる人たちの証言を頼りにしていて正確な統計が存在していないからなのだが、大幅に改善したことが当時のいくつもの問答録に記されていることからほぼ間違いないとされている。

この後の甘利先生は桜陽皇后が編纂した本の紹介や皇主桜陽が発見した薬草の効用などを紹介したところで時間は後二、三分となりわたしたちに質問用紙に記入するように言った。

この質問用紙は授業間の時間では質問する余裕がないこと、かといって放課後は家の仕事の手伝いがある人もいることから校長先生の発案で数年前に始められた仕組みで生徒からはとても好評らしい。

わたしは特に質問することもないので白紙のまま先生に提出する。

他の人も今日は一人のことを一時間授業していたので、いつものように分かりにくいことが生まれるようなこともなかったのか、数人の一生懸命書く人を除いて大半が白紙で提出しているようだ。

となりの席にいる美佳は結構色々とかいているようで提出は昼休みにするつもりのようだ。

終了を示す高い音の鐘が鳴り響き授業は終了する。

音が開始時は低く、終了時に高くなっているのは今の音の逆で運用されていた昔に先生が授業にのめり込みすぎて鐘を聞いていないということが多発して、次の授業に間に合わなくなった生徒や開始時刻を遅らせざるを得なくなった教師からから苦情がたくさん来たため、響き渡りやすい高い音の方が終了の鐘になるように変えられたそうだ。

とにかく授業は終わりみんなは次の授業の教室に移動する。

わたしはさくらたちいつものメンバーと美佳と一緒に移動している。


「はじめまして、僕は水田そうま。得意なものは絵を描くことだよ。仲良くしてくれると嬉しいな」

「オレは栗山毅。皆にはロンって呼ばれてるから夏目さんもそう呼んでくれ」

「あたしは築山さくらだよ。美佳ちゃんのその髪の色、すっごくキレイだね。なんていう色なの?」


みんなはそれぞれ軽く挨拶をする。

特にさくらは妹ができたような感じだ。

尤も、身長は美佳の方が数センチ高く、さくらは美佳よりもさらに幼く見えるので、上辺だけを見るとさくらの方が同年代で近所に住んでいるお姉ちゃんに懐いている妹的存在に見えるのだが、ちょっと内向的な雰囲気を漂わせている美佳と、明るく活発で人との距離を詰めるのがとても上手いさくらでは自然とそうなっている。

さくらは例えばよくロンにおんぶされていたり、行動が幼児並みの時も多々あるのだが普段は理数系では校内随一で、理知的なメガネ補正も相まってそのような行動をとるとき以外はその圧倒的小ささの身長を除いて年齢相応に見えている。


「この髪色はキャラメルブロンドといって金髪の一種だよ。実は私のひいおばあちゃんが西の方にある国の出身で髪の色が金色だったみたいでそれが私にも遺伝したみたい」


西方の国とはウルマ・カール帝国のことで現在この国と公式に取引している唯一の国だ。

この国では他国の出身の一般人はほとんどいないので髪色はほとんどが黒もしくは茶髪だ。

そのため黒や茶以外の髪色はとても目立つ。

銀髪のわたしも同じことだが、わたしの場合は母親の関係で近所の人たちも銀髪を見慣れていたし、学校でも他国の髪色に理解の深い人がいてくれたお陰でちょっとした興味の視線を向けられることはあってもそこまで嫌だと思うことをされたことはない。

しかし、美佳は違ったのだろう。

母や祖母は少し金髪の面影を感じさせる程度の茶髪だったそうで、美佳のひいおばあちゃんは若くして亡くなっているそうなので金髪を見慣れた人がほとんどいなかったそうだ。

それに、理解の深い人なんてそうそういるものじゃない。

特に田舎は親族が村の人口の三分の一くらいいることも珍しくないというし、同じであることを好む人が多い。


「だからね、私は有里ちゃんをみたとき少し嬉しく思ったんだ。私と同じように他と違う人がいるって」

「それは違うよ、美佳ちゃん。人はみんな違うんだよ。同じ人なんてこの世界のどこにも存在していないの。だから、人と違うことを気にする必要もないよ」


さくらが言った言葉に美佳はハッとしてうつむきがちな顔を上げて真っ直ぐわたしたちを見つめたあと、吹っ切れたような笑顔になる。


「そうだね、そうだよね!私は私でみんなはみんな」


そこにはさっき話していた時のような悲しげな表情はない。


「改めてよろしくね。有里ちゃん、さくらちゃん、そうまくん、ロンくん」


やっぱり、美佳は笑顔の方が似合っていると思う。

すごくかわいいし何よりも楽しそうだ。

美佳の笑顔を見ているとわたしまで満たされるような気分になり自然と笑顔になる。


時計に目をやったそうまがその場の空気を壊さないためかそれともわたしと同じように満たされていていつもよりも楽天的な思考になっているのか普段とは違い慌てることなく言った。


「もう教室に向かわないと間に合わないみたいだね。そろそろ動き始めようか」


わたしたちは次の授業がある教室に向かって歩き始めた。



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