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ー#5 初任務へようこそ


蘭は話を続ける。



「ならす?」


 「…いや、これは僕がやらなきゃいけない事か。『ならさないといけない』と言った方が正しい。この命を懸けてやらないといけない事。

 僕が本当にやりたいことは、無理やり変えられてしまったこの世界を僕が思う一番いい形でちゃんと着地させること」


「無理やり変えられたって、蘭たちは新政府軍だろ?変えたのはそっちじゃないか」



俺がそう言うと蘭はいつも着ているタートルネックの首元を開けた。

ここで迎えてくれた人たちと同じチョーカーをしている。


 「僕たちは新政府軍の捕虜として捕まったんだんだよ。首のこれは遠隔式の爆弾」


「爆弾!?」


 「大丈夫、新政府軍の目に障るような事をしなければ爆発しない。


 ここでゲリラテロがあってからパッと姿を消した人たちがいるだろ?その人たちは捕虜として捕まったんだ。


 僕たちはそこで緊急放送で言われてた『異能』を植え付けられたんだ。何も初めから持っていたわけじゃない。」


蘭は右手の手袋を外した。



―――――…!



すると蘭の右手からナイフが飛び出した。


 「これ、市長が殺されたときの…」


そういえば雄馬が解放されたとき、市長の身体からナイフがとびだしたと言っていた…。


 「そう。僕たちは捕虜として捕まったあとウル市の市長が吸ったものと同じものを吸わされて適応してしまった人間だよ。さっき紹介した一二三さんとベルはニューリドル出身、有綺さんはニューダイブの出身で同じく新政府軍に連れ去られた捕虜。」


「え?ほかの人たちは?」


 「僕たちはダリア、…泰雅たちの言うダーリアで連れ去られた。この話は長くなるからまた今度しよう。

 とりあえず、僕たち7人と、一緒につかまった今ダリアにいる10人で構成されるJUDGEという組織は『世界を変えられた側』の人間だよ。だから安心して欲しい…というか、勘違いをしないで欲しい。


 再び繋がってしまった2つの大陸をならさなければいけないなら、僕は1番いい形でそれに決着を着けたいんだ。そのために君たちに手伝って欲しい。」


「…俺たちに拒否権はないんだろ?」


 「あぁ。」


「何をすればいい」


 「僕たちがマークした人間に近づいてなんとかコンピューターにキャッチされないように考えや行動を正して欲しい」


「そんな簡単に行くのか…?」


 「やってみないとわからない。でも僕たちも全力を尽くす。無数に取り付けられたカメラの映像をを僕と凛奈とケイ以外の4人を中心に常時見張ってる。それを参考にうちのメンバーと協力身辺を調査して欲しい。」


「蘭たち3人は?」


 「僕たちは…執行部隊だからあまり長い時間見張ってられないんだ。」



ーーー執行部隊、という事はこれまで放送にあったJUDGEの被害者は確かに蘭たちによって手にかけられたんだ。



蘭は淡々と話をするけど、相手が犯罪者とはいえその手で何人も人を殺してきたんだ…。



 「君たちに頼みたい事、それはなるべく僕たちが人殺しをしないようにすること。…これに尽きる。」


力強い目で、蘭は僕たちにそう言った。



 「さっそくだけど初任務を君たちにお願いしたいんだ」


まだ戸惑う俺たちに蘭が告げる。

蘭に案内されたのは数十のモニターが並ぶ部屋。

それをJUDGEのメンバーが見張っていた。



 「執行対象者をレベル3としたときにその予備軍であるレベル2に含まれている40人。泰雅と雄馬は別々の対象を追って欲しい。まずはアリアケ市内の対象から始めようと思う。有綺さん、頼む」


 「はい。」


モニターの前に座る有綺さんがアリアケ市内の監視カメラをピックアップして映して話始めた。



 「泰雅の対象はシイナ・フォークナー。」


モニターに移されたのは制服姿の少女だった。


「この子がレベル2?」


有綺さんはうなずいて話を続ける。


 「この子はユーロ市内の名門高校に通う高校3年生。シイナはユーロにある元中央政府の議員の娘だ。彼女は校内でひどいいじめをしている。それにもかかわらず彼女の親が巨額の寄付を学校にしていることから教師も手を出せずにいるみたい。そして、そのいじめられている子っていうのが」



もう一人の少女が映し出される。控えめな見た目、丸眼鏡の少女。



 「真野ミモザ。同じクラスの女の子。小学校の時シイナと同じ学校に通ってて、中学校は離れてたんだけど高校でまた一緒になったところまではデータとして追えてる。ただそれ以上のことはわからない。泰雅にはその原因を探って状況を変えてほしい。


 彼女、大分追い詰められてて、…もしかしたら自殺を考えてるかもしれないの。まだ事例がないからわからないけど、もし彼女が自殺したらシイナが問答無用でレベル3になってしまうかもしれないし、見て見ぬふりをしていた周りの子たちや先生までレベルが付いてしまうかもしれない。だから、コンピューターにその前例を作らないためにもこの2人は救わなきゃいけないと思ったの。」




「なる…ほど」



そういいつつ自分が何をやったらいいかは全く思いつかなかった。


 「まぁ、作戦はあとで話し合いましょう。それまでは私が注意して見張っておく。次は雄馬の対象ね」



一方で雄馬の対象は中年の男だった。


 「…この人」


雄馬の顔がゆがんだ。


 「雄馬、この人知ってるの?」


蘭が雄馬に尋ねた。


 「アレン・リュー」


アレン・リュー…って、まさかそんな…!


