#22 まるで神の仕業のような
「ポートでここに飛ばされた?…そんな馬鹿な話」
流星がレッダに疑心の目を向ける。
「な。俺もバカな話だと思ってるよ。まるで科学的じゃない。だからダリアの現政府はこのことを国民に隠してるんだ。メトロポリタンが形成された200年前からずっと。ダリアは科学技術がすべてだからね。僕もこんなことがあると知った時に驚いたよ。だけど科学に反しているものを、もうすでに一つ知っているじゃないか」
「『灰の海峡』か」
蘭が返した。
「あぁ、そうだ。『灰の海峡』も技術が発達したダリアでも科学的に証明されていない。勢いが衰えることなく四六時中流れ続け人々を遮るんだ。周りには風も吹いていないのにこれが許されるのならポートで送り込まれたと言って否定することもできないだろ。」
「どうして『新政府軍』は現政府が隠しているというポートってものの事を知っている?」
凛奈が問う。
「そんなこと少し考えればわかるだろ。センターコアの中枢に反逆者がいるからだ。そこで『灰の海峡』や『大陸のかきまぜ』が記された聖典を入手し、コピーした。
『一つ神の仕業を許すことは、百のそれを許すことになるから』
技術大国に非科学的な要素は国の発展の妨げになるという考え。
だからセンターコアの人間は聖典をずっと隠してきた。」
「センターコア?」
一二三さんが蘭に聞いた。
蘭は俺たちに昨日話してくれた、ダリアのメトロポリタンとセンターコアの役割などをみんなに話した。
「…と、ダリアのメトロポリタン内はそのセンターコアという建物の内部で働く官僚たちによってコントロールされているんだ」
「それで、内部の人間がそのすべてのシステムを壊そうとして作られたのが『新政府軍』か…」
「聖典の内容はネイヴの人たちは知っているだろ。ネイヴの言い伝えはほぼ100%の可能性でその聖典がもとになっていると思われる。ただ、ネイヴの言い伝えと明らかに違うのはダリアの聖典には詳細なポートの役割が描かれているっていう事。きっと昔のネイヴの人たちは奉納したものが突然消えたから神が受け取ったと思ったんだろうけど。それは割と自然な考えだ」
「その役割ってなんだ?」
「ポートは分断された『財の大陸・ネイヴ』と『智の大陸・フジ』を監視・観察する亜人の通り道として利用するものである。…ということ。」
レッダはにやっと口角を上げた。
「…もうわかるよね?」
あの白い煙を吸った18人全員の背筋が凍り付いた。
確かに怒りの感情は全員にあったが、常軌を逸した出来事に手も出なければ言葉も浮かばない。
「…僕たちのボスはね。“技術”という養分が過剰に染みついて腐っていったダリアのメトロポリタンを、その“技術”で亜人を再現することで成敗しようとしてるんだ。
あの白い煙はボスが直々に開発した、亜人を生み出すウイルスが組み込まれている。」
「亜人だと…」
蘭はぎゅっとこぶしを握り締めている。
「君だってあのメトロポリタンを変えたいんだろ、恨んでるんだろ。河田蘭」
やはりレッダは蘭のことを知っていた。
睨みつける蘭にかまわずレッダは話を続ける。
「人間の遺伝情報はね、全て暗号化されているんだ。」
地図の『ホログラム』を映していた機械にレッダが再び触れると
机には2本のリボンが絡み合ったような物体が浮かび上がった。
「その暗号はすべて解読されていている。だけど、人間が人間であるための情報は全体の2%しかないんだ。残りの98%はただの『ゴミ』だと思われていた。けど、その『ゴミ』の中から僕たちのボスはとんでもない『お宝』を見つけちゃったんだよね」
机の上に映し出された2本のリボンの一部が金色に光る。
「その『お宝』暗号を体のある組織がスキャンすると、体内で一時的に大量の未確認物質を生成することがわかったんだ。未確認物質はこれまで3種類見つかっていた。
一つは金属に似た物質、一つは筋繊維を刺激する物質これが君たちのナイフや超パワーの正体だよ。
そして3種類目。それは、
揮発性の毒性物質。これが、目に見える異能が発現しない流星やリブちゃんの体内で発現したものだ。
これは特に外傷もなくガスで死んでった人たちの血液から見つかった。」
レッダは話を続ける。
その目はまるで新しいおもちゃを見つけたときの子供のような目だった。
「この物質に体細胞が触れると普通では考えられないスピードで細胞が死に向かう。これだけを発現すると人間は生きていけない。
だけど、流星とリブから新たにもう一種類の物質が見つかった。
その4種類目の物質が、この細胞死を防ぐ物質だ。これを同時発現すると、人は生きていけることがわかった。君たち二人みたいにね。
…まぁとても体力を奪われるみたいだけど。
あの白い煙を吸って活性化した君たちの未確認物質を生成する細胞は、3,4種類目のものは恒常的に働いているっぽいけど、1,2種類目のものはどうやら自身の意識の下でコントロールできるみたいだからね。
これこそ科学技術が神の業に追いつこうとしている瞬間だ!
ボスの計画にぴったりだ…!」
ドンッ!と流星が机を叩いてレッダを睨む。
「僕たちが憎いか?…あぁそうだろうな。だが、俺たちの憎しみはネイヴの人たちも信じている神を冒涜し、封じ、自分自身の保身と発展に走ったセンターコアの人間たちだ。
憎むならそいつらを憎むんだな!!」
俺たちがいる空間には憎悪以外の感情はどこにもなかった。




