魔法指導開始!
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昨日は千里が作った一角兎の鍋を食べた。魔獣だから美味しくないと食わず嫌いしていたが、思ったよりも美味しかった。
ホーンラビットのお肉は少しだけ筋肉質なウサギの肉という感じで、魔力処理さえすれば美味しく食べられるらしい。
そして千里は父さんと仲良くなり、お菓子作りを教えてもらえることになったようだ。昨日帰るときはとても満足そうな表情だった。
そして今、わたしは図書館にいる。
今は五時間目の授業があるけれども、なぜか図書館に来るように言われている。
バタンッ!と司書室の更に奥にある扉が開く音がつよくする。光希さんは静かに閉めるので、おそらく千里が手伝いに来ているのだろう。
······ということは?
(昨日の話の続きがあるんだと思うよ)
(でも、早すぎない?昨日の今日じゃ何にも出来ないでしょ)
そもそもその約束はもう少し先のはずだ。
なんの話題かエイルと共に思案に耽っていると、バタンという音と共に司書室の扉が開く。
司書室から出てきた人影は一つではなく、三つ。
千里と陽菜と光希さんだ。
「こんにちは」
「こんにちは、有里ちゃん。元気だった?」
光希さんの心底心配している言葉に思わず首をかしげる。光希さんはどうやら昨日わたしの身に起きたことを知っているらしい。
光希さんって一体何者?
陽菜から昨日の内に聞いた千里の性格を考えるに、蓬菊隊に関連のない人に昨日あったことを軽々しく漏洩するような人とは思えない。
「有里は知ってると思うけど紹介するね。
今日から彼女に指導してもらうからね」
「どういうことですか?」
「光希は魔法関係の知識が豊富で教えるのが上手いんだよ」
千里は騎士を育てるための施設で教官をしているそうなのだが(陽菜も三日に一回くらいの頻度で通っているそうだ)、実技の特訓は申し分ないが感覚派なため座学の指導は苦手らしい。
代わりにこの神楽坂高校で司書をしていて、魔法研究者でもあった光希さんが時々千里の代わりに教えにいっているらしい。
そういうわけで知識、実績ともに豊富な光希さんが司書として勤務するついでに、わたしに魔法関係の知識を教えようということになったそうだ。
「実技訓練とかをできる場所はありますか?」
「まあ、それは深刻な問題だよね。有里は森属性だから簡単な魔法なら放っても安全だけど炎属性魔法は燃やしちゃうから。それに目立つ魔法の練習は危険だからね」
光属性魔法も大きな光を副産物として発する魔法の割合が高いので普通の場所での練習は不可能というほどではないにせよあまり向かない。
千里は今まで施設で教官としての業務時間以外に練習をしていたため訓練場所に悩んだことはなく考えていなかったようだ。首をかしげて悩んでいる。
「梅島にいけばいいのではないですか?あの島なら目立ちませんよ。設備も整えられているし、防音は強固ですよ」
「確かにあの島なら安全でしょうけど、······何せ遠いですからね。休日ならともかく平日に日帰りでいくのは難しいですもの」
梅島は蓬菊隊における総本山のような場所で島民は基本的に何かしらの形で蓬菊隊に関わっているそうだ。
「せめて遮蔽結界でもあればいいんですけどね」
陽菜がポツリと呟いた言葉に光希さんが思い付いたとばかりに反応する。
「始めからそこまで大きな魔法を行使することもないでしょうけど、遮蔽結界ならば最近完成していたものがありますよ」
まだ実験段階ですけど、と光希さんは笑いながら言った。この結界は光希さんによると、完璧に防ぐことはできないが実験したところによると放出系の炎属性『インフェルノ』を熱が漏れることまでは防げなかったものの炎に関してはほとんど防ぐことができたそうだ。
インフェルノとは炎系の最上位魔法で消費魔力、霊力が異常なほど多い代わりに威力は他の魔法で並ぶことができるものは数えるほどしかないそうだ
「ただ、この魔術具の欠点は魔力だけしか受け付けないことで······」
この国では魔力持ちは居ないことはないが希少な存在で訓練を隠すために使えるほどの量はない。
「それなら、爆炎たちに協力してもらいましょう。眷属召喚!」
陽菜の能力による召喚により爆炎と他二名の魔人たちが呼び出される。
「お嬢様、何かご用でしょうか?」
「この魔石に魔力を注いで」
「仰せのままに」
陽菜は千里が持ってきた拳よりも少し大きめの比較的大きな青い石に魔力を注ぐように命じ、爆炎たちは即答で承諾する。
魔力の流れが見え始めると共に、魔石が赤と黒に光り始める。
これはエイルによると魔力の属性を表していて、この中でも屈指の魔力量を持つ爆炎の炎属性と三人の魔属性が表れているそうだ。
エイルに言われて、もう一度魔石を確認すると、赤色よりも黒色の方が濃く表れている。
爆炎たちは最低限の魔力を残して、持てる魔力をすべて注いだようだがまだ魔石には余裕がありそうだ。
「これだけあればよほど大きな魔法、例えばインフェルノなんかを連発しない限り半月くらいは訓練できると思いますよ」
「連発を防ぐことは叶わないとしてもインフェルノの厄介な能力を打ち消すことができるとは」
「まあ、なによりも危険なのはインフェルノの威力自体よりも能力の方だからね」
光希さんの言葉に爆炎が感嘆を込めて少し高くなった声で返す。
なんと、インフェルノにはその強大な威力だけでなく防御魔法妨害という厄介な能力を持っているそうだ。
防御魔法妨害はその名の通り防御系に属している魔法や結界を妨害して不完全にしたり、無効化して打ち破るという能力だ。
この能力自体は他の魔法でも幾つか附随しているものもあり、防御者の能力や魔法の錬度によっては妨害を無効することもできるがインフェルノとなると話が変わってくる。
威力に比例して防御も難しくなる。つまり、最上位系の魔法を防ぐには生半可な結界では役に立たないのに、加えて妨害をされてしまえば防ぐことのできる人は最強格の人たちだけだ。
そういえば、この前もルワンがインフェルノを使おうとしていたような。
もしかして、発動していたら助かる道はなかったのでは?