 「そう、アレン・リュー。監視カメラで国内を網羅してから彼が起こしてきたことが『器物損壊』『速度違反』…飲酒運転の常習っぽいね。」


蘭が話すそのエピソードは俺にとっても雄馬にとっても身に覚えがありすぎた。



 「…雄馬?」



俺の隣に立っていた雄馬は…座り込んでいる。

雄馬は絞り出すように蘭に言った。



 「俺は、…こいつを生かさないといけないのか?」


「雄馬の両親は交通事故で亡くなった。二人を轢いた車を運転してたやつの名前が…アレン・リューだ。その時は車の故障による事故ってことになってたけど…俺たちはずっと、本人の過失だと言ってたんだ。でも何を言っても通らなかったんだ」



言葉を失っている雄馬の代わりに俺が蘭に言った。


 「…そういう訳か。リューは元中央政府の人間だった。泰雅たちが言ったことが通らなかったのはそのせいだろ」


 「人を、一人殺してるならJUDGEの執行対象だろ…。」



その、苦しそうな雄馬の声に誰も何も言えなかった。

それは俺だけじゃない、雄馬の当時の悲しみを知らない蘭や有綺さんもだ。



重たい空気の中、蘭が口を開いた。



 「わかった。雄馬の任務はもう少し考える。先に泰雅だけ動き始めよう。リューについては凛奈に直接見張っておいてもらう。…雄馬は部屋で休んでていいよ。」



蘭がそういうと、ケイさんが雄馬の肩を抱えてモニタールームを出ていった。



 「そしたら、先に泰雅の任務について話始めていいか?こっちは割と急を要するかもしれない。」



蘭が小さなカードを俺に渡した。



「学生証?」


そのカードには俺の顔写真と「第一アリアケ高等学園」の文字


「…もしかしてこれって」

 「泰雅にはこの高校に潜入してもらおうと思って。それが一番早いだろ。」

「俺もう21なんだけど大丈夫?」

 「僕にはそこは問題ないように見えるけど」



しぶしぶではあるがその作戦を了承した。それは明日から始まってしまうらしい。

ここのところ物事の動きが急すぎるような気がする…。

相変わらず俺たちに拒否権も何も無い。



別の部屋で休んでいる雄馬の元に向かうとケイさんが傍にずっといてくれたみたいだ。

そこはベッドと机が一つずつあるような質素な部屋だった。


 「雄馬」


雄馬は起き上がるととなりにいたケイさんに軽く会釈をした。


 「大丈夫?」


とケイさんが雄馬に聞いた。少しカタコトっぽい。


 「大丈夫です」


と雄馬が答えるとケイさんは部屋から出た。

俺は明日から始まる潜入作戦のことを雄馬に話した。



 「そうか…明日から。…俺はどうしたらいいと思う?」


雄馬が俺に聞いた。


「俺は…アレン・リューについては何の操作なしに、レベル2のままでも執行されていいと思っちゃうよ。これが新政府っていう組織の作戦の一部だったとしてもね。


ただ協力者もこれから増えるらしい、その人たちがリューを更生させるならそれを止めたりはしない。」


雄馬はうなずくだけだった。


―――――





俺たちはその後、アリアケからウルの店に戻った。

そして母さんと父さんにアリアケで公職を見つけてきたと言ってしばらく店を二人に任せることを言った。

雄馬もあとからその仕事に合流するかもしれないということも伝えた。


菜都もまだ大学に通っている。稼ぎ頭が増えた方がいいと俺が言うと父さんも母さんも納得してくれた。


翌日早朝、俺は一人でアリアケ大学の校舎の端の倉庫の地下・JUDGEの本拠地に向かった。


…数年ぶりの制服だ。


数年ぶりとは言え、俺がウルで通っていた高校と違いお金持ちの通う高校で身なりは全く違う。

明るい茶色のブレザーとスラックス。指定のローファーと革の鞄。赤いネクタイ。

背筋が伸びた。



有綺さんから聞いたその高校の住所に向かうと、いかにも高そうな車が何台も止まっていた。


校門から校舎に向かう道を歩いていると俺の前で車が一台停まり一人の学生が下りてきた。


…シイナ・フォークナーだ。


そのままシイナの後を追って校舎に入ると一人の教師が俺を迎えた。


 「タイガ・ワトソンさんですね。ようこそ、第一アリアケ高等学園へ。」


タイガ・ワトソン。それがここでの俺の名前だ。


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