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ー#9 再開と再会

ー第二章完結ー



シイナ・フォークナーの執行が決まった。

ミッションは失敗だ。



昨日、俺がミモザの話をもっとたくさん聞いてたら。

何をされたか詳しく聞いてたら。

今朝までずっと一緒に居たら、学校に張り込んで怪しい人を見つけていれば。


探そうと思えばいくらでも俺ができたはずのことが浮かんできた。


昨日有綺さんに言われた「泰雅君のせいじゃない」の言葉といくらでもでてくる「たられば」で頭の中がごちゃごちゃだ。



俺は無意識のまま教室に戻っていた。

ハルとシイナとミモザがいない教室はすでに今朝の様子は跡形もなく、授業が再開していた。

…これもハルの手によってなされたことなのだろうか。


教室の後ろから入ってきた俺に注目が集まる。


 「どうした、ワトソン君。」

「すいません。迷っちゃって」


ここ数日で、とっさの言い訳がうまくなったと思った。

俺はそのまま席に座って授業を受けた。

昼休みを過ぎるとハルとシイナが教室に戻り、まるでいつも通りな授業が行われた。


帰りのホームルームが終わるとハルにアンサンブルの練習に誘われた。

言われるがまま音楽室につき、2人でピアノの前に座る。


「じゃあ」とハルが言った後ブレスに合わせて一曲二人で弾ききった。



ハルは大きく息を吸って俺に告げた。


 「真野ミモザが自殺したらしい。」


半日前、JUDGEが検知した情報だった。


 「今朝の騒ぎはタイガも見ただろ?」

「あぁ」

 「君に不安を話した翌日にこんなことになるなんてな。急に片付けられて授業が始まったから驚いたでしょ」

「…あぁ」


やっぱり片付けさせたのはハルのしわざか。


 「明日からもきっと、何事もないかのように学園生活が続く。…僕は間違ったことをしてると思うか?

 シイナに言われたんだ。『事なかれ』って。

 彼女が中学時代にやったことを評価されてるのと一緒で僕だって中学の時にやったことを評価されてここにきてるんだ。これが僕のやり方なのにな。


 端からそうやってバランスをとって役を与えられてたんだって改めてわかった。ひどい話だな。

 最初から彼女が、シイナが苦しい思いをする役割だ。」


ハルが話している話は、あくまでも学園全体とシイナについて。

死んだミモザの話はその付属物の様だった。

あんなに頼りがいがあると思っていたハルが少し怖くなった。



「…シイナは二人も人を殺した。いくら彼女が苦しい思いをしたとしてもそれは変わらないんだよな」


俺は、少しハルを試した。



 「…シイナは誰も殺してない。だって二人とも自殺だろ。シイナに責任があると思うんだったらそれは違うと僕は思うよ。タイガがどうしても自殺の原因を恨むならそれはシイナにそれをやらせた大人だし、学園だ。」


「そうなんだ。…俺もう帰るね。」


俺がここでできる事は、もう何もないと思ってしまった。



―――――


アリアケ大学のJUDGEの拠点に戻ると朝、姿が見えなかった蘭がいた。

そして一言。



 「一番最初に大変な仕事を任せてしまったね」


とだけ俺に言った。

昼のラジオでは昨晩のJUDGEの執行が3件あったと聞いている。


「よく言うよ」



 「…少し休む?」


「何か話があるなら今からでも聞くよ」


 「わかった。そしたら一回全員集合しよう。」



JUDGEのメンバー7人と俺、雄馬の9人が集まった。


蘭からの話の内容はこれからの方針についてだった。


 「今回の協力者制度でのミッションをいったんやってみて問題点を考えてみた。


 まず、ニューリドルとニューダイブに大量に取り付けられたカメラの中からレベル3を中心にランダムに表示されるモニタールームでレベル2やレベル1の人を都度サーチしてモニタリングするのはこの人数だと難しい。…執行者を増やさないためには協力者を増やすことが最優先だ。泰雅と雄馬にはその協力者たちをまとめる立場にいずれはなってほしいと思う。」


