#26 私の名前
ダンが見つけた小さな川に足をつけると、とても冷たくて気持ちよかった。
水辺で涼んでいると一二三さんやフレッドもこちらに来た。
しぶしぶという表情ではあったがシュウや凛奈も結局来たみたいで、17人全員で川辺に水に足をつけて並んで座った。
「あ!凛奈ちゃんも来た!」
ダンは端の方に座る凛奈の隣に移動した。
―――――本当にこのメンバーでダリアのメトロポリタンへ…
「凛奈ちゃんとダンちゃんは前から仲が良かったの?」
瑛愛さんが二人に尋ねた。
「そうだよ。ここに連れて来られる前から一緒にいたの。ね!」
ダンが答える。
「凛奈は軍にいたんだろ?どこでダンと?」
と聞くと、凛奈はこう答えた。
「ダンとは軍のから逃げた先で会った。」
「私が住んでる街に凛奈ちゃんが来たの。」
「旧市街か?」
シュウが凛奈に尋ねた。
「そう。」
難しい顔をしているネイヴのみんなを見て凛奈が少しめんどくさそうに説明した。
「ダリアのメトロポリタンは200年前に政府がセンターコアを中心にして線を引いただけだから、その外側にはパーソナルキーも配られない実質無法地帯のような街が結構ある。ダンがいた町はほとんどスラムみたいなところだった」
「私はあの町嫌いじゃないんだよ」
凛奈の説明にダンが口をはさむ。
「ダンは毎回こう言うんだけど…。確かに悪くはないかもしれないけど、メトロポリタンとの行き来もできないから本当に貧しいし、ダンがいたところは読み書きができる人間がほとんどいない状態だった。私がダンと初めて会った時も、ダンが襲われかけてて、その時は軍の装備を持ってたから私が助けた。まぁ身一つでも助けに行ってたかもしれないけど。」
「凛奈ちゃんは命の恩人なの!」
ダンが話を続ける。
「私ね。せっかくみんなと一緒に過ごすなら私文字が書けるようになりたい!あと言葉もいっぱい知りたい!
小さい時から毎日やこといっぱいあってそういう事する時間なかったから。
私頭悪いし、みんなが話してることも正直…あんまりよくわかってないし、読み書きもできないし…
私の名前…高木・ロゼ・ダンっていうんだけどね。ロゼってお母さんの名前なの。
お母さんは、私を生んだ時に死んじゃったんだけど、お父さんがお母さんと私のためにそういう名前にしてくれたんだよ。だからね、私が自分の名前書けるようになったら、それはお母さんの名前も書けることになるでしょ!」
「そうね。とってもいいと思う」
有綺さんが優しい笑顔で答えた。
「私、教えてあげるの!」
「本当に!?」
リブがダンを連れて川をのそばの地面に木の枝で「高木・ロゼ・ダン」と書いた。
リブがその枝をダンに渡す。
俺にとってまるで不思議な、見たことのない光景だった。
14歳のリブが俺と同い年ぐらいの女の子に「字」を教えている。
シュウが凛奈に言った。
「実は俺と蘭もメトロポリタンの外で囚われたんだ。俺たちも軍から逃げてきたんだよ。凛奈とは理由は違うんだろうけどね。
おそらく、ケイもダリアの戦闘民族の居住地で囚われたんだろう。あそこは言葉が違うから。ダンもそうだけど、これから先に進むのにケイもあるていど言葉を覚えてもらった方がいい。もしかしたら戦闘民族がすむ場所を突っ切らなきゃいけないかもしれないから。蘭にも相談しよう」
「…新政府軍はメトロポリタンの外側でしかまだ活動してないのか。」
メトロポリタンの外で生まれ育ったダンとケイ。そしてメトロポリタンの内側で国を恨み、逃げた蘭とシュウと凛奈。
まるで世界の違う人たちが今ここで一緒に暮らし、世界を変えようとしている新政府軍と共にしている。
ニューダイブで囚われたときには想像できなかった展開だ。
俺はリブとダンが二人で話している所を見ながら、自分が置かれている状況の大きさを感じていた。




