紫馬簾慈玖 中編
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エイルの読み通り、援軍は来たのだ。
校長先生が先程の光を見ていて駆けつけてくれた。
校長先生の話によると、光希さんや甘利先生も同じく見ていたのだが、光希さんが霊力の流れから自分たちの対処できる範囲を超えていると判断したため、甘利先生が他の先生たちと共に学校内や町で混乱が起こった際に備えて待機をしているそうだ。
とはいっても、ここは周りに木々が生い茂っていて神楽坂高校方面にしか開けていないので、混乱が起きる可能性は低いとのことだった。
光希さんはちょうど千里さんや陽菜が任務で神楽坂を留守にしているため、今神楽坂にいる他の蓬菊隊の対処できそうな人を呼びに行ったそうだ。
そして、校長先生は逃げ遅れた人などがいないかを確認しにこの山に入ってきたらしい。
何でも校長先生は元蓬菊隊の一級隊士で引退はしているが剣士としての技術は健在で自衛だけならば可能で教師陣の中で一番安全なのだそうだ。
「ワシも全盛期ならば可能性はあったのかもしれんが今はあの狼相手には時間稼ぎにもならんかもしれぬな」
校長先生は結界術に長けていて守りに関してはそれほど衰えてはいないそうだが今回はエイルの知の精霊としての緻密な演算とスピードを活かした絶妙なバランスの上に成り立つ圧倒的な格上とのギリギリの戦闘のため、無理に手を出すことをしてしまえばすべてが崩れ去る可能性が高いそうだ。
「そう気を落とさんでいいよ。ワシの見立てではこのまま誰も手を出さんければあと数時間はこの状態を守れるはずじゃ。それまでには光希も誰かしら連れて帰ってくるじゃろうて」
校長先生は髭をさすりながら楽観的に見ているようだがわたしはそこまで余裕はないと思っている。
なぜなら、わたしの霊力供給は一日に送ることができる最大量があるのか時間が経つごとに少しずつ減っていっている。
それでなくても霊力供給は集中力を多大に使うので簡単なことではないから疲れがたまる。
それを校長先生に伝えると髭に手を当てるのを止めて深刻な表情を作った。
「それはまずいな。あの狼は精霊が放出した霊力を少しずつ取り込んで僅かではあるが強化されておるようじゃし、あの精霊が崩れれば持ちこたえられないぞ。このままでは紫馬簾殿······せめて六条の坊やが来ないと厳しくなるな。とにかく今は救援が到着するまで、あの精霊が持ちこたえてくれると信じるほかないじゃろうな」
「たぶん気づいていると思いますけど一応、エイルに光る狼が霊力を吸収していると伝えておきますね」
幸いにしてわたしの霊力供給の現象に合わせてエイルは霊力消費がより少ない戦い方に移行しているようで霊力の消費は微々たるものだ。
エイル自身の霊力回復分はほとんど消費されていないのでわたしの霊力供給が途切れたとしてもまだ戦える。
エイルの戦いに集中している間に校長先生の持っていた腕輪が光った。
「こちら蓬菊隊本部。そちらは泉殿ですか?」
「そうじゃ。救援の件であるか?」
「はい。いまそちらに幹の紫馬簾慈玖様が向かっています。あと30分ほど掛かるそうですが持ち堪えられますか?B級の隊士ならば五分以内に派遣できますが」
校長先生はわたしの方をちらりと見てエイルだけで持ちこたえることが可能かどうかを聞いた。
わたしは頷き、校長先生を見た。
「大丈夫じゃ。いまここに幹以外の一級以下の隊士が来ても役に立てんじゃろうから必要ない」
余計に霊力の大きい人が増えてエイルが注意を引き付けられなくなっても困るという判断もあった。
どうせ戦いには干渉できる状況ではないので意味はない。
それに念のために神楽坂にも人を残しておきたいということもあったのだろう。
戦いは膠着状態のまま10分くらいが過ぎた。
わたしが教えてからはフラッシュなどの放出系の撹乱攻撃ではなく、産み出した蔦や周囲にある土や落ち葉などを活用しながら上手くひきつけ続けている。
もちろん、光る狼にダメージなどを与えられるはずもないのだが目的が勝つことではないので問題はない。
基本的には光る狼の攻撃はエイルには当たらないのだが時々、勝つことが難しく他のところにいった方が旨味があると思われないように、絶妙にかわしながら少しだけ受けるようにしているみたいだ。
「ではワシは高校に戻って警戒を手伝うとするかのう。こちらにおっても役には立てんしな。負けることはないようじゃしな」
もう予定の時間までは15分を切っている。
それに校長先生の霊力を光る狼が感知し始めていてエイルから狙いが切り替わり始めている。
エイルが注意を再度引き付けるように強めの攻撃を放つことで引き戻しているため、わたしたちのもとに攻撃が飛んできたのは二度だけだけど、ここにきてエイルの霊力消費が初めてエイルの回復分を含めてマイナスになっている。
「そうですね。あと15分くらいならばわたしたちだけでなんとかなるでしょう」
校長先生はわたしがエイルの霊力供給に集中できるように守ってくれてもいたのだが、今では逆に攻撃を集めてしまって集中力を欠くことに繋がっているし、わたしは光希さんから借りている例の結界装置が手元にあるので15分は耐えることができる。
(エイル、校長先生が退避するから一度だけあの狼を捕らえる攻撃を放って!)
(了解!僕の魔法が完全に発動したら避難させて)
エイルは光る狼を撹乱するように周囲を素早く移動する。動きながら霊力を目印をつけるように地面に向かって放出して魔法陣を形作っていく。
「食らえ、光撃封陣!」
先程の魔法陣が上空に向かって光の柱を伸ばし始めてその中から光の玉が生まれて狼を攻撃する。
この光撃封陣は魔法陣を発動媒体として用いる攻性結界で手間が掛かるがその分霊力消費を減らせる優れものだ。攻撃も同時に行う分結界を破る難易度は上がる。
余談ではあるがこの光撃封陣はより時間をかけて作ることで積層形魔法陣にして耐久力や威力を上げることができる。というかこちらの方が本来の姿なのだがエイルは知の精霊としての権能を最大限に活用している。
「今です。この結界が解ける前に離れてください」
「健闘を祈っておるぞ」
わたしは校長先生に手を振って送る。
校長先生がある程度の距離をとって見えなくなってから2分経ってエイルに結界を解くことを伝える。
消費が少ないとはいっても使わない方が節約に決まっている。
わたしの供給が限界値を迎えているのか刻一刻とその量が減っている。
これではあと十分、いや7分もすれば供給は途絶えてしまうだろう。
すこしでも多くと思ってわたしは供給に集中しようとする。
(有里、もう大丈夫だよ。あとは僕自身の霊力だけで持ちこたえられる)
その言葉に安心してわたしは力を抜いてその場に座り込んだのだった。