前もってルワンの魔力を減らしてくれていたエイルの動きに感謝しなければならない。
「これはまた、研究所に持っていかないと。量産できたら討伐もより安全度を増して行えるかもしれないね」
「ええ、ただ素材が少し厄介なものだから簡単にはいかないはずよ」
光希さんは改良をするつもりは無いそうで、改良の仕事は研究所に任せればいいと千里は言った。
「これならこの辺で大きめの魔法の練習も簡単にできそうですね」
インフェルノ級の大魔法を練習ならともかく、通常の中級や上級の魔法の練習は遮蔽さえできてしまえば安心して行うことができる。
「練習の場所も確保できたことだし、私たちは養成施設に行ってくるね。光希、あとはよろしく~」
千里たちが学校を去っていくのを見送り、光希さんの司書室に案内される。
「始めましょうか。まずは、魔力と霊力の違いと属性について学んでいきましょう」
光希さんは何冊かの本をわたしに渡す。これはより詳しい魔法について記されているもので普段は保管されているものだそうだ。
ちらりと本の表紙を確認されていると、光と木属性の魔法に支援魔法が乗っていることがわかった。
「その本はね、魔法の術式だけじゃなくて霊力の溜め方と放出の効率をよくする方法もかかれていて、しかも他の本と違って文字情報だけでなく図でも示されていてとても分かりやすいの。だから、独力で魔法力を上げたいときには重宝されているのよ」
光希さんや千里も見習いだった頃にはこの本で勉強していて、近年では魔法を志す人たちの必需品となりつつあるらしい。
絵がなければ文字だけを便りにして魔法技術の根幹をなす魔力操作を自分流に完成させていかなければいけないが図を用いることで感覚的な部分の表現も可能になり、格段に分かりやすくなったそうだ。
「この本は授業時以外に学ぶときに使ってね。じゃあ、早速授業を始めましょう」
そう言ってから、光希さんはまず魔法の歴史について教えてくれた。
簡単にまとめると、魔法は太古の昔から存在していたと言われているがそれを詳しく体系化したのは「賢者様」という人で、始めは炎属性最上位魔法の「インフェルノ」や氷系最上位魔法の「ブリザード」といった攻撃系大魔法がほとんどだったが、時代が下って行くにつれて魔法研究者たちが新しい魔法術式を産み出していったそうだ。
有名なところで言えば、鑑定魔法や治癒魔法などの非殺傷系魔法や周囲を光で照らす「ランプ」や空気中の水を集合させる「アリラネイア」などの生活魔法も『魔法』の中で重要な部分を占めるようになっていったのだという。
数々の優秀な研究者による術式の発明によって、近年では研究によって新しい魔法が産み出されたり改良されることが減ってきている。(とくに攻撃魔法はその発展が国によって規制されている)
しかし、結界術は他の魔法と違って特定の属性や魔法に対する優位性を持つものや逆に汎用性をもち、さらに効率がよいものが日々研究されていて、都市防衛結界や浄化結界など、その作用方法、規模共に多種多様で個人や国家に否定されたものを含めると数ある系統魔法の中で最も種類が豊富なのだそうだ。
「もう時間があんまり残っていませんから、最後に簡単な霊力操作の特訓をしましょうか」
霊力を扱うときのコツを簡単に教えられて、初歩の生活魔法「ランプ」と「アリラネイア」を使ってみる。
「アリラネイア」の方は及第点を貰うことが出来たが、「ランプ」は光が強すぎて失敗した。
「霊力量が多いだけあって魔法の発動には苦慮しないと思うけど操作がしっかりしてないと、霊力の無駄が多くなっていざというときに使えないですよ」
光希さんは魔法で司書室内を暗くして「ランプ」を発動させる。
光はそこまで明るくなくほんの近くしか見えない。しかし、次の瞬間から少しずつ明るくなり始めて最終的には太陽の光が入り込んでいたときと同等の明るさを示すようになった。
······これが魔力操作。
わたしが見とれている間に授業終了の鐘がなる
「今日はここまでです。自主的な練習をするのはいいことだけどする場所は人目の少ないところで、絶対に炎属性魔法の練習は私にいってからするように」
「はい。分かりました。藤ノ原の神社か藤棚の周辺でいいですか?」
「ええ。頑張ってね。有里ちゃん」
会釈をしてから司書室をあとにした。
未使用の魔法で説明されても分かりにくいと思いますので分かりにくいと思いますので説明いたします。インフェルノは先述の通り炎属性の最上位魔法で焼却に特化したものです。延焼範囲も広く森林地帯が多めの作中の国で使用した場合、水の大魔法で消火しないと確実に大災害になります。多分半径三百メートルくらいには火の手が上がるでしょう。光希の結界を使えばそれが10分の1くらいで抑えられます。完全に防げるわけではないのですが結構すごい発明です。
では、また。お元気で。




