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#16 星の下



蘭の話のあと、みんなはバラバラになって眠りについた。



俺は、どうも眠れずに流星を誘ってもう一度地上に上がった。

蘭が話した戦争の話、ここが生涯立つことのないと思っていたダーリアだということ。そのすべてに理解が追い付かなかった。


俺と流星は荒れた地に大の字になる。

俺たちの西側では今も灰の海峡が轟音を立てている。



 「ちょっとぶっちゃけた話していいか?」


「…いいけど」



流星が話を始めた。



 「実は、俺ニューダイブ側から『灰の海峡』を見たことがあるんだ」

「え?」

 「…というか俺の配属先が『灰の海峡』だった」

「どういうこと?」



 「ニューダイブの警官って国境警察と内部警察に分かれてるだろ?でもあと一つ配属先があったんだよ。それが『灰の海峡』だって話」



ニューダイブという国はネイヴの端にある。

その外周は70%以上がニューリドルに、そして残りの30%が海に面している。


その中に『灰の海峡』が含まれていることは確かだが、あの辺りは人も住んでいる場所とは離れているし灰の海峡の特性上外部からの攻撃や侵入も考えられないが…


 「灰の海峡の警備は黒たちがいた支所と変わらない約10人くらいの編成。2年に一度主席の訓練生がそこに配属されるんだ。」

「…しらなかった」

 「本当はほかの人に言っちゃいけないからね。僕の両親も僕は内部警察として働いていると思ってる。」



「ちょっと待って、…てことはダーリアの新政府軍はどこから流星がいた寮を襲ったの?」



 「そこなんだよ。襲撃自体本当に一瞬の出来事で考える時間なんてなかったし、俺と一緒に囚われた人はもうここにはいないからそれがわからないんだ」

「俺たちが西南部支所からの連絡を受けて出動したときも一瞬の出来事だったからな。…でもあれは間違いなくニューリドル側からの侵入だった。」

 「俺がいた位置はニューリドルの国境から少し離れているしな…」



「…そもそも灰の海峡の傍で何の警備をするんだよ。守る人がいないじゃないか」



 「神の怒りだよ」


「神の怒り?」


 「言い伝えの中だと、大陸のかき混ぜを行った神は人間の形をした使徒をもっていて人々をネイヴの人たちの監視を続けていることになってるだろ。その侵入口が灰の海峡なんだよ。神の怒りに触れるとその使徒たちが攻撃を始めるかもしれないだろうって話」


「…それじゃあまるで今回の襲撃がその神の使徒の仕業みたいじゃないか」



すると、足元の方から俺と流星以外の声がした。


 「…ばからしい」




俺たちが起き上がると、そこには蘭が立っていた。



 「ネイヴの人たちはその年の一番優秀な警官を実体のない神のために使うのか」



なんで、蘭や凛奈の気配はここまでギリギリになるまで気づけないのだろう。



「どこから話聞いてたの?」


 「流星のぶっちゃけた話から聞いてたよ」



蘭はコンパスを取り出しランタンのような光を付け、俺たちの頭の近くに置き隣に寝転んだ。



 「そのコンパスってそういう使い方もできるんだ」

 「まぁな」



蘭が大きく息を吐いて目をつむった。


BB4で、俺たちに頭を下げたときは驚いたが、こう見ると普通の好青年だ。



 「蘭って歳いくつなんだ?」



流星が尋ねる。



 「19だよ」



俺らより年下じゃん…!!




 「嘘だろ…しっかりしすぎだろ…」


 「黒と流星は?」


「俺らは二人とも21だけど」



凛奈は蘭と彼女自身のことを『亡命戦士』と呼んでいた。

俺たちより年下で、ここまで国を恨んで家族の元を離れて亡命するなんて、生き方が全く違う。



 「二人とも僕より年上なんだ」



俺と流星は再び寝転んで満天の星空を見上げた。


しばしの沈黙が流れる。


流星がすこしためらって蘭に聞いた。



 「蘭さ、さっきなにか言おうとしてやめたことあるだろ」


 「…」


 「僕たちに頭下げたの、自分の“国”が加害者だからってだけじゃないだろ。凛奈が言ってた『蘭と同じ考え』っていうのも何か引っかかる。」



蘭は少し都合が悪そうに返した。



 「…お兄さんたちには言いづらいな」

 「おぃ、お兄さんってバカにしてるだろ」



ははっと蘭は年相応の軽い笑い声をあげた。


流星は起き上がって蘭のことを見て言った。



 「僕、一つ気になることがあるとダメなんだよ。これからダリアのメトロポリタンに向かう道中、ずっと蘭は何を隠しているんだろうっておもってしまう気がする」


 「本当に、ネイヴの人たちには申し訳ない話なんだ」


 「それでいい。」



蘭もがばっと体を起こして重い口を開いた。



 「新政府軍を名乗るやつらがダリアの人間であることは確か、そして多分僕のことを認識している。レッダの目を見たらわかる。…多分、パーソナルキーシステムに入り込めているんだと思う。

 そして、もし彼らの目的が本当にパーソナルキーシステムの崩壊なら…」



蘭はなぜか泣きそうな顔をしていた。



 「…僕は、きっと“喜んで”ダリアのメトロポリタンに向かう作戦にのってしまうんだ…。黒や流星たちがこれに巻き込まれたことは不幸なことなはずなのに、リブや朱里みたいな子供たちまでもが巻き込まれているというのに」



考えたくなくなるくらい、とても複雑な話だった。



 「僕はダリアという国も、そのシステムも、それを司っている父さんみたいなやつらも…大嫌いだ。嫌気がさして逃げ出してきたんだ。ずっと…無理なことだと頭では理解してるけどそれをすべて変えたいと思って生きてた。

 そんな矢先、これに巻き込まれた。メトロポリタンにいるときはこんな組織があることなんて知らなかった。でも国に反感を持つ人が多いことはわかってたからすぐに腑に落ちてしまったんだ。

 これから、本当にダリアという国を、…それと世界を…変えられる。…変えたいと、思ってしまうんだ」



蘭の表情は苦しそうでも言葉の通り少し前のめりで、…でもやはり苦しそうだった。




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