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ー#4 真相と思惑

再編集 2021,10,21



「だから、俺を殺してこの町から出ていけ!!!!


 二度と父さんと母さん、…雄馬……菜都の前に顔を出すな!!!!」



黒コートは左手の手袋を外して、じりじりとつめよる。


もうだめだ…、と思った時だった。


黒コートがピタッと立ち止まる。

そして手袋を外した左手で耳の辺りを押さえた。



 「…了解」



そういってフードをばっと下した。



―――…女?蘭じゃない。。



女はあたりを見回す。誰か仲間がいるのか?



 「よかったな、“蘭”。ギリギリセーフ」


「ギリギリセーフ?」


すると物陰から見覚えのあるやつが出てきた。

…蘭だ。



「…蘭、お前。」



間違いない、河田蘭はJUDGEの一員だ。そして俺らを追い詰めたこの女も。



 「…ごめん。」


蘭の第一声は謝罪だった。



「どうして俺たちに近づいた?俺たちはここで殺されるのか?」


 「本当は君たちのことを殺さなきゃいけない。…でも殺さないで済んだ。泰雅、君が雄馬の元に現れたから。」


すると女の方が話し出した。



 「君が雄馬ブラウンの前に現れなければ、雄馬ブラウンを殺して蘭は君たち家族の元から姿を消す。

  君が現れて、かつ、新政府軍のトップから協力者制度の承認が下りれば君たちを新政府軍の協力者にしてこの場は終わり。そういう約束になってた。」



俺がこの公園で待ち伏せてなければ…そう思うとまた背筋がぞっとした。



「協力者制度…?」


 「死刑執行を行うためにJUDGEに協力する市民のことだよ。君たち二人をその僕たち二人の協力者にする。申し訳ないけど、君たちに拒否権はないよ。」


「拒否権はないって、そんな…」


 「君たちが協力者になれば生活に苦労することもない。家族は僕たちが守る。明日、新政府軍が新に公職を立ち上げるんだ。そこで仕事をするという体で家族に説明してほしい。」



生活に苦労することはない、という誘い文句はいつ活気を取り戻すかわからない楽器店の長男にはクリティカルヒットだった。

…なんにせよ蘭の話し方で“本当に”拒否権がないことがわかったため何も言うことができない。



 「明日、ここに来て」


蘭はそう言って紙を一枚、固まってしまっている俺の手に押し込んだ。


そして再びフードを深くかぶって夜の闇に消えていった。


真っ暗な公園に取り残された俺と雄馬はしばらく動けずにいた。



 「ごめん泰雅…」


しばらくすると泰雅が小さな声でそう言って俺に頭を下げた。


 「俺が勝手に出てって、蘭のこと調べて、だからこんなことに。…『協力者』なんかに」

「いや、…俺が悪かった。あんな言い方する必要なかったのに」


雄馬は首を振ってうつむく。



「どうせ、うちの仕事だけじゃこの先生活していけなくなってた。これはどうしようもないことだよ。蘭の話に乗ろう」

 「…うん。その紙見せて」



蘭が俺に渡した紙には住所が書いてあった。



 「アリアケ大学だ…。」



家に帰ると菜都が駆けつけた。



 「お兄ちゃん!今何時だと…。雄馬…」


「仲直りしたんだ。ごめん帰りが遅くなって…」


 「仲直りしたならよかった!テーブルの上にお夕飯あるから二人で食べな。私もう寝る」


「うん、ありがとう」



食卓には俺と雄馬、二人分の夕食が乗っていた。


 「おばさん、二人分作ってくれたんだ…」

「ね。…食べよう」


そして夕飯を食べながら、家のみんなに聞こえないように今日の出来事を話した。



「あ、…そうだ。雄馬の家のガラス割っちゃった…ごめん。応急処置はしたんだけど」

 「いいよ。もうほとんど家に何もないし、そのままで。」

「雄馬は、…今日何してたの?」


 「アリアケ大学で…蘭が来るかどうか調べてた」

「結局どうだったの?」

 「早い時間からずっと入口が見えるところで張り込みしてたんだけど、…蘭来なくて。

 でも諦めて校内を歩いてた時に蘭を見つけたんだ。朝早くから入口見てて入るところを見逃したことは考えられなくて。…よくわからないだろ?」

「蘭が明日会おうって言ったところがアリアケ大学ならJUDGEの本拠地が大学内にあるって事なんじゃないか?あそこ確かニューリドルで一番敷地面積が広い大学だからありえない話じゃない」


