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白銀の聖霊騎士  作者: 桜海冬月
第一部 
14/70

紫馬簾慈玖 後編

ご覧いただきありがとうございます。


エイルは最初とほとんど同じように動きを読んでその予測通りに最短距離を動くことで節約して戦っているが唯一違うのはフラッシュ系の魔法を多用していることだ。

救援が近づいているので蔦などよりも光を出すことでその人が迷うことなくここにこれるようにという配慮だそうだ。

・・・予定の30分まではあと3分




慈玖は神穂にある藤ノ原に向けて飛行魔法で飛んでいる。蓬菊隊本部からの連絡では余裕があるようだったけど急ぐに越したことはない。もう少しで着くことが予想されているのかいままで少なかった霊力の放出や発光が急激に増える。慈玖の万能感知を用いればそこまでしなくても場所を見つけられないことなどなかったのだがもちろん有里たちは気付いていない。

慈玖は万能感知を駆使してある程度の状況を把握する。

霊力量だけならA級以上、ともすれば特級にも引けを取らないと思われる強大な霊力反応に、霊力を使い果たしたのか2つの小さい反応がある。

そのうちのひとつは動き回っているようだがもう一人は動きを止めている。

実際の状況までを見通せるわけではなく、霊力反応だけで判断している慈玖は思った以上に深刻な事態だと受け止めて速度を上げる。

戦闘地域が目視で確認できるようになってくる。




 邂逅の時は近い




エイルが急に攻撃の手を止めてわたしのもとにやってくる。

力尽きたのかもしれないと焦ったわたしはエイルがいる範囲までを結界で覆う。

するとわたしの結界に上乗せするようにさらに結界を張る。


「あとすこし」


そう呟いたエイルの視線の先を見ると、人が走ってきているのが見えた。あの人が紫馬簾さんだろうか?


「援軍に来たがここで間違いないかな?」

「はい。わたしが魔法であの魔獣を作ってしまったみたいです。倒そうにも霊力を持っていかれてしまったので」

「わかった。詳しい話はあとのようだ」

「その前にもうひとつ。出来るならば一発で倒してしまった方がいいよ。戦ってみて確信したけどあの狼は霊力を吸収するんだ」


校長先生も言っていた通り、光る狼は少しずつエイルから放たれた霊力を取り込むことで力を増していたらしい。

エイルはそれに気づいたからこそ光以外での霊力放出を最大限まで避けていたそうだ。


「そうか。ありがとう。ならば一撃で倒してしまうとしよう」


紫馬簾さんは光る狼を見据えて刀を構える。

まるで一撃で倒しきる確信があるような自信が溢れだしているのがわかる。

でも流石にあの巨体を刀だけで一刀両断できるようには思えない。

そんな心配をよそに紫馬簾さんは集中力を高めて刀に金色のオーラを纏わせていく。

そして、光る狼に切りかかった。


溶滅斬(メルト)


落ち着いた声で言って刀を振り下ろす。

それは絶対的な強者が格下を苦しみをなくす慈悲を与えるような響きだった。

紫馬簾さんの刀が光る狼に触れると同時にその身がドライアイスが昇華していくように刀と同じ金色を纏って霧散していく。

紫馬簾さんはわたしたちがあれほど苦労していた魔獣を豆腐を切るかのごとく消し去ってしまった。

それと同時に心の奥底で言葉に形容しがたい悦びを感じていた。




霊力だけは特級に匹敵するがあの少女が霊力でしかも意図せずに作っていたため魂と知能が欠落していたのか防御を行おうともせずに自分から俺の斬撃に向かってきた。

普通ならば予定する最大加速地点から外れてしまうので厄介なことこの上ないのだが俺の斬撃ではすこし話が変わってくる。

この溶滅斬(メルト)は字面の通り、接触した霊力関係のものを固定されて一定の時間以内ならば完全に消滅させる魔法戦では無敵の技なのである。

この溶滅斬がなくとも慈玖は光る狼を圧倒的な差で殲滅できていたのだがエイルの言葉を聞いて相手にさらに力をつけさせてしまう可能性も考えて必殺の剣を使ったのだ。

そして慈玖は思う。この少女は只者ではないと。

あの狼の霊力量から考えてかなりの霊力を保有していることは容易に想像できる。

それにあの精霊も普通ではない。見た限り中位精霊ではあるが知の精霊である点だけでなくその実力だけでも中位精霊のなかで上位であろう。

俺が来る前に攻撃を止めたようだが霊力の動きから見ても最高の効率で戦いを進めていたことがわかる。


それだけでない。慈玖に加護を与えていた精霊は有里を見てひどく反応していたのだ。


そして慈玖は有里に声をかける。


「私の弟子にならないか」と





紫馬簾さんから弟子になることを誘われた。

聞くと、慈玖さんも千里さんや陽菜と同じ蓬菊隊の"幹"という最高幹部の一人でわたしと同じ光属性を持っていてエイルと同じ木属性を持っているそうだ。

それに属性だけでなく実力的には師匠としてはこの上ない、というか過剰だとも思えるほどである。

しかし、わたしには断る理由はない。

弟子になれば蓬菊隊に所属することになるが、すでに先日千里さんと話し合いをして近いうちに蓬菊隊隊士となることが決まっていたからだ。


「条件などはありますか?」

「そうだな。特にはないな。必要な素材や資金、装備などはこちらで準備するつもりだ。あとは、私が任務で神楽坂を離れる間は私の師匠である山瀬玖楼義信が指導することになるがいいか?属性は君たちと合わない部分もあるが剣術の腕前と実力は保証しよう」

「それならば安心です。千里さんも町を離れることは多いと聞いていましたから」


わたしの言葉を聞いた慈玖さんは笑みをこぼす。


「そうかそうか。すでに千里も目をつけていたのか。それならば私が任務でこの辺りから離れたとしても千里や陽菜に神彌たちが代わりに稽古をつけてくれるだろうな。では取り敢えず神楽坂高校に戻って泉校長や光希とこの件についての話をしよう。飛行魔法は使えるか?」

「使えませんけど······」


飛行とは空を飛ぶことで間違っていないと思う。

わたしは見たことも聞いたこともない。

エイルはそもそも精霊は浮いているため飛行魔法は必要としていなかったため知らないとのことだった。


「ならば歩いて向かおうか。飛行魔法はまたいつか教えよう。乱発はしない方がいいが急ぐときには重宝するからな」


飛行魔法ならば藤ノ原から直接傾きの大きい斜面を通って神楽坂高校に行けたのだができないため、わたしたちは藤ノ原から一度城下の中心部を通って高校に行った。






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