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ー#1 時代の目撃者




 「お兄ちゃん!お父さん、お母さん!雄馬が帰ってきた!!!」



俺は菜都のその言葉を聞いて部屋から飛び出した。


大陸歴2707年9月16日にニューリドルと隣国のニューダイブが謎の組織のゲリラ攻撃を受けてから27日。


家族同然の雄馬が彼らの立てこもりに巻き込まれたことを近所の人に知らされてから気が気じゃなかった。



―――雄馬が帰ってきた。よかった。…本当に良かった。



急いで階段をおり、楽器が立ち並ぶ店舗スペースに向かう。

南家の入り口は店の入り口と共用だ。



「雄馬!!」



一か月ぶりに再会する幼馴染は少しやせていた。

それ以上に、見たことのない表情をしていることに驚いてしまった。



 「…もう終わりかもしれない」


雄馬はぼそっとそうつぶやいた。

立てこもっていた郵便局で何かを見たのか、何に絶望したんだ…雄馬!



思わず雄馬の元に向かってぐっと抱きしめた。

すると安心したのか俺にすがるようにシャツを握り締めてきた。背中が濡れる。



店での騒ぎに父さんと母さんも降りてくる。


 「雄馬、帰ってきたのか!」

 「大丈夫?何か食べる?なにもされてないわよね?」


雄馬はしばらくは答えられそうになかった。



―――――



ゲリラの襲撃の日、俺と父さんは店に、菜都と母さんは買い物に出ていた。

襲撃の情報は市内の緊急放送で知った。

ウル市内のすべての公機関がジャックされたと知ってすぐに雄馬の顔が浮かんだ。



その日の夜は父さんも母さんも、もちろん俺たちも経験したことのない事態に眠ることもできなかった。

そして深夜、突然ウル市がニューリドル国政府から引き離されたとの放送が流れる。

その放送では引き渡された先が『ダリアの新政府軍』という事だけが告げられた。


やつらのいう『ダリア』が言い伝えの中の『ダーリア』なのではないかという話はすぐに上がった。

ただ、そんな伝説のような国が存在するのか、そもそも灰の海峡を渡らないはずだ、とウル市民は戸惑う事しかできなかった。



自分の住んでいる場所がリドルじゃなくなったことがどういうことか、俺は次の日まで理解することができなかった。



翌日、近所の商店のあちこちで窃盗騒ぎが起きる。

あっという間にウルでは『貨幣』が使えなくなったのだ。

それに窃盗があっても駆けつける警察もいない。わずかに対応してくれた警官もすぐに相手をしてくれなくなっていた。

窃盗騒ぎを聞いた父さんがすぐ店を施錠したので幸いうちには被害がなかった。



店を閉めるとじっとしていられなくて、わずかな可能性を信じて雄馬の家に行くと…やっぱり帰ってきていなかった。



それから27日だ。



―――――



雄馬が少し落ち着くと俺たち4人を前にこう言った。



 「もうすぐ緊急放送が流れる。攻撃してきたのは『ダーリア』の人たちだ。間違いない。ネイヴの人があんなことできるわけないんだ」


「あんなこと…って?」


 「市長が殺されたのは…外に居た人も知ってるの?」


「市長が…?」


 「ゲリラ襲撃の翌日未明、ニューダイブは襲撃があってすぐ降伏したのに対して、ニューリドルの市長はわずかに抵抗した。それで殺されたんだ。」


そんな…と菜都、母さんが手で口を覆う。


 「…新政府軍ってやつらに変な煙を吸わされたんだ。そしたら、体から…剣みたいな、ナイフみたいなのが飛び出して。…体の中からそれが、それで…ごめん…」



雄馬は顔を青くして項垂れる。



 「その映像が立てこもりの被害に遭った施設に送られてきた。『抵抗するな』って…」





――――― … !!



市内の緊急放送のチャイムが流れる。



『 … … … こちらダリア、新政府軍です。』



放送を聞くために俺たちは店の外に出た。

周りの商店や家からも不安そうな表情で人々が出てくる。



『現在、ニューリドル国の首都、ユーロ市にある中央政府局からニューリドル全土と同時にニューダイブでも放送しています。』



ニューリドル全土!?

ウル市の引き渡しに応じてニューリドル国自体は守られたんじゃないのか?



『…ふふっ』



…笑ってる?