 「協力者のこと…おばさんたちに何ていう?」


「とりあえず、明日は二人で出かけるって言ってアリアケまで行こう。母さんたちに話すのはその後でいいと思う」



その日の夜は一日ぶりに雄馬と同じ部屋で寝た。



―――――



翌日、母さんと父さんを言いくるめて俺と雄馬は電車を乗り継いでアリアケ大学に向かった。


入り口には一見普通の大学生のような恰好をした蘭がいた。



 「おはよう。こっちだ」


蘭は俺たちに何も聞かずに大学内に入っていった。俺たちも後に続く。


蘭が立ち止まったのは大学内で一番小さな校舎の一階の一番端の倉庫の前。



 「この中だよ」


扉を開けるとそれは何の変哲もない倉庫だった。

散らかっているその部屋の中を蘭はどんどん進んでいく。


 「ちょっとそこに居て。」


そういって大きな段ボールを一つどかす。そこにはマンホールのようなものがあった。



 「この下が僕たちの基地になってる」



床のその蓋をずらすと地下にずーっと梯子が続いている。

蘭に続いて下に降りると広い空間にたどり着いた。

そこには昨日俺たちを追い詰めた女もいた。



 「みんな。連れてきたよ。」



ぽかんとしている俺たちのことを蘭がJUDGEのメンバーだと思われるその人たちに紹介する。


 「泰雅と雄馬だ。…君たちが初めての協力者なんだよ」


 「協力者制度の承認が間に合ってよかった。」

 「この人たちが楽器屋の…」


と蘭の周りに続々と人が集まってきた。


その人たちはそろって首にチョーカーのような機械を付けていた。


 「首の機械気になる?」


俺がじっとそれを見ていると、俺より少し年上のお姉さんがそれに気づく。

とてもやさしい雰囲気の人だ。


 「…そのことは後で二人に説明するよ。それからの方がいい」


蘭がそう言った。


 「先にみんなを紹介するよ。昨日僕と一緒に居たのが凛奈、その隣がダン、こっちがケイとベル、あと有綺さんと一二三さん。改めて、僕が河田蘭だ。」



全員で7人。…てっきりもっと大きな組織で俺たちを襲ってきたのはその中のわずかな執行員だと思ってた。新政府軍がやっていることの規模に対してこの人数は少なくないか?



「これで全員?」


 「あぁ。ネイヴにいるのはこれで全員だよ。…中を案内するね」



そういって蘭は俺たち二人を連れてさらに地下に向かって階段を下りた。

俺たちが梯子を下りて着いたのが地下1階でそこからさらに5フロアの計6フロア。

その地下3階から渡り廊下を渡って隣の棟にも合計6フロア設置されていた。

この二連になっている建物を「ツインケーブ」というらしい。



俺たちは入口がある棟の隣の大きな広間に案内された。


 「じゃあ、さっそくだけど…」

「ちょっと待って!」


いきなり話始めようとするから驚いた。…心の準備ができていない。

ここからの話を聞いてしまうと本当に後に戻れない気がした。

…昨日の夜の時点でもう戻れなかったろうけど。


 「どうしたの?」

「…心の準備が」

 「俺もまだ…」


雄馬も俺も大きく深呼吸をした。


 「いいかな?」


「「…うん」」


蘭は順を追って話始めた。


 「まず、ニューリドルとニューダイブを支配してから今日までJUDGEは公職が無くなったことによって解き放たれてしまった犯罪者を執行対象としてきた。支配地域内に一斉に設置された監視カメラによってこの国のどこで誰が何をしてるかはもうすでに筒抜けになっている。」


 「…そしたら俺たちがやることって?」


雄馬が聞いた。


 「今、僕たちがやっていることは後出しジャンケンに過ぎない。人を殺した人に対して、その人の命を以て償わせているだけ」


その話自体これまでのニューリドルの常識から逸していた。

犯罪者に対して死で償わせるなんて人道的じゃない。


 「これから僕たちがやりたいことはこれから人を傷つける人に対して制裁を下すこと。」

「そんな、…それはおかしいだろ。」

 「最後まで話を聞け、何も殺すと言ってるわけじゃない。だから君たちみたいな協力者を付けようとしてるんじゃないか。」


蘭はふぅと一息ついてまた話し出した。


 「新政府軍が望んでいることは『制裁を下す=死』だ。でも俺たちJUDGEはそれをしたくない。もちろんこの組織は表面的に見たら人殺し集団かもしれない。でも俺たちはなにも人殺しがしたくてやってるわけじゃない。今は、新政府軍のトップに対して俺たちが執行をやっていることを見せるための期間だ。


 協力者制度を使って、俺は『これから人を傷つけてしまう人』をそうさせないように変えること。

 執行対象者の判断はコンピューターが行う。だからコンピューターに見つかったら最後なんだ。

 執行対象者までは3段階ある。このシステムを稼働してから二つの国の人々を見張ってるけど、新政府軍支配地域の人口400万人の中で執行対象者の一つ手前のレベル2に入る人は10万人に一人の40人。レベル1に入る人ですら1000人いないんだ。


 これは…すごい数字だと思う。ネイヴが安全と平和の国だっていう事を身に染みて感じるよ。だから、まずはこの40人を守りたい。そして残りの1000人も、まだコンピューターにカウントされていない人たちも。そのための協力者だ。」


…まさかこの場で自分の住んでいる国を肯定されるとは思わなかった。



「蘭は、…結局何がしたいの?」


ふとそんな疑問を蘭にぶつけてしまった。

まっすぐな目でニューリドルとニューダイブを肯定し、国民を守りたいと、昨日俺たちを抹殺しようとしてる人間が言っていることに理解が追い付かなかったから。



 「僕は…この世界をならしたい。」



蘭は力強い目でそういった。

 






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