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#28 それぞれの前夜



夜、俺は新に2人部屋になったツインケーブの部屋のベッドで横になっていた。



作戦会議の後、各フロア3室・全15室しかない部屋を18人で共有しないといけないためにすぐに部屋決め会議に移行し、ベルさんとケイ、リブと瑛愛さんが同じ部屋で寝ることが決まったが残りの1ペアを決めるのに難航した。



 「朱里、一人で大丈夫か?誰か一緒の部屋になりたい人いたら…」


と一二三さんがいうと


 「別に大丈夫。僕だって一人の時間は欲しい。子ども扱いしなくていい」


とそっけなく返した。



というわけで公正公平なジャンケンで負けた人が一緒の部屋にする人を指名してその二人がペアになるという展開に進んだ。

その結果…




「なんで俺を指名したんだよ…」


 「逆にお前しかいないだろ。僕だってせっかくなら一人部屋が良かった」


「じゃあなんで負けるんだよ…」


 「そんなこと言われてもどうすることもできないだろぉ!」



流星が一人負けして俺を指名して2人部屋になってしまったのだ…。



 「明日からの作戦怖いか?」



少し一緒に過ごしてわかってきたが、流星はこういうことをずかずかと聞いてくるタイプだ。



「あぁ怖いよ。」



なんだか夜風にあたりたい気分だった。



 「ちょっと!どこ行くの」


「外」


 「僕も行く」



俺と流星は車に積んであったライトを手に昼間みんなで並んで座ったあの川の方へ向かった。

そこには先客がいた。



 「瑛愛さんに、有綺さん…?」



有綺さんの背中を瑛愛さんがさすっていた。



 「あぁ、2人も来たんだ。」


「有綺さん?」


 「ごめんね。ちょっと思い出しちゃって。」


 「いいよ。話した方がきっと楽だよ。しばらく一緒にいるんだし。」



同じフロアにいた瑛愛さんが泣いている有綺さんに気づいてここまで連れてきたらしい。


徐々に落ち着いてきた有綺さんが話始めた。



 「ニューダイブに子供と旦那が居てね。子供がまだ1歳になってないくらいで…」


 「男の子?女の子?」


 「男の子。私、内部警察の警官なんだけど、もとは国境警察官だって話したじゃない?」



…そういえば出会った時にそんな話をしていた。



 「結婚を機に夫が代々経営してるパン屋さんの近くの内部警察署に異動したの。襲われたときはちょうど訓練生の記録をつけるために国境付近の出張所を回ってて…。突然こんなことになっちゃって巻かれるようにここまで来ちゃったけど、すごい怖い。それでも生きて帰りたいからこの作戦に乗ってるんだけどね…」


「そうだったんですか」


 「ごめんね。黒くんなんか明日から先頭の一番小隊で戦いにいかなきゃいけないのに戦いに出ない私がこんなこと」


「全然。いいですよ。」


 「みんな混乱してるし、怖いし、どうしたらいいかわかんないよ。だから蘭の話聞いて、とりあえず前向いてるだけでしょ」


と瑛愛さんが有綺さんをなだめた。



 「それにしても、蘭とか凛奈ちゃんとかシュウはなんであんな冷静なんだろうね~。いつもレッダやスカイが話始めると、すぐに反応してさ。ああだこうだいったり、どうしたらいいとかこれは嫌だとか。私あの人たちが話し始めちゃうと口出せなくなっちゃうんだもん」



瑛愛さんが伸びをしながらそういった。



 「270年先にいるって言われると、僕たちが何考えても無駄なように思っちゃいますよね。ダリアの人はみんなああいう感じなのか、あの3人が軍出身だからああなのか。」


「新政府軍も、ネイヴの人間だけじゃなくてダリアの人間を巻き込んだのはそれが理由なんだろうな。俺たちだけをとらえたところで軍の戦力になるくらい強くなる前に戦闘で死ぬだろ。」


 「でも、だったらダリアの人たちだけとらえて異能を植え付ければよかったのに。私たちが向かうメトロポリタンの外側にも人はいるんでしょ。」


「それだと意味がないんですよ。あの人たちはネイヴという大陸自体を恨んでる。」


 「そうだった…」



秋風がヒューっと吹いた。



「きっと、ダリアの人から見ると俺たちみたいな人たちってすごく能天気に見えるんだと思います。争いのない場所で何の不安や恐怖も感じずに生きてきて、だからすごく弱いし、思考のスピードもダリアの人たちに比べて遅い。」



蘭から聞いた、学生時代の蘭とシュウの話。レッダの恨みと新政府軍の行動。

…彼らの目線に立つことは到底できないけど、ありったけの脳みそで考えるとそんな言葉になった。



何の気なしに流星が俺の言葉に返した。



 「もしかしたら『平和ボケ』ってそういう事なのかもな。もっと馬鹿にしたような皮肉っぽい言葉なんだろうけど。」


 「蘭やシュウや凛奈ちゃんも私たちの事、そう思ってるのかな」


「少なくとも蘭はそう思ってないとおもうけど…」


 「この間の話し合いの時も思ったけど、黒君って蘭君のこと随分信頼してるよね」



有綺さんが俺の方を見て言った。



―――――灰の海峡の傍で聞いた蘭の話、シュウが蘭に対していった『くそでかい正義』という言葉がすべてはまって俺の蘭に対する信頼になっている。



蘭がしてくれた話は瑛愛さんや有綺さんにまだ言ってはいけない気がした。



「少し聞いたんですよ。蘭の昔の話」



それだけ、2人に言った。


瑛愛さんも有綺さんも「そうなんだ」とだけ返してツインケーブに4人で戻った。



部屋に戻ると机の上に書置きが一枚置いてあった。当たり前だがこの部屋には鍵はない。



「何だこれ?」



その紙の左上には「黒へ」と


そして何パターンかのハンドサインの絵とその意味が描いてあった。





そして右下に小さく「シュウ」と書いてあった。





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