解析鑑定 後編
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千里さんに厨房を追い出されて、千里さんから渡された陽菜が居る場所のメモにしたがって行くと、陽菜と爆炎が訓練をしていた。
陽菜に声をかけようと思ったのだが、爆炎の持つ仄かに赤く光る双剣を軽々と水色に光る鎌で受け流す陽菜に見とれて動けなくなっていた。
「すごい···」
「あれは支援魔法で身体強化をしているみたいだね。爆炎の方は特に何もかけていないみたいだけどあの双剣は数回まともに受けたら火傷を負うみたいだね」
爆炎と陽菜は数秒間打ち合いを続けていたが、わたしに気づくと打ち合いを終わらせて近づいてきた。
「どうしたの?」
陽菜の問いに対して先ほどの千里さんとのやり取りを話した。
「じゃあさ、少し剣の練習をしようよ。爆炎。練習用に刃引きされた剣を出してくれない?」
「···わたし、剣なんて持ったことないんだけど。それにあんな速さで動いたりできないよ」
わたしが必死に絞り出した疑問の声を聞いていなかったのか取り出した剣をわたしに向かって山なりにして飛ばしてくる。
それをエイルに減速してもらってなんとか受けとる。
「まずは素振りから始めないと。それに身体強化の魔法は別の人に指導してもらう予定だから」
「では私が指導いたしましょう。お嬢様もですよ。初心に帰るのはとても大事ですから」
爆炎がどこかにいこうとしていた陽菜を引き止めて練習が始まる。
「有里様、もっと姿勢はまっすぐ。それに刀が傾いています。まっすぐしないと破損の原因になりますから注意してください。お嬢様も軸がぶれないようにしてください!」
爆炎から基本的な刀の使い方や刀を振るときの構えなどをみっちり教え込まれ、ある程度の合格点をもらって鍛練が終了するとそのまま後ろの芝生に仰向けになった。
「思った以上にコツをつかむのも早くて筋がよかったですよ。この感じならばすぐに二級に到達するかもしれません。それに将来は特級も夢ではないでしょう」
「ありがとうございます」
特級がなん陽菜かはよく分からないが"特"というからには結構すごいのだろう。そう思ってありがとうと答えておいた。
「ところで有里は魔法を使ったりできる?」
「初級の初歩なら最近勉強したから使えると思うよ。結界術はエイルが知ってるから教えてもらえばある程度は使えるかな」
「じゃあ、鑑定魔法は使える?」
鑑定魔法は使ったことがなかったので取り敢えず首を横に振る。どうやら、属性を確認しておきたかったらしい。
わたしは知らなかったのだがエイルが使ったことがあるそうで、陽菜のお願いにしたがって魔法を使うことにしたようだ。
「解析鑑定」
エイルの言葉と共にわたしの目の前に光る板のようなものが出現する。
個体名:天草有里 属性:光、森属性
加護:森の加護
MP:142310(霊力)
能力:❬聖属性強化❭ ❬詠唱省略❭ ❬一心同体❭
※詠唱省略とは魂で理解した魔法術式や何度も使ったことのある術式の詠唱を大幅に省略するもの
個体名:エイル 属性:知、木属性
種族:中位精霊
加護:森の加護
MP:168730(霊力)
能力:❬魔法補助❭ ❬詠唱修正❭ ❬一心同体❭
※詠唱修正は記憶の中にある術式の詠唱の間違いを自動修正するもの
という感じだそうだ。ちなみに一心同体はエイルとわたしの思考や能力を共有する能力でわたしとエイルが契約統合したことにより名実ともに一心同体となったことで生まれた能力だ。これによってわたしはエイルの❬詠唱修正❭や精霊魔法を使えるし、エイルはわたしの❬詠唱省略❭を利用できるらしい。