『甘いなぁ…。甘いよネイヴ!こんな簡単によその人を中央政府にいれちゃったらダメだって!!』



笑ってると思ったら今度は怒鳴るような声。…狂気に満ちている。



『えー…ただいま、この時を以てニューリドル全土、及び、ニューダイブは智の大陸フジの技術大国〈ダリア・新政府軍〉の支配下になることとします。

 ここで!さっきこの国の首長じゃなくなった人から、最後の言葉を国民の皆さんへ。…どうぞ!』



すると、震えた声で首長が話始めた。



『ニューリドル国民の皆様。…この瞬間より、ニューリドルのすべての覇権をこの新政府軍に譲渡することになります。…これは、より多くの人の安全を守るための選択です。


 我々ネイヴの民は2707年前の悲劇を二度と起こさぬために平和を保ってきました。

 これは何があろうと恥じる事ではありません。


 …きっと、これから世界が大きく動きます。

 何があっても皆さんは、神のお叱りを受ける必要のない行動を心掛けてください。

 皆様ができるだけ平穏に暮らせることを、…前首長として祈っています』



―――世界が大きく動く。


その言葉に合わせるように空から何か振ってきた。



 「なにこれ?なんか書いてある」



どこからともなく何かが書いてある紙が降ってきた。

拾って広げてみる。



「 『JUDGE 始動』? 」



新政府軍からの放送が再開した。



『前首長、ありがとうございました。これより、新政府軍のニューリドル統治について説明させていただきます。


 まず、貨幣について。現在皆さんが使っているネイヴ共通貨幣をダリア貨幣に変えてください。

 各市の公機関に行けば交換してもらえるので。レートは特に文句が付かないようなものになってます。文句は言わないでください。余計な混乱は僕たちも望んでない。


 貨幣が交換できたら、各商店は通常通り営業を再開してかまいません。

 公機関以外は特に新政府軍から何か規制をしたりしません。好きにしてください。』



好きにしてくださいって…それじゃあ本当に貨幣が変わるくらいじゃないか。


この人たちの目的は本当に公機関だけなのか?



『それでは公機関について。


 まず、現時点のニューリドル、ニューダイブの公職はすべて廃止します』



…廃止?



『皆様の情報はニューリドル・ニューダイブ各国が保管しているものとこれから一斉に取り付ける監視カメラによってすべてデータ化し、コンピューターで管理します。これは人間の仕事ではありません。』



全て機械に任せるっていうのか?

そんなことが…これがダーリアの技術か…?



『管理するのは人間の仕事ではない。ですが、手を下すのは人間です』



…でも、全ての公職が廃止されるなら警察官も刑務所も裁判所もないはずなのに。



『新政府軍直轄組織・JUDGE。この組織こそがこれから皆さんの周りの悪を抑止する存在となります。

 

 組織の構成員は皆【人ならざる異能】を持ち、悪人をさばきます。

 善良な民には害のない、何も問題のない組織です。


 皆様には〈死んでほしい〉と思う人はいますか?

 深い傷を負わせた側の人間がのうのうと生きている、ということはありますか?』




雄馬の顔が少し曇った。




『JUDGEが下す罰は「死」のみ。前首長のいう通り、殺されたくなければ正しく生きましょう。

 こちらが罰を下す人物はコンピューターによってはじき出される人物のみ。

 新政府軍を攻撃しようとする人は滅されますが、それ以外に我々の私怨は関係ありません。

 

 じきにJUDGEが手を下し始めるでしょう。調べたければ殺された人の人となりについて調べればいい。


 最後に重要な事を一つ。


 JUDGEの構成員を炙り出すような事をするのは無駄ですし、皆さんの身が危険にさらされるだけです。

 その人がJUDGEだという事を知ってしまうと、それも執行対象になります。これは世界の均衡のため。余計な詮索はしないものです。


 では、皆さん。これまで通りの「平穏」な生活が送れますように』



同じ言葉でも、首長のそれと全く違う、新政府軍のやつのなんだか嫌味っぽいその言葉で放送が終わった。



―――――



それから数日は本当に忙しかった。


翌日からウル市の市役所には貨幣の交換に長蛇の列ができた。

俺と父さんも朝、市役所に向かったが、帰るころにはもう暗くなっているくらいで一日が終わってしまった。


そして、雄馬は仕事を失ったためしばらく家に住むことになった。



 「しばらくは何とか暮らせるぐらいの備蓄はあるけど…人が音楽をやるようになるまで時間がかかるなら新しく仕事を探す必要があるかもしれない。」


と父さんは話した。それでも親のいない家族同然の雄馬を見捨てることはできない。


JUDGEとやらの組織のおかげで商店の窃盗被害は聞かなくなった。

おかげで店も再開したが、店に活気が戻るのはいつになるのだろう。



一日、また一日とお客さんも来ないまま店を開けている日が続く。




そして、『JUDGE始動』の紙が配られてから2週間ほどたったころ。

俺が一人で店番をしている時間だった。



チリンチリン


と店のドアについているベルが鳴った。

…久しぶりのお客さん過ぎて「いらっしゃいませ」の一言が遅れた。



「い、いらっしゃいませ…」



常連さんか近所の人が様子でも見に来たのかと振り返る。



すると意外にもそこに立っていたのは俺か菜都と同い年ぐらいの青年だった。



 「…こんにちは」


「今日はどんな用件で」


 「少しお店見たいだけなんですけど…いいですか?」





その青年はまだ冬でもないのにタートルネックをを着て、


けがをしているのか、楽器をひくのに手を守るためか、革の手袋をつけていた。




第2章の1話を読んでいただきありがとうございます。

このお話に興味を持っていただけた方は是非第1章を読んでいただきたいです。


この章の中で登場する人物は一部前章から引き継がれており、それが物語の鍵となっています。


本日、10月13日中にあと2本投稿する予定です。

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