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#30 出発





俺たちはツインケーブの外に出た。

通信機を耳に付ける。


蘭の声が聞こえた。



 「こちら指令室、蘭。」



蘭の言葉にシュウが答える。



 「第一小隊・シュウ、クリア。黒、どうぞ」


ここは雰囲気で乗り切る。



「第一小隊・黒、クリア。烈、どうぞ」

 「第一小隊・烈っす、…クリア…。…次は誰っすか!?」


…落ち着け後輩。

シュウが一二三さんを指さした。


 「第二小隊・一二三、クリア。空、どうぞ」



と、こんな調子で最後尾のダンまで通信機のチェックが終わった。いよいよ森に突入する。


現場の指揮はシュウに一任されている。



 「ハンドサインは確認した?」



どうやら昨日の書置きは8人分用意したらしい。

8人がうなずく。



 「ぶっつけ本番で申し訳ないけど、今日はとりあえず第一小隊にある程度距離取りながらついてきて。凛奈は後方援護を。」

 「了解」




シュウが蘭に伝える。


 「指令室、指令室。第一小隊進みます」


 「指令室、了解」


シュウがまず一歩、森の中に足を踏み入れた。

俺と烈も後をつける。


烈も少しは落ち着いてきたようだった。



 「烈が真ん中、黒は後ろ。間はあんまり空けないで」

「はい」

 「はいっす」



森の中は木も草も生い茂っていて通りにくい。

俺たちはかき分けるように奥へ進んだ。



 「第一・シュウ、凛奈とれる?」


 「はい凛奈、どうぞ」


 「森の外見える?」


 「まだ見える。あと2メートル進んだら見えない。」


 「了解。じゃあここから東に回ります。」



そういうとシュウはダリア国軍のコンパスを見ながら東側に進んだ。



 「各小隊長、各小隊長。前後の隊が確認できる位置にいてください。早過ぎたら言って。」



了解、と凛奈と一二三さんの声がする。



この辺は特に何もなさそうだった。人がいそうな跡もないし、…虫は多いけど、動物はいない。




 「黒、第二小隊見える?」


後ろを振り返ると一二三さんの姿が見えた。


「見える。」


 「よし。もう少しペース上げよう。」



そういうとまた歩みを進めていった。

一二三さんも俺たちが通ったあとをついてくる。



しばらく進むとシュウが突然足を止めた。

掌をこちらに向ける。


止まれの合図だ。


俺も一二三さんに合図を出す。



「しゃがんで。…何かいる。」


そういうと、耳を澄ました。



 「奥の方だ。人じゃない。」



確かに森の奥の方でごそごそと音が聞こえる。およそ人間じゃないもっと大きな生き物だ。


シュウが辺りを見た。

森の出口はもう見えない。



 「奥進むのはな…」


通信機から凛奈の声がした。


 「どうした?」


 「何かいる。もしかしたら近くに動物の縄張りがあるのかもしれない。いきなり突っ込むのは危険だと思う。一回一番近い開けたところに出て体制を変えたい。ここをこのままにしておくのも意味がない。…蘭?」


 「聞いてたよ。」


 「一度森の外に出て体制を立て直してから凛奈と俺を中心にして少人数で少しだけ奥の様子を確認したいと思う」


 「了解。」



蘭が人差し指を進行方向と逆向きに振った。戻れの合図だ。


俺が一二三さんの元に向かおうと一歩足を出した瞬間だった。





―――ドンっ!!!!


という衝撃音と共に地面が揺れた。




「…地震か?」


 「どうした?」



蘭の声が聞こえる。それと同時にシュウが伝達を入れた。


 「全隊員、全隊員。動くな。音を立てないで。」




―――ドン、ドン、ドン



足音が明らかに近づいてきている。



森の奥の方から黒い影が近づいてきているのが見えてきた。



明らかにデカすぎる…!3メートル?いやもっとだ。5メートル以上あるぞ。



 「北西から超巨大生物が少なくとも1体。全長…5メートル以上。


 えー…」




黒い影はこの瞬間も近づいてきている。シュウは一瞬たりともその陰から目を離さないまま伝達をつづけた。



 「全隊員、全隊員。…今、俺たちが変に森の外に逃げるとこいつらの仲間もろともツインケーブまで襲ってくるかもしれない。ここで応戦する。」




―――――嘘だろ。出発して数時間。今日は初日だぞ…!




音と揺れが一瞬止まった。…俺たちを探しているのか?




 「指令室、指令室。こちら第一のシュウ。北西およそ200メートル先…サスカッチだ。」


 「サスカッチ…?」




その名前は聞いたことがある。深い森にしか生息しない二足歩行の猿のような生物。大きさは個体によって大分異なるというが、これは地面が揺れるほどの超巨大個体…!



2人が「サスカッチ」というその超巨大生物が再び歩き始めた。



 「第三小隊、第三小隊。こちら指令室。」


 「はい、第三。」


 「第二小隊と合流して、音のなる方向を左から回って。」


 「了解。」



蘭が凛奈に指示を出した。

するとそのあとすぐにシュウが動き始めた。



 「第一、右側から回ります。」


 「OK。」



そうして音の根源を左右から挟むようにそれぞれが移動した。徐々に距離を詰めていく。





―――――… …!




姿が見えた。



 「デカすぎる…」




5メートルなんかじゃない。もっと大きな…



 「猿って言っていいレベルじゃないっすよ…これ。」



烈の足が震えている。俺の足も…震えていた。




 「指令室、指令室。…シュウ、凛奈。姿は見えた?」


 「ばっちり見えちゃってるよ」


 「こっちも見えてる。」



巨大生物は少しずつ、少しずつ、周りを見ながら森の外の方に向かって進んでいる。

どうやら一匹の様だった。



その巨大な生物のせいで反対側にいる第二小隊と第三小隊の姿は見えなかった。

そして、蘭が意外な人物に伝達を飛ばした。




 「指令室、指令室。…麻貴?いいかな。」


 「…ぼくっ!…はぃ」



今にも消え入りそうな声だった。



 「君の異能は遠距離型だったね。…50m。行けそう?」


また自信がなさそうに麻貴が返す。

麻貴は俺と同じナイフを発現したが、俺たちとは少し違うとだけ聞いていた。



 「…やってみますぅ」



初対面の時に泣きじゃくってたやつが、こんなバケモノを目の前に…結構度胸のあるやつだ。




 「よし、そしたら第一小隊と凛奈、ダン、麻貴は対象の背後で合流。ゆっくりでいい。


 麻貴が届くところからでいい、どこでもいいからやつにナイフを当てろ。

 サスカッチは動きが鈍い、背後に気づいたと思ったら第一小隊と麻貴は森の出口の方に向かって思いっきり走れ。そこで凛奈とダン以外は合流して森を抜けるまで全員で走り抜けろ。


 麻貴のナイフだけだと足止めにならないかもしれないから時間差で凛奈が何かを当てる。

 それから森を抜ける。森の外で9人が落ち合ってくれ」



蘭の伝達の後俺たちはサスカッチの背後で麻貴と凛奈とダンと合流した。

麻貴の額には大量の汗が浮かんでいた。


 「俺たちが引きずってでもお前を森の外まで連れていく、思いっきり打て」


シュウはそういうと麻貴を一歩押し出した。


麻貴がナイフを発現している様子は誰もまだ見たことが無い。



 「ふぅぅぅぅぅ」



麻貴は大きく息を吐き、人差し指と親指を立て、拳銃で標準を定めるように対象の方にそれを向けた。






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