解析鑑定で表示されている画面は陽菜たちには見えていないようでわたしとエイルに説明を求める。いち早く能力について理解したエイルが二人に説明を行う。
「へぇー、エイルは二属性で有里は三属性か」
「わたしは光と森の二属性だったけど?」
「確かに考えようによってはそうかもね。でも、森属性は木と陽の二属性が結合して出来たものだから君は三属性なんだよ。他にも陽属性はちょっと特殊な属性なんだけどそこら辺は今度聞きなよ」
陽属性の話は前に図書館で借りた本の中には載っていなかったので、光希さんに聞くか禁書庫の中の閲覧許可を得るしか方法がないらしい。
「聖属性強化というのも気になりますね。聖属性を持っているわけでもないのに発現する能力ではなかったはずですけど」
「それに関しては紫さんに聞いた方がいいと思うな。あの人も確か聖属性強化とか詠唱省略とかは持ってたと思うよ」
「ところで、この能力って増やしたり出来るの?」
「うん、出来るよ。運と意思の力と鍛練次第だけど」
陽菜の話によると、そもそもが最初から能力を持っていることの方が少なく、騎士養成学校や実務を通して獲得する人が大半で、貴重度が低い能力ならある程度は狙って獲得することも可能だそうだ。陽菜も爆炎も始めは持っていなくて、同じく蓬菊隊の隊員だった祖父からの指導を受けるようになってから発現したらしい。
先ほど話に出ていた紫さんたちは例外で最初からいくつか所持していたそうだ。
「陽菜はどんな能力を持っているの?」
「私も見せてもらったし、見せてあげるよ。情報開示」
情報開示とは解析鑑定よりも上位の解析系魔法で自分だけでなく相手にも情報を見せることができる。
陽菜が唱え終わったあとに、わたしの時と同じように光る板が出現する。
個体名:川岸陽菜 水、風、陽属性
種族:人間
加護:水竜の加護
MP:265694(霊力)
能力:❬毒生成❭ ❬毒耐性❭ ❬妨害耐性❭ ❬水属性強化❭ ❬瞬発力強化❭ ❬認識強化❭ ❬下位精霊召喚❭
個体名:爆炎 炎、魔属性
種族:半魔人(半精霊)
MP:197546(魔力)
能力:❬熱無効❭ ❬炎霊化❭ ❬魔法抵抗❭ ❬従属❭
※炎霊化は一時的に精霊と同質にすることで精神攻撃への耐性を引き換えにして魔法の行使力を大幅に増加する。
こんな感じでとっても強力だった。
そのなかでもエイルは特に陽菜の妨害耐性と爆炎の魔法抵抗は各々の能力に最適な能力だと思うそうだ。
何故ならば、陽菜の毒生成や精霊召喚は能力の発動までに時間がかかり、妨害される可能性がとても高い。爆炎の炎霊化の弱点である精神攻撃耐性の低下も、精神系攻撃は基本的に魔法なので、魔法抵抗の権能である程度は中和できるらしい。
わたしたちは魔法では省略や修正で有利だけど魔法抵抗を相手が持っているので優位性をそこまで持てるわけではなく、かといって近接戦闘では能力と技術の両面で圧倒的な格差がある。
聖属性魔法というのも、基本的には後方支援系が大半で直接的に相手をどうこうできるものではないそうだ。防戦をするならば幾分かいい勝負になるが今の技量ではそれも簡単ではない。
まぁ、敵な訳じゃないから別に勝てる必要はないんだけど。
「ところで爆炎の魔力量って何?」
「それは今度適任者に説明してもらった方がいいよ」
「そうだね。私が話を通しておくから他にも聞きたいことがあるのならそのときに聞いてくれればいいよ」
気配を絶って千里さんが後ろから声をかけてくる。陽菜もびっくりしていたのでこれが彼女の能力なのだろう。
「準備は終わってるよ。それに君たち以外はもう到着して待ってるんだから」
「じゃあ、早くいきましょうよ」
わたしたちは家に向かった。