「俺は、ミッションを失敗したんだぞ…」


 「今回は特例だった。込み入った組織の問題まで把握できなかったこっちが悪い。次、また別の人を頼むよ」


…次と簡単に言われるとため息をつきそうで何とか抑えた。


 「これに加えて、

 モニタリングするメンバーと協力者でしっかり連携をとる

 決まった組織に潜入するのはできるだけ控える。するとしても経験値がある人から。

 対象以外と個人的な関係になることもできるだけ避ける。


 できるだけ深入りしない。これに尽きるかもしれない。

 今回はすまなかった。僕の読みが甘かったと思う。」


そういって蘭は頭を下げた。

俺は、別に蘭を責める気にはならなかった。


「蘭、」

 「何?」

「明日俺と雄馬休んでもいいか?」

 「わかった。」


「二人はもう帰ってもいいよ。昨日も遅かったし、あとは僕らで話をする」

 「ありがとう」


俺と雄馬はウルの楽器店に帰っていった。



その道中の話だ。


 「俺、アレン・リューの任務引き受けることにした」

「…いいのか?」

 「あまりにも簡単に人の死が決まっちゃうんだと思ってね。どうせ俺たちみたいな協力者ができる事は限られる。俺が何かしてもコンピューターはレベル3に引き上げるかもしれないし。『その時はその時』ってことをこれからやり続けなきゃいけないならアレンのミッションがその一発目なのはむしろいいかもしれないって思うことにしたよ。


 でもなによりも泰雅だけが大変な思いしてるのが辛いんだ」

「別に俺はいいよ」


 「…明日は何するの?俺と一緒に休みにしてくれなんて」

「雄馬と店番したいと思って」

 「…いいね。」



俺と雄馬は翌日、母さんと父さんに代わって店番をした。

相変わらず客は全然来なかったが、常連さんが数人だけ顔を出しに来てくれた。

店は数日しか空けていないはずなのに随分久しぶりな気がしてとても楽しかった。


その日は蘭からあの学園の転校の届だけ出せたとの連絡があった。


その次の日からは普通に協力者の任務が再開した。

アリアケ市で女子高生がJUDGEによって執行されたという放送を聞いたのはそれから一週間過ぎた頃だった。


それまでの一週間あの学園の様子がどうだったのか、『エース・フレックス』を一人失ったあの学園がどうなったか俺には知る由もなかった。


ただ、女子高生執行の放送を聞いてハルと最後にあった日に弾いたアンサンブルの発表の翌日だったとその時思いだした。



―――――


それから2年の月日が流れた。

どんどん拡大を続けた協力者は300人以上に膨れ上がった。


各市に散らばったJUDGEの協力者たちはモニタリングをしているメンバーの指示を聞きながら今日も任務に励んでいる。ニューリドルとニューダイブの二つの国も徐々にJUDGEと新政府軍になじんでいった。


俺も雄馬も一番最初の任務を終えてからいくつも任務を重ね、協力者の中の一番の古株として時々指示にも加わった。俺らは協力者の中でもメンターと呼ばれ、新人のサポートやJUDGEメンバーとのコミュニケーションの補助をしたりした。


2年間の任務の中でレベルを無事に下げたり外したりすることができた対象と結局レベル3に上がってしまった対象はちょうど半々ぐらいだ。最初はもっと悪い数字だったが徐々に改善して今の割合になっている。これからそれがより改善するかどうかはわからない。


そして、執行する蘭たちにも変化があった。

JUDGEが執行を開始してから1年くらいは凛奈と蘭が二人で執行を行っていたが、そこにケイが加わり3人でも執行を行うようになっていた。


あとから聞いた話だが、ケイは言葉がわからなかったという理由で最初は執行に参加していなかったらしい。



…ある日の夜、俺がアリアケ大の拠点に戻った時だった。

底にはJUDGEのメンバー7人と俺と雄馬、他にもメンター5人がミーティングの準備をしている時だった。



 「…よ、蘭」

 「久しぶり…蘭、みんな。」


聞きなじみのない二人の男の声に入口の方を向くと、俺と同じくらいの年齢の二人の男が立っていた。



 「シュウ……、黒……!」


蘭の方を見ると、蘭は口を押えて座り込んでいた。


他のJUDGEのメンバーも驚いた顔をしている。


 「二人とも、どうして…!」


一二三さんがその二人の元に駆け寄るとほかのメンバーも続々と二人の元に向かった。

蘭だけが腰を抜かして立てないでいた。


その二人が蘭の元に歩み寄んでしゃがみ、一人が動けない蘭に目線を合わせる。


 「…元気か?」

 「シュウ……」


そういって蘭はシュウと呼ぶその男に抱きついた。


思い返すと、俺と雄馬が初めてここに来た時にダリアにもJUDGEのメンバーがいると言っていた。…その人たちか?


 「黒、シュウ。お前らどうして…」


ベルさんが二人に問いかける。2人は黒、シュウという名前らしい。

立っている男、黒はベルさんの問いかけに答えた。



 「今日は……ダリアに何人か来てほしいと思って、その話をするためにネイヴに来た。」



また、大きく世界が動く予感がした。


改めまして、第二章完結です。

そしてこの作品がここで10万字を超えました。

無事にコンテストに提出できそうです。ブクマをしていただいている皆さん。読んでいただいたみなさんありがとうございます。これからも精いっぱい書きます!!!

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